世界のトップスケーターたちが、ミュージカルのように幻想的なアイスショーをくり広げるTHE ICE。12回目を迎える「THE ICE 2018」では、大阪・名古屋で4日間の公演が行われ、メダリストたちの美しいスケーティングや、ふだんは見られない夢のコラボレーションに、多くのファンが魅了されました。
京都造形芸術大学では、世界から集まった選手たちに京都ならではの本物の日本文化や芸術を感じてもらい、これからのスケート人生に役立ててもらいたいという想いから、「京都滞在プログラム」を企画しました。
2018年7月30日(月)、31日(火)の2日間をかけて天竜寺や高台寺、金閣寺などをまわった選手たちは、プログラムの締めくくりに京都造形芸術大学のキャンパスを訪問。茶道や京舞を体験するという特別授業「京都学」を受講しました。
2018世界選手権優勝のネイサン・チェン選手やギョーム・シズロン選手、2018四大陸選手権優勝のボーヤン・ジン選手、そして京都出身であり、2016世界ジュニア選手権優勝など次世代のスターとして期待が集まる本田真凜選手、妹の望結選手など、そうそうたるトップスケーターたちがキャンパスに到着。


「京都学」を学んでもらう場となったのは、瓜生山キャンパスのなかでも一番高い場所にある千秋堂です。千秋堂には、茶道裏千家の第14代家元淡々斎氏が考案した茶室「颯々庵」が移設され、その貴重な茶室を維持管理していくことも歴史遺産学科の授業のひとつになっています。

まずは、裏千家今日庵業躰の北見宗樹先生による茶道体験です。「お菓子を食べて、お茶を飲んで、それぞれの想いを感じてもらい、これが日本の文化なのだなと感じ取ってもらえたらと思います。どうぞ膝をくずして、今日は自由な座り方で結構ですからね」。北見先生の柔らかいおもてなしの言葉に、選手たちも和やかな表情に。
「これが抹茶の味です。みなさんは、どう感じましたか。甘く感じる人も、渋く感じる人もいると思います。それぞれの感じ方を楽しんでもらえたらと思います。これが400年続く日本の文化です」。北見先生の言葉からは、茶の湯の作法や形式を覚えるよりもまず、自由に楽しみ何かを感じ取ってもらいたいという想いが伝わってきました。






つづいては、千秋堂の2階にある舞台で、芸術学部 井上八千代教授による京舞ワークショップです。井上先生は、京舞井上流の五世家元であり人間国宝、京都造形芸術大学でも京舞の指導にあたられています。
今回は、選手たちの前で地唄「八島」と地唄「葵上」の二曲を披露していただきました。



「フィギュアスケート選手の方が、京舞の動きを取り入れたいと学びに来られた事もございます。浅田真央さんは時々舞をご覧になってるようですね。技術が高まっていくとともに、美というものの捉え方や表現への感性が高まっていく。そんなときに、日本的な美を取り入れたいと思われるのかもしれません」。井上先生は、京舞がさまざまなスポーツや表現活動と結びついていることを話され、そこから話題は舞の登場人物である源義経や京都の歴史にまで広がっていきました。
そのとき、京都市の門川大作市長も登場。「ふだんは氷のうえで活躍されているみなさんが、一年でも一番暑い時期に、一番暑いと言われる京都の街へ、ようこそこうしてお越しくださいました」と、歓迎とねぎらいの言葉をかけられました。

門川市長の登場で、舞台はさらに華やかに
茶の湯と京舞を体験してもらった後は、千秋堂から山をくだって春秋座へ。春秋座は、大学のなかにある日本でも極めて珍しい芸術劇場で、2017年、2018年には京都を代表する舞台公演「都をどり」の会場にもなっています。

歌舞伎の上演を想定してつくられた大劇場「春秋座」。現代演劇・ダンスの上演を想定してつくられた小劇場「studio21」とともに、京都芸術劇場として運営されている
床が下から上がってくる“せり”や舞台がまわる“盆回し”など、春秋座の舞台機構を体験
春秋座では、プログラムの締めくくりとして門川市長、尾池学長から一人ひとりに「京都学」の修了証が贈呈されました。
門川市長から本田真凜選手へ
尾池学長からマライヤ・ベル選手へ
2日間かけて、じっくり京都をまわり、日本の文化・芸術にふれたフィギュアスケート選手のみなさん。この体験がみなさんのスケート人生を、さらにゆたかなものにしてくれることを願っています。
(文:久岡 崇裕、写真:高橋保世)
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高橋 保世Yasuyo Takahashi
1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。