「唯一無二の存在でありたい」 -「オールテニプリミュージアム in 京都」 許斐剛先生インタビュー

SPECIAL TOPIC2018.01.09

京都

「唯一無二の存在でありたい」 -「オールテニプリミュージアム in 京都」 許斐剛先生インタビュー

edited by
  • 米川実果
  • 小山田 晃

 10月12日(木)から26日(土)までの期間、京都造形芸術大学の学内ギャラリー「ギャルリ・オーブ」にて開催された、マンガ家 許斐剛先生原作の「テニスの王子様」をテーマにした展覧会「オールテニプリミュージアム in 京都」。その開催を記念し、去る10月15日(日)、京都造形芸術大学 瓜生山キャンパス内の直心館において「オールテニプリミュージアム in 京都 スペシャルトークショー」が行われました。

 京都造形芸術大学と株式会社ムービックの連携で2017年にスタートした「ワンソース・マルチユースプロジェクト」。その第4弾として開催されたのが、この「オールテニプリミュージアム in 京都」です。

 

ワンソースマルチユースプロジェクトについて詳しくはこちら


 1998年に読み切り作品として発表されて以来、原作であるマンガだけでなく、アニメ、そしてミュージカルと、フィールドを飛び越えて広がり続けてきた「テニスの王子様」の世界。今回のトークショーは、その「テニプリ」の歴史を漫画・アニメ・ミュージカルそれぞれの目線から振り返ってみるというものです。

 15日(日)のトークショーに登壇されたのは、原作者の許斐剛先生、そして集英社「ジャンプSQ.」編集部の小川卓也さん、アニメ・ミュージカルでそれぞれ主人公の越前リョーマを演じた、声優の皆川純子さんと、俳優の阿久津仁愛さん。そして、アニメ版の監督である山本秀世さん、ミュージカルのプロデューサーである野上祥子さんの総勢5名。
 「テニスの王子様」の世界を生み出し、育ててきた張本人たちによるトークショーということで、凄まじい倍率となった今回のイベント。会場はさまざまな年代の「テニプリ」ファンで満員となり、その様子からは長きに渡り愛されていることがひしひしと伝わってきました。

 順番に登壇者の方が会場に現れる中、最後に許斐先生が登場すると、会場の興奮は最高潮に。参加者とハイタッチをしながら階段を駆け下りる先生の姿に、うっとりと見とれているファンの姿が印象的でした。

会場後方から颯爽と登場した許斐先生。「かっこいい!」という声があちこちから上がる

 トークショーでは、「オールテニプリヒストリー」と題し、テニスの王子様のこれまでの歴史を振り返りました。これまでの歴史の中で大きな節目である「漫画の連載」「アニメ放送」「ミュージカル上演」の三つのトピックについて、それぞれの製作者の方から貴重なエピソードが次々と飛び出していました。

 メディアミックスを通してその世界を広げていった「テニスの王子様」。アニメーションを手掛けた山本監督曰く、「視聴者が驚くような演出をする」こともあるそうですが、やはり「一番のバイブルは原作」なんだとか。一方、舞台に携わる野上さんも「出演者が演技に迷ったら、とにかく漫画を読んで、自分なりの表現を探ってもらう。舞台にはいつも、ボロボロの単行本が置いてあるんです」と語ります。幅広くメディアを横断する「テニプリ」の世界ですが、その核にある原作マンガの力があるからこそキャラクターの魅力や世界観を損なわずにファンに愛されているのだということを強く感じるエピソードでした。

 現在では広く浸透したメディアミックス作品の先駆けとも言える「テニスの王子様」。和気藹々とした雰囲気の中で進んだトークショーの様子からは、それぞれのメディアの製作者が一丸となって「テニプリ」の世界観を作り上げていることが伝わって来ました。

 

 トークイベント終了後、原作者の許斐剛先生にお話を伺いました。

 

テニスの王子様は1998年から物語が始まり、来年20周年を迎えます。今までを振り返っての実感をお聞かせください。

 読み切りを経て、連載をスタートしたのが1999年。以来とにかく必死で続けていたら、気が付けば18年経っていた。というのが、正直なところですね。
 連載当初は「毎回クライマックスのつもりで描くんだ」という思いで描き続けていました。とにかくランキングの上位を獲得するために、わき目も降らず全力疾走を続けているような毎日でしたね。ひとつの作品を18年も描き続けられるのは難しいことです。ファンのみなさんが作品を愛してくれるからこその結果なんです。僕はほんとうにファンに恵まれているマンガ家だと思います。

京都という街、そして芸術大学という場で展示を行われたことについてはどう感じていますか。

 こうした大規模なイベントが開かれるのは、多くの場合首都圏なんです。関西で開催できることはなかなかありません……。なので、今回は普段出会うことの少ない京都をはじめとした関西のファンの方々に会えることがとても嬉しいです。
 さらに今回の「テニプリミュージアム in 京都」には、関西圏だけでなく全国からも多くの方々が京都に集まってくれたと聞いています。世界的な観光地でもある京都は秋の見所がたくさんあります。「テニプリ」の世界観に浸ってもらうことはもちろんですが、京都の魅力も味わってもらいたいなと思います。
 芸術大学でイベントを開くことは僕自身初めての試みだったのですが、今回は「テニプリ」の歴史と世界観を「ミュージアム」という形で見せることになったので、京都造形芸術大学の学内ギャラリー「ギャルリ・オーブ」という会場が持つ特性とマッチしたと思います。

「母方の実家が京都にあるんです。だから、懐かしい気持ちもありますね」と語る許斐先生

プロとして漫画を描き続けて行く中で、意識していることはなんでしょうか。

 「ファンのために描く」ということです。僕は自分のためにマンガを描くことは絶対にありません。どんなときでも作品を愛してくれるファンのことを思いながら描いています。
 ただ、一口にファンと言っても、いろんなタイプの読者を想像するんです。例えば、連載当初から欠かさず読み続けてくれているコアなファンや、「ちょっとテニプリでも読んでみるか」と、ライトな感覚で手にとってくれる読者も想定しています。あと、僕の作品を嫌いな人間が読んだ場合のことも意識していますね。「あれ、意外と面白いじゃん」と思って好きになってもらうためにはどうするかを考えるんです。いろいろな年齢層の読者の目線にも立ってみます。「この性別、この年齢層の方ならこんな表現は喜んでもらえるだろうか」といったようにね。最終的に、さまざな切り口から検討した中で最も魅力的だと感じる方向で描いています。
 これは新人賞の審査などでも度々書いていることなのですが、新人のマンガ家や、これからマンガ家を目指す人たちは「自分がこう描きたい」っていうビジョンしか考えられていないことが多いんです。「相手がどう思うか」まで考えている人は多くないんですね。でも、そこを少し考えるだけで、全く違ったものが出来上がります。
そして、いつかはみんなが喜んでもらえるものが、自分の描きたいものになっていくんだと思います。

先生にとってライバルはいらっしゃいますか?

 僕にライバルはいません。
 唯一無二の存在でいたいんです。既成概念や既存の枠組みをぶち壊していける存在でありたいと思っているんです。例えば僕はマンガ家でありながら、歌を唄ってCDを発売しています。これも、ただ歌が好きだからという理由でCDを出したわけではないんです。作曲家やシンガーソングライターといった専門家がつくるものとはちがう、マンガ家にしか書けない歌があるはずだし、原作者だからこそつくることのできる歌に色濃くメッセージが載せられるなら、歌を通して「テニスの王子様」の世界を別の形でもっと楽しんでもらえるはずだと思ってるんです。
 もしかしたらマンガも、「テニスの王子様」という世界観を伝える手段の一つに過ぎないかもしれませんね。目的はマンガを描くことではなく、世界観を伝えることなんです。とはいえ、マンガがなければここまで作品が広がりを見せることはありえなかったことも事実。マンガという作品世界の軸を揺るがないものとしなくてはならない責任は強く感じています。

アニメやミュージカルと作品世界が広がりを見せる中、自分以外のクリエイターに自分のキャラクターを任せる上で気をつけていることはありますか。

 キャラクターの魅力が仮にメディアミックスによって崩れてしまったとき、一番悲しむのはファンの方々です。ですから、作品が広がりを持つことがとても良いことだと思いますが、キャラクターや世界観を壊してしまうようなこと、つまりファンが嫌がることにならないように気をつけています。守るべきところはこちらできっちり守らなきゃいけない。
 もちろん、より良い表現になる場合はすごくたくさんあります。製作陣が頑張ってくれるおかげで人気が上がるキャラもいるんですよ。キャラクターの根本的な部分が変わらないように注意しながらも、最大限ファンのみなさんとともに楽しむようにしていますね。

マンガ文化の振興にあたって大学に期待していることはありますか?

 確かに大学をはじめとした教育機関で次代を担う人材を育てていくことは大事かもしれません。でも、一番大切なのは個人の意識の高さだと思いますね。情熱がなくては魅力的な作品を生み出すことはできません。情熱を引き出す環境をつくることや、マンガ文化の先端でリードして行くこと、そして作品を読んで「こういう職業につきたいな」と思ってもらえるように盛り上げていくのは我々マンガ家の役目だと感じています。
 もちろん京都造形芸術大学のように、いろいろな分野の方が集まって切磋琢磨する場所があるのはすごく嬉しいことだし、これからも、ここからどんどん羽ばたいていってほしいですね。

最後に、クリエイターを目指す学生に向けてメッセージをお願いします。

 好きなことを一生懸命やり続けることが大事です。
 どんな分野でも、途中で逃げてしまったり、諦めてしまう人がすごく多いんです。でも、諦めないでやり続けている人間は絶対に残ります。負けないで、信じた道を突き進んでもらいたいです。頑張ってください!


 終了後には、先生自らミュージアムを訪れ、来場者と言葉を交わしながら会場を観覧した許斐先生。そうしたファンとの距離の近さも、「テニプリ」が長く愛される理由のひとつなのかもしれません。

 

© 許斐 剛/集英社 © 許斐 剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト © 許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会

  • 米川実果Yonekawa Mika

    1996年滋賀県生まれ。京都造形芸術大学 情報デザイン学科2015年度入学。デザインが地方に対してできることに興味があり、京都を中心にイベントなどの企画に関わってきた。人生のお供はくるりと穂村弘。

  • 小山田 晃Akira Koyamada

    1996年大阪府生まれ。京都造形芸術大学 情報デザイン学科2015年度入学。映像を中心にグラフィックデザイン全般を学ぶ。好きなことはゲーム。

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