NEWS2020.04.06

ファッション

引きこもりを抜け出すきっかけに - 緊張感和らげる一着を考案

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  • 京都芸術大学 広報課

手のひらサイズのグレーの生地に、タオル素材であしらわれたウサギ、ネコ、クマ。両端のファスナーを使って専用のスエット上着のポケットに装着すると、どこにでも縫いぐるみを持ち運べる服の完成です。

制作したのは、京都芸術大学空間演出デザイン学科ファッションデザインコース4年生の松崎雛乃さん。引きこもり生活を送ったことがある自身の経験を踏まえ、かつての自分と同じ境遇で苦しんでいる人たちのために、外出のきっかけとなる服をつくろうと考案しました。外出先でその場から逃げ出したくなるくらい緊張したとき、そっとポケットに手を入れて縫いぐるみを握りしめる。そうすることで心が落ち着き、緊張感が緩和されるといいます。

専用のスエットを着て、縫いぐるみを紹介する松崎雛乃さん

松崎さんは高校2年生の秋、うつ病を発症し引きこもり生活となってしまいました。高校を中退し、コンビニに買い物に行く程度しか外出しない生活が3年続いたそうです。そんな中、インターネットで購入した花柄のワンピースを着たとき、思っていた以上に気に入り、心が軽やかになりました。

「外で着てみたい」

この服がきっかけとなり、徐々に外出ができるように。高卒認定制度を利用して京都芸術大学に入学しました。

「これだけ世の中に服があふれる中で、なぜあなたが服を作るのか?」。講義で何度となく投げ掛けられてきた問いに向き合ったとき、一着の服によって外出できるようになった自身の経験が浮かんできました。

「引きこもりの人が外に出られるきっかけになる服を作りたい」

まず、縫いぐるみの形が表面に浮かぶ服を試作しましたが、滋賀県ひきこもり支援センターの利用者へのアンケートから機能性を重視した目立たない服が好まれていることが分かり、デザインを変更。スエットの上着のお腹部分に設けたポケットに縫いぐるみをしまい込め、服と縫いぐるみを一体化できる仕様にすることで、周囲に知られずに縫いぐるみと一緒に外出できる服を生み出しました。

「一人じゃない」。不安や緊張に駆られたとき、動物の手を握ることで、心を落ち着かせることができる

外出時に不安や緊張を感じてしまったとき、頼りがいのある相棒が、いつでも自分の一番近くにいてくれます。ポケットの中に忍ばせた縫いぐるみをギュッと握りしめ、緊張をほぐせます。手汗が出ても素早く吸収できるように動物の耳や手はタオル地にしており、目や口は敢えてデザインせずに、縫いぐるみを持つ人が表情を想像できるようにしました。どんなズボンやスカートにも合うように色はグレーにしていますが、袖口などは白色にして明るくみえるようにしています。

「服には人を外出させられるだけの力がある。服を選ぶことすらストレスに感じる人にとって、これを着ていれば安心という一着を作りたかった」と松崎さん。2019年秋の学科展で好評を博し、2位となりました。

活動は単に自身で制作することにとどまりません。「まわりまわるプロジェクト」と銘打ったプロジェクトをスタートさせました。クラウドファンディングで材料費を集め、引きこもりからの克服を目指す人たちを対象にしたワークショプで縫いぐるみを制作し、一般に販売するという活動です。

「引きこもり生活を送る人は『誰の力にもなれない』『自分の味方なんていない』と思ってしがいがちですが、このプロジェクトを通して作る人は『自分が誰かのためになれる』、買う人は『自分を支えてくれる人がいる』ということに気づくことができる」。プロジェクトの意義をこう説明します。1月下旬には滋賀県ひきこもり支援センターでワークショップを行い、高校生から30代の男女7人が一緒に縫いぐるみを作りました。

自らセンターに働き掛けてワークショップを開催した理由について「ワークショップを計画すれば、引きこもりの人が外出するためのきっかけになり得る。そこではいろいろな人の手で縫いぐるみが生まれるので、ポーズが違う個性的な作品になる」と話します。

松崎さんが作ったものとワークショップで作ったものを並べると、わずかなポーズの違いが感じられる

「ひなしゅしゅ」というブランド名で、スエットの上着と縫いぐるみ、縫いぐるみを装着できるキーケースの3点セットにして、2月下旬からショッピングアプリ「BASE」で販売しています。1セット6500円で、収益は同センターに寄付しており、既にワークショップで制作した商品も売れています。

「ひなしゅしゅ」の収益は滋賀県ひきこもり支援センターに寄付される
専用のスエットを着ていなくても、ファスナー付きのキーケースに取り付けることで一緒に持ち運べる

「いろいろな人からありがとうと言われたり感謝の言葉を掛けられたりするので、この活動で自分が一番力をもらっている。これまで、引きこもりだった過去は嫌な思い出でしかなかったが、『この経験があったからこの活動ができている』と自分の過去を肯定できるようになった。私が誰かのために活動することで、その人も誰かのために力を与えられる、といった良いサイクルになってくれるはず」

笑顔でこれまでの活動を振り返る松崎さん。今後は他府県でも「まわりまわるプロジェクト」を実施したいと意気込んでおり、既に打診も寄せられているそう。引きこもりへの偏見をなくし、正しく理解してもらうために、引きこもりではない人を対象にしたワークショップも開きたいと言います。

「まわりまわるプロジェクト」の今後にぜひ注目してください。

「ひなしゅしゅがきっかけで自身の過去を肯定できるようになった」と話す松崎さん。かつての自分と同じ境遇で苦しむ人たちのきっかけを作るために、活動を続ける意気込みだ

 

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