REPORT2019.03.12

京都アート歴史デザイン

世界を繋ぐ京都の伝統工芸 - 欧州の大学との共同プロジェクト始動!

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  • 京都芸術大学 広報課

本学の「京都伝統文化イノベーション研究センター(以下、KYOTO T5)*」での大きな取り組みの一つとして、欧州の大学との共同プロジェクトが始まりました。
京都に古くからある数多くの伝統工芸の美しさ、技法、技術、そして職人さんの思想等、京都が持つ魅力を、日本にとどまらず世界中の人に知ってもらいたいとの想いから、欧州の大学との共同研究・制作を行うことになりました。

*京都伝統文化イノベーション研究センター(KYOTO T5)とは?
京都の伝統文化をアーカイブすることにより、イノベーションを誘発し、新しい製品を企画・販売することで、伝統文化に関わる人が増え、後世に継ぐことを目指した取り組みを行っている研究機関です。
製品の企画・販売に関しては、本学空間演出デザイン学科の酒井洋輔准教授がディレクションを務めているファッションブランド「Whole Love Kyoto」と連携して活動しています。 

現在、KYOTO T5では、欧州最高峰の美術大学である「ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(以下、RCA)/イギリス(ロンドン)」と「ジュネーブ造形芸術大学(以下、HEAD)/スイス(ジュネーブ)」の2校とのプロジェクト連携を進めています。

このプロジェクトが始まった経緯と今後の展望について、酒井先生にお話をお伺いしました。

伝統工芸の可能性

―このプロジェクトが始まったきっかけは?

ジュエリーやファッションがわかりやすいのですが、現在のトレンドカルチャーは、その多くが元々欧米の文化であり、私たちがいくらそれを真似したところで欧米には通用しないのではないか、という感覚を持っていました。

海外では、日本の伝統文化や伝統工芸といえば「風呂敷」や「漆」が有名で、非常に高い人気があります。
特に漆の技法は「Japan」と呼ばれているほどであると聞いた時、「漆以外にもJapanはたくさんある!」と強く感じました。

私たちKYOTO T5が取り組んでいる京都の伝統工芸の多くは、まだ海外では知られていないものがほとんどです。ですから、欧州の大学と共同制作という形で、伝統工芸の技術や魅力を一緒に見つけて、カタチに落とし込んでいくプロジェクトを始めようと思っています。
外からのフレッシュな目や異なる文化の背景を持つ目で京都の伝統文化を見ることで、面白いアイデアが生み出されるのではないかと期待しています。
親交のあったRCAの先生が強い興味を持ってくださったことで、このプロジェクトが動き出しました。

最初は京都に来ていただき、私たちと一緒に職人の工房を視察することにしました。
実際に本物を見て、感じてもらわないと、その素晴らしさはわかりませんから。
金網、魔鏡、錺金具など…職人の巧みな技法を見て、話して、伝統工芸が持つ可能性や魅力を
体感してもらった結果、RCAの学生も交えて本格的に動き出すことになりました。

もちろん、KYOTO T5の活動に参加している京都造形芸術大学の学生も一緒に取り組みます。
京都造形芸術大学とRCAやHEADの学生同士でペアになり、一緒に職人の工房を訪問していくことで、お互いに多くの気づきを見つけることができる、学びある豊かな取り組みになることを期待しています。

このプロジェクトの中で、「これいいな!」と思う強いアイデアがあれば、引き続き個別にプロジェクトを継続し、日本はもちろん欧米のマーケットで商品として販売できるように進めていきたいと思っています。
販売することで、たくさんの人の目に触れ、コミュニケーションが始まります。

みんなが気づかないものにこそ、デザインの力を

―酒井先生も昨年、RCAとHEADを訪問されていますが、いかがでしたか?

RCAとHEADへは、2018年の10月に伺い、自分がこれまで手がけてきた仕事やKYOTO T5での活動を踏まえながら、それぞれ2日間のレクチャーとワークショップを行いました。

RCAでレクチャーを行う酒井先生

ワークショップのテーマは「spotlight」。
観光客目線ではなく、その土地に住んでみないと気づかない素晴らしいものにスポットライトをあて、みんなの目に留まるようにプロダクトアウトする試みです。

ロンドンもジュネーブも、とても長い歴史と文化のある街です。
京都でいうところの“清水寺”のような観光地も多く存在します。
でも、そういう既に消費されているものではなく、有名ではないけど素晴らしいものが他にもたくさんあるはずです。
何にスポットライトをあてるかが大切です。学生はリサーチに多くの時間を割いていました。

今はテクノロジーが進み、新しいものが生まれ続けている時代です。この間「すごい!」と話題になっていたことが、すぐに古くなってしまう世の中になっています。
そんな中、京都はその真逆なんです。
何にも新しくない。ずっとそのまま変わらない。でも今も新しく、人を魅了し続けている、そういう場所です。
ただ、時代の流れとともに、生産高もここ20年で5分の1になっているのも事実です。
それは、伝統工芸の素晴らしさ、職人の手仕事の価値に、世界の人はおろか、日本人ですら、そして職人自身ですら気づいていないことが要因の一つであるとも言えます。

私たちKYOTO T5の目的はそれに気づかせることであり、みんなが注目していないようなものにこそ、デザインの力で光をあてて、これからの時代を担う若い世代に“おしゃれ”“かわいい”“ほしい”と感じさせるものに変化させることが大切だと考えています。
そのことを、ワークショップを通して、欧州の学生にも伝えてみたいと思いました。
ワークショップを進める中で、学生からは様々な異なるリサーチを経て、豊富なアイデアが出てきたことが嬉しかったです。

出来上がった作品のプレゼンテーションを行うHEADの学生達

京都の魅力を伝えるレクチャーに強い興味を持って取り組んでくれている姿が印象的(RCA)

 

学生に、もっと“京都”に気づいてほしい

―このプロジェクトではどんなことに期待していますか? 

もちろん商品に繋がるアイデアが生み出されることは期待しています。

ただ、それに加えて、欧州の学生が京都の伝統工芸について取り組んでいる様子を京都造形芸術大学の学生たちがちゃんと見ていてくれたらいいなと思います。

ファッションは特に“東京”や“パリコレ”というハイトレンドの方向に気持ちが向きがちになりますが、なぜ“京都”という素晴らしい土地で学んでいるのに、京都に目を向けないのか、もったいないと思っています。
欧州の学生が興奮しているのを体感したら、「京都が、古いものが、おしゃれなのか!」と気づく機会になる可能性があります。

学生に無理強いするつもりはまったくないですが、実際に本物に触れたり、職人と話をしてみたら、きっと自分が気づいていなかった魅力を見つけることができるのではないかな。

外国人に「日本ってどんな国?」と聞かれたときに、日本の魅力を自分の言葉で話せるようになってほしいです。
KYOTO T5の活動が、学生たちにとっても そういう機会になれば良いな、と思います。

 

京都伝統文化イノベーション研究センター(KYOTO T5)

https://kyotot5.jp/

 

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