REPORT2019.06.10

一人ひとりが「SDGs」にどう取り組むか?―SDGs推進室 田中室長✕在学生 特別鼎談

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  • 京都芸術大学 広報課

サスティナブルな世界を未来に受け継ぐため、すべての国連加盟国に義務付けられた国際目標「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」。2016年から2030年まで継続して推進することが求められているこの「SDGs」について、いまを生きる私たちは、いったいどのように関わったら良いのでしょうか? 2019年4月、学生や教職員、関係者へのSDGsの理解と浸透を目指して、「京都造形芸術大学 SDGs推進室」が設立されました。SDGs推進室・田中室長と学生代表2名が、SDGsにどうやって向き合っていくべきかを率直に話し合いました。

京都造形芸術大学SDGs推進室の詳細はこちら

田中朋清 Tomokiyo Tanaka(写真中央)
京都造形芸術大学 SDGs推進室長。石清水八幡宮権宮司、京都大学こころの未来研究センター 連携研究員、京都産業大学日本文化研究所客員研究員、世界連邦日本宗教委員会事務総長、一般財団法人石清水なつかしい未来創造事業団理事長、京都造形芸術大学客員教授と幅広い文化・社会活動に関わる。2019年4月より現職。

 

鈴木日奈恵 Hinae Suzuki
京都造形芸術大学 芸術学部 美術工芸学科 基礎美術コース3年生
中喜多真央 Mao Nakakita
京都造形芸術大学 芸術学部 空間演出デザイン学科 空間デザインコース3年生

 

“温故知新”のアップデートが未来を救う!?

田中室長「きょうは京都造形芸術大学 SDGs推進室の取り組みを学生のみなさんに知っていただきたくて、鼎談の機会を設けさせていただきました。まず、二人が現在、本学でどんなことを学んでいるか、簡単に教えてもらえますか?」

鈴木さん「よろしくお願いします。私は、美術工芸学科の基礎美術コースで、京都ならではの伝統文化を学んでいます。茶の湯、能楽、立花、水墨画など、応仁の乱以降にできた日本文化を、ジャンルを横断しながら身体を使って実践するコースです」。

中喜多さん「私が所属する空間演出デザイン学科の空間デザインコースでは、建築やものづくりを通して、社会が抱える課題を解決するソーシャルデザインに取り組んでいます。私と鈴木さんは、専攻は違いますが、石清水八幡宮の真竹で巨大な京ちょうちんを作るプロジェクトのメンバーで、一緒に活動しています」。

田中室長「あの『ミラノサローネ国際家具見本市』で展示した、京ちょうちんですよね! それは素晴らしい経験をされましたね。巨大な京ちょうちんは、数少ない京提灯の造り手『小嶋商店』さんとコラボレーションしたと聞きました。京都に息づく伝統工芸の技を間近で見ることができて、大きな学びがあったのではないでしょうか。

ところで私は、石清水八幡宮で神主を務めていますが、創建されてから約1160年が経過した歴史ある境内で過ごしていると、気づくことがあります。それは、伝統文化といえども、その時代ごとに影響を受けて、最先端の技術を取り入れているんだということ。100年、150年という長いスパンで考えて、次の100年へと文化を受け継いでいくために、常に最新のものを取り入れてきているんですよ。そう聞くと、ちょっと意外に感じませんか?」。

鈴木さん「そうですね。神社や寺って、古いものをずっと変えずに維持してきているんだと思っていました」。

田中室長「実は、歴史ある寺社は、古いように見えるけれど、斬新なカタチや素材を選び、その時代に一番良いと思われるものを生かしてきています。とはいえ、100点満点を目指すのではなく、90点くらいで良しとしてきた。たとえ90点でも工夫して100点にできるだけ近づける、というやり方をとってきたので、昔ながらの知恵が時代を超えて受け継がれ、そこに最新の技術も加わって、どんどんアップデートされていっている。悠久の歴史をもつ文化財のすごいところですよね」。

中喜多さん「でも、文化財保護法では、古いままを保存して、維持しないといけなかったような気もするんですが…?」

田中室長「良い質問ですね。そのとおり。文化財保護法では、『何も変えずにそのまま残しなさい』といわれます。しかし、元々が90点のレベルで作っているものを、アップデートもせずに保存し続けたらどうなるでしょう? 80点、70点と、クオリティがどんどん下がっていき、いずれは50点を切るかもしれない。そうなると、次第に文化が失われてしまうでしょう。古いものから学びとり、アップデートを繰り返していくことが、結果的に伝統を未来へつむぐことになるんですよ」。

中喜多さん「歴史あるものでも、時代にあわせたアップデートが必要なんですね!」。

 

なごやかに対談する田中室長と、鈴木さん、中喜多さん。田中室長は、歴史遺産学科で文化財保存修復についての授業も担当している。

 

地球上のすべての人が17のゴールを目指す

田中室長「ところで、ふたりは、SDGs(エス・ディー・ジーズ)って知ってましたか?」。

鈴木さん「すみません、私たちどちらも、全然知らなかったんです…」。

中喜多さん「対談の前にちょっと調べてみたんですが、内容を読んでも、正直なところ、自分たち学生に影響あるのかな?と思ってしまいました」。

田中室長「そうでしたか。実はSDGsって、子どもから高齢の方まで、みんなでやることなんですよ」。

中喜多さん「えっ、そうなんですか!? 自分たちだけじゃなく、小さな子どもにもできることがあるって、意外です」。

 

 

田中室長「SDGsは、年齢だけでなく、性別や宗教も関係なく、世界中の人々が賛同する、国際社会共通の目標です。エスディージーズと略して呼んでいますが、正式名は『サスティナブル・ディベロップメント・ゴールズ(Sustainable Development Goals)』、持続可能な開発目標という意味です。17のゴールと169のターゲットから目標が構成されていて、2015年9月の国連サミットで採択されました。

SGDsの内容で、私が特にすごい!と思っていることがあるんです。それは、この国際目標は、“誰一人として取り残さないために”定められているということ。地球上の誰一人として、ですよ」。

鈴木さん「まるでSFの世界みたい…。そのたくさんの目標を2030年までに、地球に暮らすすべての人で実現するんですか?」。

田中室長「そうなんです。2030年までに本当にできるのかな?と思うかもしれませんが、達成することが“義務”なんです。SDGsの掲げる17のゴールを、ここで改めて見てみましょうか」。

「SDGs(持続可能な開発目標)」で定められた、2030年までに達成すべき17のゴール 一覧

 

田中室長「どうですか? これなら私にもできそう!というものは、何かありますか?」。

中喜多さん「12番目の『つくる責任 つかう責任』は、課題制作中によく考えています。リサイクルに適した素材を選ぶこともありますね」。

鈴木さん「中には、自分には関係なさそうに思えて、ピンと来ないものも結構あります…」。

田中室長「なるほど。この一覧を見ていると、本当に2030年までに全部達成できるのかな?と思えてくるのは、無理はないかもしれません。そこで大事なのは、誰かがやってくれる、ではなく、自分ごととして取り組むべきことなんだと理解することですね。時間がかかるかもしれませんが、みんなで知恵を出し合ってやっていこう!と思えるように、国や地方自治体、学校、そして家庭などさまざまな場所で、できる方法を考えて、進めていくことが大切です。

ところで、このSDGsを実現するために、実は、日本にもともとあった考え方が、いま注目されているんですよ。それが何か、わかりますか?」

中喜多さん「えっ、なんだろう? 日本の伝統文化の中に、ヒントがあったりしますか?」

鈴木さん「そういえば、モノを大切にする“もったいない”という文化は、外国でもそのまま通用すると聞いたことがあるんですが、それは関係ありますか?」

田中室長「それも一つあります。もったいないをそのままアルファベットで記したMOTTAINAIは、外国でもそのまま国際語として通じます。そのほかにも、日本にある人生観や『和の精神』、宗教観などもそうですし、京都の街のあり方にも学びが隠れているかもしれません。

私は2018年に国連のSDGs推進会議に招かれて20分間のスピーチをさせていただいたんですが、その場で満場一致のスタンディングオベーションを受けたスピーチの内容は、宗教間を超えた世界平和の構築をテーマにしたものでした。国際連合をはじめとする海外の方々からも、日本の“和”の文化から多くを学ばなければならないという声が挙がりました」。

鈴木さん「そうなんですね。となると、私が学んでいる日本の伝統文化の中から、SDGsに取り組むきっかけがいくつも見つかりそうな気がしてきました」。

田中室長「鈴木さんが本学で学んでいることは、まさしくそうですよね。茶道をはじめとして、『○○道』とつくものは本来、勝ち負けなどではなく人間の心の修養を最も大切にしています。自己の心を成長させてくれますし、世の中に役立つ考え方のヒントもたくさん隠れていると思います。そして、自分で見つけたことをSDGsとつなげて考えて、具体的にどのように生かしていくか?をぜひ考えてみてください」。

 

“偶然”の出合いから未来を変えるヒントを

中喜多さん「今日お話を伺うまでは、SDGsって誰かがどうにかしてくれるだろうと、どこかで思っていました。だけど、そうじゃなくて大事なのは、自分にできることは何だろう?って考えてみることなんですね」。

田中室長「そのとおり。自分ごととして考えたら、SDGsへの関わり方はいくらでも見つかるんです。毎日の暮らし方ひとつとっても、自然環境に負荷をかけたことをしていないか?とエネルギーの使い方を振り返ったり、スマートフォンでニュースを見て世界や地域で起こっている様々な課題について自分が何をできるのかを考えてみたり、きっかけはいろんなところにあります。

ふたりにちょっとおもしろいものを渡しますね。これは、『SDGsサイコロ』です。本学の尾池学長がデザインした画期的なサイコロなんですが、20面体のサイコロの1面ずつに、2030年までに達成すべき17のゴールが配置されているんですよ。これを1日1回振って、出た目に書かれているテーマについてその日は1日考えてみよう!という風にすると、身近ではないテーマを考えるきっかけとも出合うことができますよね」。

手のひらサイズの「SDGsサイコロ」を手に、使い方を説明する田中室長。カラフルなデザインのサイコロは、見ているだけで楽しい!(※「SDGsサイコロ」は試作品)

 

田中室長「このサイコロを、ともに学ぶ仲間と一緒に転がして、SDGsについて思いをめぐらせながら遊んでみると、子供から大人まで楽しみながら自分ごとにできそうですね。たとえば、17のゴールの1番目は『貧困をなくそう』です。このテーマについて考えたことがなかったとしても、想像力をふくらませてみると、いろんなことが思い浮かびますよね」。

鈴木さん「そうですね。たとえば、なんで貧困層ができるんだろう?とか…」。

中喜多さん「あとは、貧困をなくすためにできることは何だろう?とか、貧困問題に取り組む寄付団体にはどんなのがあるんだろう?とか、いろいろ思いつきますね!」。

鈴木さん「2番目の『飢餓をゼロに』についても、飢餓!?と聞くと自分からかけ離れたテーマのように思えたんですが、思い浮かんだのは、いつも利用する食堂でも出ている食品ロスについてでした。ごはんは残さず食べなさい、食は大事、と子どもの頃から言われ続けていますし、自分たちが気づいてなくても、既に当たり前にやっていることの中に、解決するためのヒントがありそうな気がします」。

田中室長「本当にそのとおりです。たとえば、『いただきます』『ごちそうさま』という感謝の言葉。食事のときには当たり前に言っていますよね。でも実はこの言葉、英語にはないんですよ。概念そのものもめずらしいそうで、日本語圏以外の方に言葉の意味を説明しても、意味はわかるけれど、いったい誰に対して言っている言葉なの?とたずねられたこともあります。
でも、私たちは日本に生まれたときから、意味はわからなくても、いただきます、ごちそうさまと言い続けて育っています。ごはんを作ってくれた親への感謝だったり、食材を育ててくれた農家の方への感謝だったり、食材そのものの“いのち”をいただくことへの感謝だったり…。一つの言葉に、すべてに対する感謝や、敬う気持ちを込めている。難しい言葉ですが“畏敬の念”のあらわれ、ともいえますね。

これから未来を生きる人類にとっての持続可能性を考えたとき、そのような日本に古くからある知恵の結晶が、いかに重要であるかに気づいてもらえたから、私の国連でのスピーチが賛同されたのではないかと感じています」。

「SDGsに取り組んでいる大学って、どれくらいあるんですか?」という鈴木さんの質問に、田中室長は「いろいろありますが、17のゴールすべてに取り組んでいるところは、まだまだ少ないです。本学では、17のゴールに全般的に取り組むことが決定しています。本学の建学の理念『京都文藝復興』『藝術立国』は、国際連合のSDGsの本質的な推進にとって必要不可欠ですので、芸術を通して世界平和を構築していきたいと思っています」とSDGs推進室のこれからの目標を語ってくれました。

鈴木さん「きょうのお話で、SDGsをみんなに知ってもらうためにはどうしたら良いかを考えるきっかけになりました。17のテーマすべてを自覚するには、どうしたら良いんでしょう?」

田中室長「いきなり全部に取り組むとハードルが高いので、本当に、このSDGsサイコロを1日1回ふってみてはどうでしょうか。サイコロで偶然出てきたテーマに取り組むのって、ワクワク、ドキドキしませんか? SDGsに取り組むことは、世界中の一人一人の幸せな未来に繋がっていますので、なんてステキなんだろう!と夢を感じながら、すばらしい機会を与えられているんだと思って取り組んでもらえたらうれしいですね」。

中喜多さん「私自身はSDGsを知ったとき、文面ではとても難しくて身近ではないと思ったんですが、きょう詳しく教えていただいたことで、考えようによってはとても身近だな、と。たとえば、SDGsに基づいたコンセプトの作品をつくって発信したら、学生としての関わり方ができるのでは?と思いました」。

田中室長「若い皆さんの純粋な目でみて、夢と希望をもってSDGsに向き合ってもらえることほど、うれしいことはないです。仲間や家族の顔を思い浮かべて、みんなの幸せを願いながら取り組んでいってください。そして、本学でこんなことがしたい!というアイデアもぜひ出してください。みんなで一緒にがんばっていきましょう!」

 

2019年4月の「ミラノサローネ国際家具見本市」で展示した京ちょうちんの作品「一隅を照らす」の前でポーズ!  田中室長が権宮司を務める石清水八幡宮の真竹を使い、伝統技術を駆使した巨大なちょうちんを制作・発表した。

(取材・文:杉谷紗香/撮影:衣笠名津美)

 

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