REPORT2020.02.06

京都アートデザイン

「アートの価値」は誰が決める?ブロックチェーンと挑む“アートの民主化” – 椿昇×ウスビ・サコ×施井泰平

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  • 京都芸術大学 広報課

(文:藤田祥子)

ブロックチェーンをはじめとする先端テクノロジーが、アートにどういった影響を及ぼしていくのか。また、アーティストは世界に向けて何を発信していくべきなのか。京都から、今後のアートシーンを思考するトークイベントが、engawa KYOTO にて開催されました。

ブロックチェーン:ネットワークに接続した複数のコンピュータによりデータを共有することで、データの耐改ざん性・透明性を実現する仕組み。特定の企業や団体がデータを管理していた、従来の仕組みとは異なる。

登壇したのは、ブロックチェーンを活用してアート作品を自由に売買できるプラットフォームを展開しているスタートバーンの施井泰平さん、アフリカのマリ共和国出身で大学改革やダイバーシティを推進する京都精華大学学長ウスビ・サコさん、ARTISTS’FAIR KYOTOをはじめアートのあたらしいマーケットを切り拓こうとしている本学椿昇教授(美術工芸学科)。トークイベントの冒頭では、施井さんが進めるアート×ブロックチェーンについて語られました。

※ARTISTS’FAIR KYOTO
アーティストが企画、運営、出品する全く新しいスタイルのアートフェア。過去最多60 組を超えるアーティストが出品。名和晃平、塩田千春、加藤泉等がアドバイザリーボードとして参加している。
ARTISTS’ FAIR KYOTO 2020
日程:2020年2月29日(土)、3月1日(日) ※28日(金)は特別内覧会を開催
会場:京都府京都文化博物館 別館 / 京都新聞ビル地下1階  
https://artists-fair.kyoto/

もともと油絵専攻の美術家でもある施井さんが、かねてからテーマとして掲げていたのが“テクノロジーを活用したアートのためのインフラ”。アートのマーケットは、普通のマーケットと価値の流れが逆。作品が売買され、人の手に渡れば渡るほど価値が高まっていきます。アーティストのプロフィール、どんな人に買われてきたか、どこで展示されてきたか。こうした情報が作品の価値を高めていきます。しかし、こうした作品の動きを管理することは難しく、贋作や情報操作が生まれる危険性もあります。このためアート作品は、社会的地位の高く信頼関係のある、一部の人々の中だけでしか流通してきませんでした。

「若手や無名の作家が台頭するのは難しい世界。ハードルの高さ故に、広がりが見えないと感じていました。もっと流動的にアートを動かしていくには、価格決定の仕組みを根本から変える必要があると感じました。初期販売が作家自身の思う価格でなくても、二次販売、三次販売の段階で還元金が戻ってくる仕組みがあれば、敷居は下がる。もっと活発にアートが動くようになると考えました」。

これまで明確に記録されてこなかった、還元金や作品の価値を証明する情報を登録。ブロックチェーンの技術を活用することで、それらがネットワークを通じて必要に応じて参照が可能となる。さらに他のサービスとも連携できれば、別のサイトで作品が売買されてもその動きを管理することができ、アーティストへの還元金の徴収も可能になります。

施井さんによるブロックチェーンとアートの話が進み、サコ学長と椿教授が登壇。トークセッションがスタートしました。

まずは「“アート”を行う上での京都の立ち位置」について、サコ学長と椿教授に問いが投げかけられました。

「まだまだアートシーンの中心は欧米です。中国もがんばっていますけど、今は過渡期。世界のお金持ちたちは新しいアーティストに投資しようとしていません。これまでにない切り口の作品や若手作家は埋もれるばかり、これは危機的状況です。一方で、Instagramで作品が売買されたり、寡占的な状況が動き出そうとしているのも感じる。だから施井さんの話を聞いたとき、可能性があるって感じました」と、椿教授。

建築学科出身でコミュニティデザインや都市計画を専門とするサコ学長は、ローカルという切り口で京都を捉えます。「京都に期待できるのは、さまざまな人たちが行き交う都市というところ。伝統的だから保守的と見られがちかもしれませんが、多様な変化を受け入れてきたからこそ長く続く伝統や文化が京都に根付いています。そして中心を揺るがすような大きな変化は、いずれもローカルからはじまります。マーケットをシフトさせていく、その力が京都にはあるはずです」。

話題は、アートとテクノロジーの関わりに発展していきます。「裏千家と表千家の違いって素人にはパッと見わかりません。けど、その道の人はふくさをシュッと手にした所作だけで見抜ける。とことん習得しないと、見えてこないのが文化です。知識や教養、さらに哲学といった考える力は、テクノロジーとアートが発展していく中でますます重要になっていきます」と椿教授。

サコ学長はテクノロジーをどういった価値観で使っていくか、考えを持たなければならないと話します。「技術が進むことで考えるプロセスがどんどんカットされます。素材はなにか、どんな工程でつくられたのか。そこに考えがなければ、その作品が問うものがみえることはありません」。

同じく椿教授も「常に問いをたてること」が作品たらしめると話します。「問いが作品に現れないものはただの装飾品。禅も常に答えがないからこそ、問い続けられますよね、永遠に出ない問を考えるうちに、複雑なことを考えられる頭にフェーズが上がっていくんです」。

会場からも質問があがります。「人間は遊ぶために生きているのでしょうか?それとも働くためでしょうか?AIが仕事をうばうと言われていますよね、生きる術を失う人もいると。でもAIが仕事して稼いだお金で好きなことを仕事にできるんじゃないかって思うんです。遊ぶということ、働くということ、どう捉えていらっしゃいますか?」

「AIから仕事が奪われるというのは、AIでもできることをそのままやっているだけです。手を動かしていることが仕事になっているのなら、AIに渡してしまえばいい。私たち人間そのものを、どう成長させるのか。それをあきらめてはいけないと思っています」。AIのお陰で手が空いたなら、その時間を使って“考える”ことができる。人間が人間らしく思考することこそ大切とサコ学長は話します。

「心配なのは人間って完璧ではないから、AIに任せれば世の中うまくいくんじゃないかってみんなが思ってしまうことです。政治や行政を全部渡してしまったら、どうなるのか。人間が人間をやめてしまう日がくるのではないかと。もしもAIによって時間が得られたのなら、なにもしない意味のない時間を大切にしてほしい」と椿教授。安直にテクノロジーに任せるのではなく、踏みとどまり問い続けることが重要だと答えました。

最後は、「人間が人間らしくあるためには」という生き方にまで話が及び、2時間のトークセッションが終了。新しいアートの世界が垣間見え、今後のブロックチェーンの展開に期待の高まる時間となりました。

中村弘峰
不動如山(うごかざることやまのごとし)
https://www.b-ownd.com/works/225

ノグチミエコ
富士百景 海龍
https://www.b-ownd.com/works/415

市川透
木花咲耶姫
https://www.b-ownd.com/works/420

会場では施井さんが代表を務めるスタートバーン株式会社主催の「富士山展3.0」が開催。毎年年始に企画されており、今年で4年目。全国20カ所でサテライト展が同時開催されています。若手現代美術作家の最新作から伝統的な浮世絵まで、「富士山」をテーマにした作品が集まりました。サテライト展の展示作品は選抜され、セレクション展が2月2日から8日まで開催される予定だ。この展覧会の展示や販売の履歴もブロックチェーンに記録されます。

 

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