“人生をだめにするほどビデオゲームに没頭した経験をもつ人は多くいるだろう。そこからどのようにして生き延びたかが問題だ” 藤田祥平『電遊奇譚』
5月12日(土)、京都岡崎 蔦屋書店にて文芸表現学科の卒業生藤田祥平(ふじた・しょうへい)さんのデビュー記念イベント「ゲームと小説の似ているところと異なるところ」が開催されました。藤田さんはこの春、自伝的小説『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』と、webで人気を博したゲームエッセイの書籍化である『電遊奇譚』の二冊を刊行したばかり。この日は会場と隣接するみやこめっせでインディーゲーム(個人や小規模チームで制作したゲーム)の祭典「BitSummit」が開かれていたこともあり、イベントは立ち見が出るほどの盛況となりました。
イベントが始まってまずスクリーンに映し出されたのは、藤田さんの人生に多大な影響を与えた2タイトルのゲーム、「Wolfenstein: Enemy Territory」と「EVE Online」のプレイ動画。当然この2タイトルは藤田さんの著書にも登場しますが、本を読んでから実際に映像を見ると不思議な感慨があります。「EVE Online」に至っては、画面内の情報量が多すぎて未プレイの僕たちが見ると何が何やら理解できません。ここまで複雑なゲームを小説に落とし込んだ藤田さんに脱帽です。
幅広い年代の来場者をゲームの世界観がつなぐ
今回のテーマである「ゲームと小説の似ているところと異なるところ」について藤田さんは、異なるところは「インタラクティビティの質の違い」であると述べました。読書は創造的な作業ではあるものの、読者は小説で紡がれた物語を変えることはできない。一方ゲームは入力したコマンドへの応答があり、それを受けて再び入力を行うというプロセスの繰り返しによって、プレイヤ-は(プログラムの範囲内で)自由に物語を編んでいくことができる。『手を伸ばせ~』では、タイトル通り主人公がこの世界に対して入力を行おうとするさまを書いたのかもしれない、と小説を書き終えた今だからこそわかったことなども交えて語る藤田さん。
メインテーマ以外のトークで盛り上がったのは、今後のゲームの文芸性についての話題。BitSummitのような専門展示会が行われていることからもわかるように、いまインディーゲームは大きな潮流となりつつあります。インディーゲーム最大の特徴は、制作者が個人や少人数であるため制作者の作家性がゲームに色濃く反映されるところ。藤田さんはまるで文芸としか名付けようのないゲームが出てきつつある、と熱弁しイベントは幕を閉じました。
聞き手は京都岡崎 蔦屋書店コンシェルジュで藤田さんの先輩でもある鵜飼慶樹さん(2011年度卒業生)
イベント終了後はサイン会が行われ、藤田さんの所属していた河田学先生の元ゼミ生も集まりちょっとした同窓会状態に。
インディーゲームの流行はもちろん、e-sportsというゲームをスポーツ化する流れや、VRゲームの進化、また公開中の映画「レディ・プレイヤー1」の原作である『ゲームウォーズ』をはじめとしたゲーム文学の隆盛など、今ゲームは何度目かの黄金期を迎えているといっても過言ではありません。
この春出版された二冊の本がそうだったように、藤田さんはこれからもこの黄金期に、ゲームについての素晴らしい文章や教えを私たちに授け、多いに楽しませてくれるのでしょう。ちょうど、オーキド博士のように。
“それは「ポケットモンスター」の「緑」である。私はそこでオーキド博士と出会い、話をし、さいしょのポケモンをもらった。彼はとてもいい人だった。” 藤田祥平『電遊奇譚』
文・辻本智哉(文芸表現学科3年生)
『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』『電遊奇譚』についてはこちら
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