運用資産額 約62.5兆円(2018年9月末)という世界有数の資産運用会社であるアライアンス・バーンスタイン株式会社。その日本法人の代表取締役会長を務める山本誠一郎氏が、「Y-Labs(ワイラボ)」という研究所を開始されます。そのスタートとして、研究所のロゴマークデザインを京都造形芸術大学に依頼されることになりました。
今回、Y-Labs創設者の山本誠一郎氏、プログラムコーディネーターを務める美術工芸学科教授の椿昇氏に、Y-Labs創設に至った背景と今後の活動。また、本学で行われるロゴマークコンペティションに対する思いについてお聞きしました。
[取材:林美月(美術工芸学科2年)/撮影:顧剣亨]
山本氏:私は大学を卒業してから、ずっと金融業界一筋で過ごしてきました。直近ではアライアンス・バーンスタインというニューヨーク(米国)に本社を置く資産運用会社に勤めて約20年になります。
とくにアメリカでの生活が長く、この20年間で世界を見渡すと、日本は欧米と比較してグローバルな競争力がなくなってきていると感じています。そんな時、椿さんと出会い、これまで金融業界で築いてきた資金を元手に、社会に対して何か恩返しをしたい。残りの人生で日本をすこしでも元気にしたいという思いからY-Labsを立ち上げました。
Y-Labsの「Y」はよく山本の「Y」と勘違いされるのですが、ワイワイガヤガヤ楽しく、大和魂の精神で日本から世界に優れたものを発信していきたい、日本の次世代を担う人たちをサポートしていきたいという思いから名付けました。私が二年間いた西海岸のシリコンバレーにおいて、起業家の間で「Y」といえば、Yコンビネータ*1。スタートアップを支援する、イノベーターをサポートする意味合いのある「Y」の思いも込めています。
ポイントは「Lab(研究室)」ではなく、研究所を意味する「Labs」であること。研究所と言うからには、たくさんの人、いろんな業界の人たちを巻き込んでプロジェクトを進めていきたい。もちろん会社として投資活動もしていくつもりですが、イノベーション創出のためのエコシステム(生態系)を作っていくつもりです。
― Y-Labs を京都造形芸術大学と一緒に展開しようと思った理由について教えてください。
山本氏:京都造形芸術大学を知るきっかけとなったのは、知人であり、この大学で副学長を務める小山薫堂さん。「アート業界でおもしろい人がいる」と椿さんを紹介され、この人と一緒であれば、日本初で世界に通用するものを創れるのではないかとワクワクしました。
これまで左脳をフル回転させる仕事ばかりしてきたので、アイディアや創造性に富んだ芸術大学の学生と何か一緒にプロジェクトができることも楽しみの一つです。ひとつのイメージとして物理的な空間も含めて、コミュニティを作っていきたいですね。
― お二人がお考えになるこれからの大学教育に必要なものはなんでしょうか。
山本氏:経営に携わる立場からすると、ビジネスマンとか経営者の思考は、かなり左脳よりで、論理的思考が強すぎてしまう。これまでの時代はそれで通用しましたが、これからは美学や倫理観、直観を研ぎ澄ますことも学んでほしい。
いま日本で『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』という本が売れているそうです。著者のScott Galloway(スコット・ギャロウェイ)は、カリフォルニア大学バークレー校留学時代の同級生で、近くにいるとアート志向の強い人だと感じます。彼とはアート思考を強めて、バランスをとることによって資本主義を回すことについても議論をしています。
椿氏:教育はスタートアップ支援だと思っています。ファシリテーションしていくような仕事。学生を育てて山本さんに見ていただきながら、世界的なギャラリーにまで繋いでいく橋をかけていきたい。というのも、今の世界のアートマーケットがサスティナブルじゃなくなってきている。
莫大な金額の作品に注目が集まっているけど、ほぼセカンダリーマーケット*2でスタートアップとは無縁。アートがマネーゲームの道具になってしまっています。この状態をアート好きの人たちは良いとは思っていない。
ほとんどの若いアーティストは作家で生活できずにやめていくし、若い人の作品が100万円ぐらいになると突然みんな買わなくなる。だから、そのステップを整備しないと単発で終わってしまうので、地味で息の長い仕事をしているのだと思っています。
アートを正しく理解したり、身体化するには哲学や現代思想、歴史やさまざまな教養が必要です。日本の美大・芸大が大幅に変わらないと、山本さんのような方にはすぐに飽きられてしまう。改革をし続けないと、MBAからMFA*2といったオシャレなことは言ってはいけないと思うんです。そのために私たちはより一層、教養を磨いてゆかねばならないと思っています。
― 今回のY-Labs ロゴコンペティションのタイトル”Blue Ocean Strategy”について教えてください。
山本氏:ビジネスマンとして30年強、金融業界に身を置いていますが、ビジネスの世界とグローバル市場に本当のブルーオーシャンはない、これが答えです。これだけの競争社会で全く手付かずのマーケット、すぐやればすぐ儲かる仕事が本来ある訳がなく、たとえば、ハワイのワイキキに誰も泳いでいなかったら、それは何か疑ったほうがいい。
理論的にブルーオーシャンはあるけれど、競争していく上での規制が非常に厳しいとか、何かしら理由があるはずです。ただ、椿さんと話していると不思議とアートの世界はブルーオーシャンがあるかもしれないと(笑)。アートに関してはド素人ですけど、投資家の目線でお話を伺っていても面白そうです。
フライヤーは組み方を見つけることによって正しい情報を得ることができる
―ロゴコンペ実施にあたって応募者(学部生・院生・卒業生)に期待していることはなんでしょうか。
山本氏:多くの学生や卒業生は、私のことを知らないですよね。そういう状態で手を挙げていただけるだけでも感謝です。なんで私たちが手を挙げなくちゃいけないとふてくされないで、できるだけ多くの人たちに応募していただきたい(笑)
今ある課題に対してソリューションを提供していき、積極的にブルーオーシャンでシステムを作ることによって、結果として社会課題を解決する。5年後、10年後も想像できない社会のなかで、一緒に未来を作っていきましょうという情熱、誇りを持ってプロジェクトに参加してほしい。将来、私も世の中も変わっていくので、活動内容もどんどんアップデートしていくつもりです。その第一号の作品としてロゴコンペに参加していただけると感謝感激です。
*1 2005年設立のベンチャーファンド。卒業生に、ドロップボックス、エア・ビー・アンド・ビー、ヘロクなどがいる。
*2 ギャラリーから作品を購入したコレクターが、オークションや個人間で売買するマーケット
*3 Master of Fine Artsの略、美術学修士。ここではデザイン性・アート性の意味で使われている。
Y-Labs design manual Blue Ocean Competition vol.01
ブルーオーシャンコンペティションについて
このたびY-Labsの創設者である山本誠一郎氏のご依頼により、京都造形芸術大学の学部生・院生・卒業生から、このラボのコンセプトを具現化したロゴマークおよびその周辺のデザインマニュアルを公募する事となりました。
このプロジェクトは今後様々な日本の未来を創造する試みへの支援を始めとする、大きな社会的ムーブメントに成長する可能性を秘めています。参考資料をじっくり読み解き、みなさんのビジョンをしっかりと視覚化していただければと思います。
コンペタイトルのソースとなったのは"Blue Ocean Strategy"という経済用語です。持続可能で競合相手の存在しない独自の成長環境を示します。私と山本氏のアートにまつまる対話のなかから出た言薬で、私たちアーティストやクリエーターにとっても大変重要な寓意を含んでいます。
審査員委員長として山本誠一郎氏、審査員は本学副学長の小山薫堂氏。ゲス ト審査員はグラフィックデザイナーの関本明子氏、プロダクトデザイナーの清水久和氏、そしてプログラムコーディネークーの椿昇が担当いたします。応募要項をしっかり読み解き、 是非このプロジェクトに応募してください。
プログラムコーディネーター 椿昇(アーテイスト)
コンペティション詳細および応募はこちら
◯応募受付 2019年2月22日(金) ~17:00
◯審査日 2019年2月25日(月)
◯展示期間 2019年4月下旬
京都造形芸術大学 オーブにて展示予定
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