REPORT2018.11.09

京都アートプロデュース

老舗料亭が現代アートサロンに―椿昇と小山薫堂が仕掛けた特別な一夜

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  • 京都芸術大学 広報課

 京都造形芸術大学副学長の小山薫堂が代表を務める老舗料亭「下鴨茶寮」にて、8月29日に「聞いて・観て・味わう」一夜限りのアートイベント「第九回 下鴨文化茶論〜京都から発信されるアートイノベーション〜」が開催されました。

 気鋭の若手アーティストの作品が展示された会場にて、第1部では、美術工芸学科長の椿 昇と小山のトークショー、第2部では作家を囲んでのパーティを行い、普段美術に馴染みがない方も含め、多くの人々が交流を深めました。(取材・文:木藪愛/撮影:高松映奈)

下鴨茶寮は、安政3(1856)年に創業した料亭。京都独自の文化や「おもてなし」の美学を、料理と空間、サービスのすべてを通して世界に発信する。2012年、女将の意思を引き継ぎ小山薫堂が代表取締役に就任

目指したのは”世界一美味しいギャラリー”

 2012年より開催し、今回で9回目となる「下鴨文化茶論」。小山のキュレーションのもと、音楽家やパティシエ、書道家など世界各地・様々な分野で活躍する人々をゲストに、演奏会やトークショー、パーティ等を行ってきました。今回のテーマは「現代美術」。小山は、開催のきっかけをこのように語ります。
 「昨年、京都造形芸術大学の副学長に就任した時、椿先生の研究室に挨拶に伺いました。そしたら、研究室がギャラリーのようになっていて、ワインセラーまであったんです。椿先生は、研究室に来たお客さんに、シャンパーニュやワインを振る舞いながら、学生たちの作品を見せて、気に入ったら購入してもらうのだそうです。それって、アーティストにとってはもちろん、お客さんにとっても良い出会いなのではないかと思ったのです。普通のギャラリーではとっつきにくいと思っていた美術が、食やお酒を介すことで、気持ちよく心の中に入ってくる。今日の下鴨文化茶論が目指すのは、”世界一美味しいギャラリー”。美味しいのは料理ではなく、作品との出会いです」。


大広間でのトークショーの様子。69名の方が参加し満席となった

アートを買うってどういうこと?

 今回のイベントには、普段、現代美術に触れる機会が少ないという方々が多く参加していました。そもそも現代美術とはなんなのか? という小山の問いに、椿はこう答えます。
「現代美術とは、その時代に作られた美術のこと。その時代ならではの問いかけが作品に含まれており、その問いに触れるというのが、現代美術の機能と言えるでしょう。海外では人々により近いところに現代美術があります。タックス・ヘイブンのツールにもなり得ますが(笑)、何より、生き方や人生について考える助けとなっているんです」。
 過去に行われた様々な調査をもとに、対談は進みます。世界から見た日本の美術市場規模の小ささ、日本人アーティストが作る作品は質が高いが「文脈作り」が弱いということ、さらにこれから伸びるアーティストとはどんな特徴があるかということ。日本人が敬遠しがちな「美術とお金」というテーマに、ユーモアを交えつつ、大胆に切り込んでいきます。

向かって右から和田直祐、品川亮、今西真也

料亭の空間を若手の現代美術が彩る

 今回のイベントの肝は、会場に展示された作品を購入できるということ。出展作家は、品川亮、香月美菜、能條雅由、木村舜、今西真也、和田直祐の6名。いずれも80年〜90年代生まれの、本学出身の若手作家です(特別出展の若宮隆志を除く)。しかも、出展されている作品のほとんどは、椿のお題に対して新たに制作された新作。入り口右手の「茶論」を中心に、トークショーが行われた「大広間」、食事の会場となった「葵の間」、個室の「早雲」、離れの「玉水」と、それぞれのスペースに合うように作品がしつらえられていました。

 「今までの下鴨文化茶論の中で、今回がもっとも入念に打ち合わせを行いました。それだけの価値のあるギャラリーになっていると思います」と小山。
 和室に合うような新作を制作した和田直祐の作品について椿はこう語ります。
「ミニマルな抽象画は、日本人作家の真骨頂。樹脂を研ぎ出した、このテクスチャーには玄人向けの良さがあります。禅画のように、自分をクールダウンさせる効果があり、瞑想に使えますよ」。

和田直祐《Including box #7©ARTOTHÈQUE 撮影:前端紗季

香月美菜《0:29:29》©ARTOTHÈQUE 撮影:前端紗季

木村舜《HUMAN No.5, No.4, No.6》©ARTOTHÈQUE 撮影:前端紗季

品川亮《菊花流水図》©ARTOTHÈQUE 撮影:前端紗季

今西真也《INAZUMA 11》©ARTOTHÈQUE 撮影:前端紗季

数百年後の歴史に残る”瓜生山文化”が生まれつつある

 来場者も「現代アートには馴染みがなかったけど、自宅の壁が寂しいので、ひとつ買ってみようと思いました」「トークがとにかく面白くて、新鮮でした」と満足度が高かった様子です。トークのあとの歓談では、作品が次々と購入されていきました。
 「作品を買う理由はいろいろあるけれど、その作品が欲しくなるかならないかは、恋愛に似ているように思います。その作品に感情移入できるかどうかが、鍵となるのです」と小山。
 「ワクワクした気持ちの中でいかに、作品を購入してもらうかが大切。『ARTISTS' FAIR KYOTO』も今回も、新たなアートファンを獲得しています。数百年後、”東山文化”のように”瓜生山文化”と言われるような、新たなムーブメントが今生まれようとしている実感があります」と椿。
 今回のイベントは、椿がディレクターを勤める「ARTOTHÈQUE(アルトテック)」の一環として行われました。若手作家の育成と国内外への発信を目的としたこのプロジェクトの今後の展開が楽しみです。

パーティでは、下鴨茶寮の料理とともに「ビルカール サルモン」のシャンパーニュが振る舞われました

 

©ARTOTHÈQUE 撮影:前端紗季
©ARTOTHÈQUE 撮影:前端紗季

 

 

 

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下鴨茶寮

住所 京都市左京区下鴨宮河町62
電話番号 075-701-5185
営業時間 昼 11:00~15:00(14:00 LO)   夜 17:00~21:00(20:00 LO)
定休日 不定休

www.shimogamosaryo.co.jp

 

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