2015年から5年連続で、QS世界大学ランキングのアート・デザイン分野でナンバー1に選出されている「Royal College of Art(RCA/英国・ロンドン)」。世界最高峰の芸術系の大学院大学が提供するイノベーションワークショップ「Executive Education」を実際に体験できるイベントが9月5、6日、京都造形芸術大学で開かれました。5日の「Wellness社会とこれからのイノベーション」と題した基調講演では、RCAのジュレミー・マイアーソン教授が高齢化社会におけるデザイン思考の重要性について話されました。
RCAは1837年に設立された国立美術大学。企業幹部向け研修プログラム「Executive Education」を実施しており、デザイン思考をビジネスに役立てるため、世界中のビジネスマンが受講に訪れています。今回はこのプログラムを日本に即した内容に改変し、京都の伝統文化に関する連携プロジェクトを進める本学において、ワークショップを開催することとなりました。まず、2018年ビジネス書準大賞「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」の著者・山口周さんが登壇し「現代の社会では、『もうごみを生み出すのはやめよう』という風潮が強まっている。人の生活を真に豊かにするものを考えましょう」とあいさつされました。
マイアーソン教授は冒頭、「デザイン思考とイノベーションを生かし、高齢化社会のウエルネスにどう応えるかを考えよう」と、今回のワークショップの目的を説明。英国で鉄道の敷設に尽力したり、米国の田舎町で映画館を再興したりした先人を引き合いに出し「共通するのはユーザーの立場に立って考えたこと。柔軟性を持ちながら創造性を発揮することで、人を中心としたイノベーションが成功した」と述べられました。
クリエーティブ、イノベーション、デザインの関係性にも言及し「クリエーティビティはアイデアを創出することで、イノベーションはアイデアを成功裏に活用すること。デザインはこの二つをつなげるものであり、デザインがなければ実用的にはならない」。日本が直面する高齢化社会ではデザインが大きな役割を果たすと指摘され、話題は高齢化社会におけるイノベーションへと移りました。
若者向けの製品がメインとなる市場中心のデザインに警鐘を鳴らすマイアーソン教授。インクルーシブデザインという概念を示し「高齢者を対象としたデザインならば、より広範な人々をターゲットとすることができる」と強調されました。さらに、高齢化に対する考え方の切り替えも提唱。将来的な技術を取り込んで高齢化の烙印を押された製品の再デザインを世界中のデザイナーに促したところ、子ども用のキックスケーターを3輪にすることでシニアカーを生み出した事例を挙げられました。
最後に「想像的にアイデアを創造するのではなく、現実化する必要がある。その際に必要となる『アイデンティティ』『ホーム』『コネクティビティ』『ワーキング』『モビリティ』といったキーワードをこの2日間で検討してほしい」と呼び掛けました。
その後のパネルディスカッションでは、マイアーソン教授のほか、情報デザイン学科クロステックデザインコースの小笠原治教授、予防医学研究者の石川善樹さんが登壇。「この20年間でイノベーションが停滞気味の要因は?ポジティブな要素は?」という問いに対して、マイアーソン教授は「幸福感が横ばいなことと関連があると思う。働き方改革が成功すれば、企業のイノベーション、ウェルビーイングも改善するだろう」。ものづくりイノベーションの第一人者でもある小笠原教授は「スタートアップ企業を増やすことが大切。新たなことを始めるということを評価するべきだ」、石川さんは「多彩な経験を持つシニアと、革新的な発想ができる若者との組み合わせれば、何かが起きることが多い」と答えられました。
オープンイノベーションに関する取り組みに積極的な多様な業界の企業から参加いただいた参加者の皆さん。京都造形芸術大学が誇る世界水準の工房「ウルトラファクトリー」を見学し、最先端の工作機器の性能やラピッドプロトタイピングの実践場所としての可能性について肌で感じられました。
新規事業創発に向け、2日間にわたって開催された異業種他社によるオープンイノベーションのためのワークショップ。この機会に学ばれたデザイン思考によってイノベーションが起こり、事業化などの新たな動きへとつながることを願っています。
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