INTERVIEW2019.08.09

舞台

色あせない笑いが時代を超える-桂米團治ホームカミングデー特別公演を開催

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  • 添田 陸

9月15日(日)に開催される瓜生山学園ホームカミングデー2019では、特別企画として上方落語の世界をご覧に入れる。演目は、歌舞伎狂言『義経千本桜』の四段目に登場する「狐忠信」を基にした古典落語の『猫の忠信』で、京都芸術劇場春秋座を創立した三代目市川猿之助(現・二代目猿翁)のお家芸に因んだ作品。その三代目と、同劇場の芸術監督を務める四代目市川猿之助とも所縁のある上方落語界の重鎮、桂米團治がこの度、春秋座で本演目を披露する。公演に先駆けて、米團治さんに演目の魅力や落語の楽しさ、他の芸能との関わりについてお聞きした。

(インタビュアー:京都造形芸術大学 文芸表現学科3年生 添田陸)

 

添田(以下、添): 今回の特別公演では、「上方落語の世界」と銘打ち、『猫の忠信』をご披露いただくのですが、そもそも「上方落語」と「江戸落語」にはどのような違いがあるのでしょうか?

米團治(以下、米): 落語というのは、上方(現在の京都や大阪のあたり)と江戸という当時の都会で、”おぎゃあ”と産声を上げた芸のことなんです。この二つの違いは、三味線や太鼓などの「音曲(おんきょく)」を使うかどうか。「江戸落語」は三味線や太鼓を使わず、喋りだけで文学的にやっていくんですが、一方で「上方落語」は、大道芸の一つとして生まれたので、三味線、太鼓や笛を使って、どんどんお囃子を入れていきます。そうすることで、落語に華やぎを付けていくんですね。今回公演する『猫の忠信』の演目でも、効果音楽として落語の最中に笛や三味線が急に鳴り出します。それによって、お客さんの想像を膨らませてもらおうという趣向があります。これが上方落語の特徴ですね。

添: 同じ「落語」でも、上方と江戸ではずいぶん大きな違いがあるのですね。今回、大学のホームカミングデーでの公演ということで、幅広い世代の方が来場され、中には落語自体に親しみのない方もいらっしゃるかと思います。そういった方は、事前に何か勉強しておくべきでしょうか?

米: 歌舞伎や能を観に行くとき、事前に“あらすじ”を読んでおくという人が多いかなと思うんですが、事前の解説書が一切要らないのが落語というもんなんです。落語を事前に読むことほど、ばかげていることはないなと思います。古典芸能では落語ぐらいじゃないかな? 子どもからお年を召した方まで、誰もが真っ白な状態で聴いても、みんなが同じように「わはは」って笑えるのは。これが寄席というものです。あ、狂言も同じように笑えることが多いですね。

添: 僕も小さい頃に、大学生がやっている落語研究会の寄席によく足を運んでいて、いつも楽しく聴かせてもらっていました。同じ演目でも、演じる方で全然違うものに感じるんです。

米: そうなんです!同じ演目でも、演者によって違うように聞こえるのも楽しみの一つですね。どんな演目をするにしても、落語家はお客さんの反応を肌で感じとって、お客さんの気持ちに寄り沿いながら演じるのです。落語の世界にすっと入っていけるように、”枕”で本題に関連する話を入れたりしてね。演目を知っている人も知らない人も、どんな人でも楽しめるのが落語の醍醐味ですよね。

添: 初めての方でも気兼ねなく楽しめるのが落語なんですね。今回披露していただく『猫の忠信』は歌舞伎の演目がもとになった古典落語ですが、米團治さんはオペラと落語を融合した新しい取り組みをされていますよね?

米: はい。数年前からオペラと落語を掛け合わせた「おぺらくご」というのをやっていて、ホームカミングデーの会場になっている春秋座でも過去に5回上演しています。もともとオペラに興味があって、自分でもあほなこと言ってるなと思いますが、私はモーツァルトの生まれ変わりやなんて思っているんです(笑)。でもね、そうはいっても私自身二十代半ばまでオペラを観たことがなかったんです。「こんなんでは、アカンがな」と思って最初に見たのが『フィガロの結婚』という演目。オペラは全身を使って表現しますから楽しさは十分に伝わってくるんですけど、日本語での公演だったにも拘らず、演者の方が何を言われているのかよくわからない。家に帰ってから解説書を読んだら、男女の戯言が大半を占めていて、けっこう下世話な話。「これを落語にしたら面白くなるんちゃうかな?」と、ふと思いついてやってみたら、思った以上にわかりやすい作品ができたんです。

添: オペラを落語で表現するのはとても興味深いですね。

米: 解説書が要らず、子どもから大人まで一緒に楽しめる落語の手法で、オペラを分析していったらわかりやすくなるんじゃないかなと思ったわけです。それに、古典落語とオペラは近い時代に作られたものなんですよ。

添: そうなんですか?

米: 落語が生まれたのが17世紀ぐらい。この頃はまだ落語というより、他愛のない「小咄」として語られていたころ。西洋音楽でいえば、ヘンデル、ビバルディ、バッハが活躍していたバロック時代ですね。その後、モーツアルトやベートーヴェンが活躍する18世紀~19世紀に、落語がどんどん作られ、寄席小屋も生まれます。さらに時代が進んでチャイコフスキーが活躍した19世紀~20世紀ごろには、落語が文学のように発展していきます。つまり、落語もオペラも同時期に生まれた古典ということですね。向こうはクラシック、こっちは古典。

添: 新しいように見えて、実は古典ということですね。

米: そうそう!でもね、それを言うなら「古典は、古いように見えて新しい」かな?

添: 古いようで新しい……ですか?

米: 古典とは普遍性があるものなんです。落語もオペラも、作られた当時はもちろん斬新で、新しいものだった。そして時代が進んだら古くなるはずなのに、聞けば面白くて新鮮に感じる。つまり「新しさ」が時代を超えて続くのが「古典」というものなんだと僕は思っているんですよ。「古きを温めて、新しきを知る」という温故知新の精神が「古きを拓く」というわけです。古典だから古臭いんじゃなくて、古典だからこそ新しい。

添: なるほど、今もなお古典落語が面白いと感じる理由がわかったような気がします。

米: もし古典芸能が古臭いものになってしまったら、その芸能は死に絶えてしまうことになりますからね。もともと落語にもいろんな演目があって、現代まで伝えられることなく、しりすぼみになったものもあります。もちろん、歌舞伎や能も一緒で、今では上演されなくなった演目がたくさんありますね。消えていった演目は普遍性が無かったっていうことですね。落語でいうと、普遍的な笑いというのは、時代を超えて古典として輝きを放つんです。だから、古いように見えて新しいのが古典なんですよね。

添: 今回の演目『猫の忠信』も名作の一つと言われていますね。時代を超える笑い。ますます公演が楽しみになりました。落語を観たことがない方も、この機会に見てほしいなと思います。

米: 『猫の忠信』は歌舞伎がもとになっていますが、そのことを知っている人は知っているからこそ、くすっと笑える箇所があります。でも、歌舞伎の演目を知らなくても、この話は男女の戯言を演じものなので、そのおもしろさを味わってもらえます。知っている人も、初めて聴く人も、お客さまそれぞれでいいんです。席についたら大いに笑える、それが落語ですからね。そういう気軽な気持ちで来てもらいたいなと思いますね。

左から)インタビュアー添田陸君、桂米團治さん。 壁には、米團治さんの父、故桂米朝さんの写真が飾られている。

今年の瓜生山学園のホームカミングデー特別公演では、春秋座が大きな笑いで包まれることだろう。この機会、ご家族ご友人の方も一緒に参加されてはいかがだろうか。(卒業生お1名につき、ご本人含め4名分までチケット購入が可能。

ホームカミングデー2019特別公演 落語家・桂米團治「上方落語の世界」 ※瓜生山学園卒業生対象※

還暦・噺家生活40周年を迎えた上方落語会の重鎮、桂米團治が瓜生山学園ホームカミングデーに登場!市川猿之助のお家芸に因んだ演目「猫の忠信」が披露される。

※公演の詳細はこちら:http://www.uridou.jp/event/detail/112

日時 2019年9月15日(日)16時30分~(16時開場)
会場 京都芸術劇場 春秋座(アクセス
申込 要予約(詳細はこちら
料金 【春秋座ホームカミング会員・特別価格(※)】500円、【通常一般料金】4,500円 (ご本人1枚のほか、3枚まで購入可能)
託児サービス 有(詳細はこちら
公演のお問合せ TEL075-791-8240(平日10時~17時)

 

(※)公演チケットの購入には、京都芸術劇場チケット販売システム「春秋座ホームカミング会員」への登録が必要です。(8月30日(金)までにご登録ください)また、特別価格は卒業生でかつ同窓会会員の方のみの価格です。同窓会会員でない方は、この機会にぜひ同窓会HPより会員登録をお済ませください。

 

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  • 添田 陸Riku Soeda

    1998年茨城県生まれ。京都造形芸術大学 文芸表現学科2017年度入学。文章や構成について学んでいる。文章によるビジュアルの変化を追求している。と同時に美味しい珈琲も追及している。

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