伝統工芸と京都について学び、その本当の姿に光を当てることを目指して2018年4月に始動した京都伝統文化イノベーション研究センター(以下KYOTO T5)。この1年間でさまざまな職人を取材したり、コラボレーションによる商品の販売やイベントの開催をしたりとまだ知られていない魅力を発信してきました。
2019年4月、KYOTO T5のメンバーは株式会社エイブルが主催する空間デザインのコンペティションを勝ち抜き、イタリア・ミラノで開催されるミラノサローネで作品を展示する機会を得ました。アイデアを実現に導いてくださったのが、南座の大提灯をはじめ京都を象徴する風景を彩る提灯問屋の小嶋商店です。
KYOTO T5の学生と職人が出会って生まれたイノベーションの軌跡を紹介します。
(取材/久米香織[情報デザイン学科2年] 撮影/KYOTO T5)
職人だからこその視点
KYOTO T5チームが挑んだのは、今回で10回目となる「エイブルデザインアワード」。幅4m×奥行き4m×高さ3mという空間を、テーマ「Laugh~幸せを呼ぶ空間~」に沿って演出するアイデアを競います。そこで浮かんだのが、日本ならではの照明である提灯を使った空間。一次審査通過後、相談させて頂いたのが小嶋商店の小嶋俊さん、諒さん兄弟でした。小嶋商店は、現代では数少ない伝統的な「京提灯」の担い手として「京提灯」の技術をベースに新たなプロダクト、空間の創造を行っています。
まず教わったのが、提灯には「巻骨(まきぼね)」と「地張(じばり)」という二つの製法があるということ。巻骨に比べて地張は手間がかかってしまうため、提灯を作っている家が減少している中、小嶋商店では地張で提灯を作っておられます。地張は竹を割って骨にしたものを一本ずつ輪にして型にはめていくという製法で、太めの骨を用いるため分厚い和紙を貼ることができます。竹の骨作りから紙貼りまでのすべての工程を手作りで行うことで、従来の提灯よりも丈夫で素材感のある提灯に仕上がるのが小嶋商店の地張りの特徴です。
「提灯の中はすごくきれいで、僕たちは外側より実は内側の方が好き。外から見ているだけだったら製法なんて正直わからないけど、中から見たら一本一本がこういうふうになってるんだと知ってもらえる。それは僕たちにとってもうれしい」との言葉に、メンバーはハッとさせられました。巻骨も地張も外から見たら同じですが、中を見ると大きく異なることがわかります。実際に提灯の中を見せていただいたとき、その美しさや提灯が持つぬくもりに感動したといいます。
京都の「大切」を照らす
「大きい提灯を作って、中から見られるような空間を作ったらどうだろう?」ミラノでの展示は最終的に、「くぐるようにして入ることができる、直径2メートルの半円型の大きな提灯」に決定。その提灯の竹には、エジソンの発明した白熱電球のフィラメントに用いられた岩清水八幡宮の真竹を使用しています。エジソンが、日本から学びに訪れた藤岡市助らに語った言葉「自分の国でも作ろうという気概がなければその国は滅ぶ」。メンバーは、自分たちの足元にある価値に光を当て、そこから新しいものを自ら生み出そうとする姿勢の大切さをこの作品に込めました。
KYOTO T5センター長の酒井洋輔准教授とともにテーマを掘り下げていく中で、たどりついたコンセプトは「一隅を照らす」。天台宗の祖、最澄上人の教えの一つにある言葉で、社会のかたすみで目を向けられていないこと、気づかれていないこと、忘れられている大切なことに光を当てたい、そしてそれがlaughを生むきっかけになればという思いが込められています。
こうして最終プレゼンテーションを迎え、見事国内代表校の一つに選ばれたKYOTO T5チーム。引き続き小嶋商店の全面協力のもと、巨大な提灯を完成させました。
世界中からバイヤーやメディア、デザイン関係者が集まる国際イベントでの展示は、京都という街が持つイノベーションの可能性を多くの方に感じてもらえるまたとないチャンスとなりました。
伝統工芸を受け継ぐだけでなく、学生たちの新しいチャレンジを一緒になって楽しんでくれる職人が京都にはたくさんいます。KYOTO T5はこれからも、京都のまだ知られていない姿に光を当てるべく、職人の方々と連携しながら活動を続けていきます。
<「一隅を照らす」制作メンバー>
川口水萌/久米香織/鈴木日奈惠/竹之内春花/多田照美/中喜多真央/溝部千花/森田美咲/山月智浩
京都伝統文化イノベーション研究センター(KYOTO T5)とは
2017年度に文部科学省の「私立大学研究ブランディング事業」の採択を受け、「京都における伝統文化のイノベーションサイクルを高度化させる拠点の形成」事業に取り組んでいます。
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