REPORT2018.10.20

京都アート

「田名網敬一の現在」を読み解く―宇川直宏とのトークイベントをレポート

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  • 京都芸術大学 広報課

京都造形芸術大学大学院教授であり、映像作家、アーティストとして、境界を横断して創作活動を続ける田名網敬一の展覧会「田名網敬一の現在」が、京都dddギャラリー(太秦天神川)にて開催中です。

平面・立体作品、アニメーション、ファッションブランドとのコラボレーションアイテム、出版物、プロダクトアイテムなど、多岐にわたる仕事から、浮かび上がってくる田名網敬一の「現在」とは? 展覧会初日に開催された、田名網敬一+宇川直宏(現在美術家/情報デザイン学科教授)のギャラリートークの一部を紹介します。(取材・文/木藪愛)

展示風景。展示室の中央にあるのは、2008年のパリ・コレクションで発表したMANISH ARORAとのコラボレーション作。その下のショーケースには大量の出版物やファッションアイテムが並ぶ

美術やデザインというジャンルを超えた活動領域
宇川:田名網先生が活動を始めたのは、1960年頃。60年代といえば、ベトナム戦争に反対する若者たちが「ヒッピー」となって起こした「サイケデリック・ムーブメント」の黎明期です。マリファナやLSDを使い、精神を開放した状態で生み出された極彩色のグラフィックがロックの文脈から世界へ広がっていきました。田名網先生の作品は、その「サイケデリック」の代名詞として、今まで進化を遂げてきたわけです。田名網先生の仕事からは、ツイギーのミニスカートとか、銀座にあったエレクトリッククラブ「KILLAR JOE’S」とか、社会的な背景や歴史の断片が見えてきます。
当時はまた、イラストレーションやデザインという概念がまだ日本に輸入されたばかりで、亀倉雄策さんの1964年の東京オリンピックのビジュアルが一つのデザインの象徴として機能していました。でも、それとは全く別の文脈で存在していたのが、田名網先生や横尾忠則さんの仕事。「情報の図解」としてのイラストレーションやデザインではなく、作家の世界観を体現した「グラフィズム」の魁だと言えます。
田名網:当時、美術とデザインの隔たりとかは、あまり感じていなかった。アンディ・ウォーホルの「ポップアート」を初めて見たのが、1950年代の終わり。その時は、油絵を描いていたんだけど、こういうのがアートとして認められているのかと仰天したわけ。ギューチャン(篠原有司男・現代美術家)と一緒に、銀座にあった「イエナ」という書店にいたら目の前で植草甚一さん(エッセイスト・批評家)が転んで、本を拾ってあげたら「君たちこれを見たほうがいいよ」と『Art News』というアメリカの雑誌を見せてくれた。そこに小さく載っていた、ウォーホルやリキテンシュタインの作品に衝撃を受けたんです。こんな表現もあるんだと目から鱗が落ちるという感じでした。いろんなスタイルで作品を作るという生き方が良くて、自分もやろうと思ったんです。
宇川:1975年には、日本版『月刊PLAY BOY』が創刊されて、田名網さんが初のアートディレクターになりました。創刊号は発売1日で売り切れて増刷したとか。

《曇り空のふたり》(2014年)作品には松や鶴、金魚、像といった共通するモチーフが見られる

宇川:田名網先生の作品はディティール追いが楽しい。幼少期の戦争のイメージや、80年代の闘病生活で見た幻覚に加えて、さらにウルトラセブンのようなヒーロー、ベティちゃん、ミッキーマウスといったレトロなポップアイコンがモチーフとして表出しています。実体験と文化体験の片鱗が合わさっているようです。
田名網:僕の絵は、100枚以上のパーツの組み合わせで構成されています。それぞれが個別の意味をもつパーツの衝突、融合によって、当初構想したイメージとはまったく異なる方向に向かってしまうのです。自分でも、どんな作品になるのかわからない。唐突に挿入されるコミックスの断片がイメージを一変させることだってあるのです。少年時代に狂ったようにみていたアメリカ映画にすっかり洗脳されてしまったんだよね。

ダリの時計がモチーフに用いた《様式の帝国》(2018年)。新作プリント作品も20点出展されている

表現を貫き、技巧を極めていくコツは、健康!?
宇川:60年代からの作品を振り返ってみたら、すでに初期段階から「田名網節」が発生していて、それを突き詰めていったら現在があるということがわかりました。一貫した表現を貫き、極めていくコツってあるんですか?
田名網:生活のすべてが、描くことに集約されている。他にやることがないからね。立体もアニメーションもやっているから、絵画でできないことを立体で表現したりすると、次々と新しいアイデアが出てくる。ペインティングだけだと飽きてしまうからね。
宇川:今回の展覧会では、田名網先生の作品を見続けている僕でも、初めて見る新作ペインティング作品もたくさん出展されています。しかも新作になればなるほど、技巧が高まっているのがすごい。ピカソもダリも晩年は、ディティールを描かずに抽象的になり、線の数も減っていきますよね。ところが、田名網先生の作品は、歳をとればとるほどディティールが、鬼気迫るものとして実現されています。
田名網:身体的な問題があると思う。僕の場合は目がいいし、腰も痛くない。白内障の手術をしてからは若い頃よりも見えちゃうから、どうしてもディティールを書き込みたくなるんだよね。

田名網敬一。世界中の企業やブランドとの、様々な仕事の経験を語る。MANISH ARORAとのコラボレーションでは、1000人の職人が田名網のデザインをもとに服を縫い上げたそう


「自由な仕事だからこそ、何をやってもいいわけではなく作法が必要。生活のリズムはきちっとしたものにしている」と田名網。本展は、田名網の半世紀にわたる仕事を概観しながら、第一線で活躍しつづけるアーティストとしての心構えが感じられるものとなっています。京都で作品が一堂に見られるこの貴重な機会に、是非足を運んでみてはいかがでしょうか。

京都dddギャラリー第218回企画展
田名網敬一の現在  -Keiichi Tanaami Dialogue

会期 2018年08月28日(火)~10月23日(火)
時間 11:00〜19:00 (土曜日は18:00まで/日曜・祝日休館) 
場所 京都dddギャラリー(京都市右京区太秦上刑部町10)
料金 無料
問合せ 075-871-1480

http://www.dnp.co.jp/CGI/gallery/schedule/detail.cgi?l=1&t=2&seq=00000722

 

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    連絡先: 075-791-9112
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

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