REPORT2020.01.30

アート

別府のスターバックスに巨大彫刻が ―卒業生のアートが新風を吹き込む

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  • 京都芸術大学 広報課

(メインビジュアル:【左から】桑原ひな乃さん(美術工芸学科卒業生)・店舗設計を担当した柳和宏さん(スターバックス コーヒー ジャパン)/【中央】彫刻作品『07 11’18 - 02 08’19』)

スターバックス コーヒー ジャパンが大分県初の公園内店舗として昨年12月にオープンした「スターバックス コーヒー 別府公園店」に、京都造形芸術大学 美術工芸学科の卒業生・桑原ひな乃さん(2019年卒)の彫刻作品『07 11’18 - 02 08’19』が恒久展示されました。

同社では、都市型店舗、郊外型、ドライブスルー型など日本の各地域の特性に合わせた店舗づくりをしていることで知られていますが、日本の各地域の象徴となる場所に出店し、文化を世界に発信する「リージョナルランドマークストア」と呼ばれる店舗や、地域の歴史や伝統工芸、文化、産業の素晴らしさを再発見し、地域へ絆を感じられるよう、様々なローカルのデザインエレメントを取り込んだオンリーワンなデザインがなされた店舗も活発に展開されています。

昨年12月に大分県別府市に新店オープンしたこの別府公園店のデザインにも様々な地域性が反映されています。

別府の伝統工芸である竹細工の職人が手がけたオリジナル照明、市内で活動するアーティストの作品の展示、地元の木材を使用したコミュニティテーブルなど地元オリジナルがつまった魅力たっぷりの別府公園店ならではの店舗空間となっています。なかでも入口すぐの壁面に展示され直径2メートル強の大きさの桑原さんの彫刻作品は、まるでモニュメントのように独特な存在感を放ちながらも、お客さんがコーヒーや会話を楽しむシーンにうまく溶け込んでいます。

 

2019年の春に発表され、卒業制作として作られたこの彫刻作品がスターバックスの新店を飾るに到るまではどのような経緯があったのでしょうか?

この店舗の設計デザインを担当した柳 和宏さん(スターバックスコーヒージャパン 店舗開発本部 店舗設計部)に桑原さんの作品との出会いをうかがいました。

柳さん「別府に新店舗をオープンするにあたって、地域がもっている豊かな文化をどのように表現していけばよいか?空間を作る上でやはりアート作品を取り入れたいと考えていたところ、「京都BAL店(*2)」のアートディレクションを名和晃平さん(大学院芸術研究科 教授)が率いるSANDWICHに担当いただいたきっかけもあり、教え子の桑原さんをご紹介いただきました。」

スターバックス コーヒー 京都BAL店

(*2:名和教授が主宰をつとめるクリエイティブプラットフォーム「SANDWICH」がアートディレクションを担当した「スターバックス コーヒー 京都BAL店」では、京都で活動するアーティストの作品、約80点以上をところせましとならべ購入も可能という若手アーティストを支援する仕組みが大きく注目を集めました。本学卒業生アーティストたちの作品も多数起用されています。)

柳さん「ちょうど京都造形芸大の展覧会「KUAD ANNUAL2019 宇宙船地球号」(*2)が上野の東京都美術館で開催されていたので、そこに伺い、はじめて桑原さんの作品を拝見したのが最初でした。」

(*2 森美術館館長の片岡真実教授がキュレーションをつとめる卒業展の学内選抜展。公募から選ばれた23組の学生がアート作品を展示。)

「KUAD ANNUAL2019 宇宙船地球号」東京都美術館での『07 11 ‘18 - 02 08 '19』展示風景

制作風景。鉄をひたすら溶接していきます。

柳さん「京都BAL店でも色々なタイプのアート作品を展示していますが、ここまで大きな彫刻作品を展示したことはなかったですね。店内に展示するにあたって、当初拝見したようなアート空間とは異なるので商業空間に展示するにあたって桑原さんには色々事前に設置の準備や調整をお願いしたり実際の設置も一緒に立ち会っていただきました。店内に置かれるまでのプロセスをアーティストと一緒に行うことで、これからの経験値としていただければと思っています。」

 

卒業制作で仕上げたアート作品が今回スターバックスのようなグローバル企業であり、かつ商業空間に展示されるといったケースは、学生にとっては大きなチャンスにつながります。桑原さん本人はこのチャンスをどう捉えたのでしょうか?

桑原さん「わたしは大分に住んでいた高校生の時からずっと学校の先生になりたいと思っていたんです。でも大学で制作をしていくにつれ、やはり作家として制作が続けたい気持ちもあって。実は東京都美術館での「KUAD ANNUAL2019」の時にはすでに教員の内定もいただいていたのですが、スターバックスさんから声をかけていただいたこともあり、とても悩みましたが辞退させてもらい、現在は鉄工所で働きながら自分のアーティストとしての活動を続けています。進路を変えたことはすごく大きな決断でしたが、今は仕事と創作のぺースも少しつかめるようになってきたところなので、もっと精力的にやっていこう!とより燃えています。こうして展示も無事叶い、ほっとしていますが、”ここからがスタートだ”という気持ちですね。」

柳さん「学生を含めて才能あるアーティストはたくさんいるけれど、日本では活躍の機会が限られてしまうことが多いですよね。僕たちのように企業側もアートを積極的に支援していく動きが増えていくといいなと思っています。彼女のような若いアーティストが今後活躍していくのと一緒に、この新しい店舗も地元に愛される、必要とされる場所として成長できたらいいなと思います。

金属のもつ風合いや痕跡に、そこに宿る記憶や人間の営み、時間の蓄積をコンセプトに制作された桑原さんの作品とともに、この新たな場所にこれからどんな年輪が刻まれていくのだろうか。今後の展開がまた楽しみです。

そして、桑原さんも足がかりとした次世代のアーティストたちの第一歩となる展覧会「KUAD ANNUAL2020」が今年も開催されます。ぜひこちらもご来場ください。

展覧会「KUAD ANNUAL2020 フィールドワーク:世界の教科書としての現代アート」

森美術館館長 片岡真実がキュレーション。京都造形芸術大学の学生選抜展が東京と美術館で開催。

会期 2月23日(土)~26日(水) ※会期中無休
  9時30分~17時30分(最終入場時間17時)
会場 東京都美術館 1階 第2・第3展示室
(住所) 〒110-0007 東京都台東区上野公園8-26

https://www.kyoto-art.ac.jp/kuadannual2020/

 

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