12月12日(水)、京都造形芸術大学アートプロデュース学科の、現役アーティスト・キュレイター・研究者をお招きし講義していただく「芸術表現特講Ⅰ」の授業にて、イチハラヒロコさんによる特別講義『王子さまが来てくれたのに、留守にしていてすみません。』が行われた。この講義は同学科以外の学生にも広く開放されており、さまざまな学科の学生が多数参加していた。
イチハラさんは本学がまだ短期大学だったころの卒業生で、「ことば」のアートを数多く発表する現代美術家である。個展を開催するだけでなく、大阪府松原市にある布忍神社とコラボレーションした『イチハラヒロコ恋みくじ』を設置したり、海外にあるデパ―トとのコラボレーションで『万引きするで』と書かれた紙袋を店内の買い物客に配るなど、ユニークな活動をおこなっている。
現在、本学の人間館エレベーターではイチハラさん作品が展示されている。どの「ことば」も秀逸でとても面白い。展示する作品は、本学の学生が学生目線で選んだものだ。まだご覧になってないという方がいたら、ぜひとも訪れてほしい。(イチハラヒロコ展:京都造形芸術大学 瓜生山キャンパス 人間館「エレベーター・ギャラリー」にて開催中。)
本講義は『イチハラヒロコ恋みくじ』を引くことから始まった。イチハラさんの「早い者勝ちやで!」という言葉を合図に、学生たちは長蛇の列をなした。恋みくじには『別れそう』や『男に抱かれる気配なし』などズバズバと言い切るように書かれている。学生たちは、引きあてた恋みくじを見ながら、自分自身と照らし合わせ「当たっている」や「どういう意味なんだろうか?」と悩みながらも大いに盛り上がった。ちなみに筆者は『ひとりで決められない ひとりに決められない』という恋みくじを引いた。果たしてどういう意味を含んでいるのだろうか。
「恋みくじ」から導入した講義では、イチハラさんのアーティスト人生が語られた。最初イラストレーターを目指していた彼女が、なぜ「ことば」による表現をするようになったのか。その話から始まった。
大学時代は、自身の高校時代とのギャップに苦しんだという。高校生のころは、絵がうまいとよく言われていたが、芸術大学に入学し周りを見渡すと、絵に自信のある人ばかり。他の学生への嫉妬心にも似た感情が湧いてきたそうだ。それを克服し上手な絵を描こうとするあまり、名の知れたアーティストたちの作品の真似をし始めたという。
他人を真似た作品を制作し、合評会へと持っていく。当然、合評会に出席する教授からは「これは○○の作品と同じじゃないか?」という意見が上がってくる。さらに「イチハラ君は、この作品で何を言いたいんだね?」と言われ、当時はその言葉に疑問を覚えたという。悩みぬいた大学時代を経て、卒業後、学生とは違う「副手」という立場で本学に帰ってくることになる。その時、現在の作品群のような「ことば」のアートをつくり始めた。「この作品で何を言いたいんだね?」と言われるなら「言ってやろうじゃないか」という思いで。これが、イチハラヒロコさんのアーティストとしてのはじまりだった。
その後は活動拠点を東京に移し、イチハラさんを代表するさまざまな作品が生まれていった。『結婚したい』のことばが六行つらなる作品などを発表したスパイラル(東京都港区)での展覧会や、福岡のギャラリーでの展示会など数多くの展覧会を開催した。それらの開催のきっかけは、自分自身でギャラリーに出向き営業をかけたことだったという。自分の好きなところや、興味のあるところへ行くために自分から飛び込んでいったら、数珠つなぎに出会いが生まれ、さまざまなところから声がかかるようになったそうだ。
まずは自分から行動することがとても大切だと何度も繰り返した。「大人たちは、いつも新しい才能を待っている。良い大人は若い子たちを適当には扱わないよ。」と学生たちに語ってくれた。水戸芸術館で個展を開催したころの話や、六甲ミーツ・アートというイベントで、山の斜面の芝生を刈って『刈る』という作品は発表したときの話など、実際の作品の写真を見ながら話は進んでいった。
講義の最後には質問タイムが設けられ、学生から投げかけられる一つ一つの質問・疑問に丁寧に答えてくれた。「イチハラさんの好きな人ってどんな人?」という質問に対して「好きな人は好きな人」とズバズバと答えていく姿から、イチハラさんの作品は彼女自身なんだということを感じた。
本講義を通し、イチハラヒロコさんは言葉という”なまもの”を、新鮮なまま作品にしているアーティストなのだと感じた。流行りをしっかりと捉え、時代性をよく見ている。くすっと笑える面白さを含み、人の心をとらえる「ことば」を生み出す根源が、イチハラさんの視線の先にある。そのようなことが感じられる授業であった。
イチハラヒロコ個展-「王子さまが来てくれたのに、留守にしていてすみません。」
花のれんタリーズ店内で100点以上の作品が展示。作品の壁への投影など展示方法もユニーク。『イチハラヒロコ恋みくじ』も設置。
会 場 | 花のれんタリーズコーヒー なんばグランド花月店(大阪府大阪市中央区難波千日前11-6) |
---|---|
期間 | 2018年12月21日(金)~2019年2月17日(日) |
時間 | 8:00~22:00 (無休) |
京都芸術大学 Newsletter
京都芸術大学の教員が執筆するコラムと、クリエイター・研究者が選ぶ、世界を学ぶ最新トピックスを無料でお届けします。ご希望の方は、メールアドレスをご入力するだけで、来週水曜日より配信を開始します。以下よりお申し込みください。
-
添田 陸Riku Soeda
1998年茨城県生まれ。京都造形芸術大学 文芸表現学科2017年度入学。文章や構成について学んでいる。文章によるビジュアルの変化を追求している。と同時に美味しい珈琲も追及している。