REPORT2017.10.30

アートプロデュース

通信制大学院 超域プログラム 特別講義レポート① -コンテンポラリーアートを学ぶ者の心得 「後藤繁雄ラボ 」より

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  • 京都芸術大学 広報課

 京都造形芸術大学の通信教育課程に、「超域プログラム」と呼ばれる大学院修士課程プログラムがあるのをご存知だろうか。

 「社会のなかに芸術の新しいかたちを提案できる人材を育成すること」を目的に、今年2017年4月からスタートし、現在日本画家の千住博教授による「千住博ラボ」と、新規事業の起業支援やプロデュースを専門とする小笠原治教授による「小笠原治ラボ」に、14名が学んでいる。

 来年度には、アートプロデューサーの後藤繁雄教授による「後藤繁雄ラボ」が加わり、更に進化させていくという。

 実際、その授業の現場はどのようなものになるのか。10月21日(土)、22日(日)の2日にわたり、東京・青山一丁目にある外苑キャンパスで行われた特別講義を取材した。

***

 10月21日(土)午後6時に外苑キャンパスを訪ねると、40人ほどの方々が集まり、その熱い視線の先に、後藤繁雄先生が立っていた。後ろには、100年前の1917年にフランス人美術家マルセル・デュシャンが発表した作品《泉(英名:Fountain/仏名:Fontaine)》が投影されている。

 後藤繁雄先生は、大学卒業後の20代から40代にかけて、「編集」、中でも「芸術編集」という分野で活躍し、その後更にアートプロデュースに分野を広げてきた人物で、現代アート、特に写真分野を得意としており、現在恵比寿に自身のギャラリー「G/P Gallery」を持ち運営している。京都造形芸術大学では2004年に、それまで芸術研究に主軸を置いた学科が、現在進行形のアートと取り組むカリキュラムに大きく舵を切った際の初代の学科長として着任し、現代の芸術をマネージメントする人材をたくさん世の中に排出した実績がある。その後、「ASP」と呼称で親しまれる同学科は、福のり子先生、そして現在の伊達隆洋先生へと引き継がれ、大学の中で制作に励む学生たちの傍らで、アートマネージメント機能を発揮できる部門として、大学に活力を与えている。

 さて教室では、一枚のペーパーが配布されていた。タイトルに「コンテンポラリーアートを学ぶ者の心得」とある。目を通すと、なるほどという文章が並んでいたので、ここに転記しよう。

 

コンテンポラリーアートを学ぶ者の心得
2017.10.21

➀コンテンポラリーアートとは、まだ評価の定まっていない、「今」のアートのことである。フレッシュなアートだ。「わからない」かもしれないが、「コワイ」ものではない。魅力的なら、その冒険にでかけよう。大切なことは、「アートが好きだという初期衝動」。「感じよう」とするカラダをつくること。それはあなたを変えるだろう。

②コンテンポラリーアートには、創る、見る、理解する、見せる、売買する、などの「学ぶ」分野がある。アートを学ぶことは、エンドレスだ。ありがたいことに、フレッシュなアートは、次々に生まれてくる。好奇心を全開にすれば、学び続けられる。

③コンテンポラリーアートは、「問い」である。「問い」を創る、「問い」とつきあう、「問い」と格闘する、「問い」と旅する。「問い」はなくならないが、体感によって開ける。そして、「問い」は、アップデートされてゆく。それを楽しみたい。

④コンテンポラリーアートには、さまざまな「アートの仕事」がある。アーティスト、ギャラリスト、批評家、研究者、ライター、インタビュアー、アートブックのディレクター、キュレーター、アートプロデューサー、コレクターなど、社会がアートを求めるにしたがって、これからますます増えていくだろう。コンテンポラリーアートを学ぶことは、あなたの身を助く。

⑤コンテンポラリーアートを学ぶことは、知識の積み重ねが必要だが、それだけで進んで行けない。アートには、アートの思考法、ツボがある。自転車はコツをつかめば乗れるようになる。それと同じだ。例えば、「メタ」と「次元」。さあ、学んでみよう。

⑥コンテンポラリーアートを学んでゆくと、発見が多くなるだろう。そして、答えは1つでなくてよいのだと、気づけるようになるだろう。思考のシフトができるようになるのだ。1番新しいアートと、古代のもの。日常的なものと、宇宙が同じに感じられる時が来るだろう。

⑦コンテンポラリーアートは、最初難しいと思っても、結局は、アーティストというニンゲンのイトナミである。コンテンポラリーアートを学ぶといことは、ニンゲンの面白さ、奇妙さ、可能性について学ぶことになる。

⑧コンテンポラリーアートは、誰に対しても開かれているが、アートワールドという、独自の価値観による世界をつくっている。コンテンポラリーアートを学ぶことは、そのパスポートを手に入れることであり、旅し、住むことができるようになるということだ。

⑨コンテンポラリーアートの世界は、この世を支配している「お金」とは別の「価値」でできているところがある。コンテンポラリーアートを学ぶことは、この世に、「お金」では買えないものがある、ということ。パラドックスを教えてくれるだろう。

⑩コンテンポラリーアートを学ぶことは、誰のためのものではない。誰に言われてやることでもない。自分の快楽、自分の歓びのためのものだ。フランスに、アール ド ヴィーブルという言葉がある。例え最先端のコンテンポラリーアートの研究者を目指したとしても、生活をアートにすることを忘れてはならない。

さあ、ともに学ぼう!

後藤繁雄

 

 どうだろう?まるで夏休みの過ごし方を考えるような、ワクワク感が伝わって来るようではないだろうか。

アンディ・ウォーホル《マリリン・モンロー》。ウォーホルはデュシャンから頭脳プレイでアートをやることを引き継いだという。
ウィレム・デ・クーニング《インターチェンジ》。2015年に3億ドルの値がつき、「世界で最も高額な油彩作品」の記録を更新した。
バーゼル(スイス)で毎年6月に開催される「アート・バーゼル」。中でも「アンリミテッド」のコーナーでは、流行最前線の作家50人ほどの個展会場となる。
アート・バーゼルで展示されたソル・ルウィットの作品。ルウィット本人は故人だが、残された指示書を基に制作された。「指示書をアートにするって面白くない?」と後藤先生。

 

 このペーパーに沿って語られた話も、実に面白かった。

 たとえば、③の中の”「問い」はなくならないが、体感によって開ける”についての説明。

 コンテンポラリーアートは、作家に「この作品の意味は何か」尋ねるのではなく、お客さんが答えを出すことができ、またその答えがひとつではないこと、そして自分で考えた答えが年齢とともに変化するところが面白い部分。それは経験が積み重なることで理解が得られていくという過程であり、その経験値の奥行は、フラットなイメージの広がりでしかないインターネットからは得ることはできず、「時間」と「空間」の中での体験が必要になる。ということは、実際に作品を見に行かなくてはならないが、この手間がかかることがとても重要で、反対にアーティストは、そういう「時間」と「空間」が入った経験をお客さんにどういう風に提供するのかということが大切だ。全作品を見るの難しく、「問い」はなくならないが、体感によって開かれた時、それは大きな喜びだ。

 話を聞いていると、素晴らしい作品と出会った時、痺れるような感覚で心をつかまれ、作品の前で立ち尽くしたあの瞬間が思い出されてくる。あの感覚は、あの時、あの場所でなくては生まれなかったものだ。

2015年アート・バーゼル「アンリミテッド」のヴォルフガング・ティルマンス個展会場。反商業主義傾向の強いティルマンスが、アートマーケットの総本山でどうするのか?と思ったら、ただのコピー用紙を並べて売っていた。「これを買えるなら買ってみろ」というメッセージに痺れたという。
テートモダンに展示されたルイーズ・ブルジョワの初期の作品。ブルジョワは森ビルの前に設置される蜘蛛の作品が有名だ。
熱く説明する後藤繁雄先生
受講されたみなさん、真剣に話に聞き入っています。

 

 また、⑤のコンテンポラリーアートには思考法、ツボがあり、それは、つかめば自転車に乗れるようなコツのようなものであるというくだり。

 たとえば、スナップ写真が何故アートになり得るのかという疑問に対して、「写真について考えた写真」「絵画について考えた絵画」「彫刻について考えた彫刻」はすべてコンテンポラリーアートになるという。それはアートというものを客観化し、対象化した思考法で、それを「メタ(meta=超える)」と呼ぶのだそうだ。

 なるほど、これまで「なぜこれがアートなの?」と思う作品と出会っても、いっこうに解けないナゾのままだったが、このヒントで、もしかしたら解けるようになるかもしれない。

2018年新春に新刊予定の『アート戦略/コンテンポラリーアート虎の巻』(発行:光村推古書院)

 通信教育課程の大学院修士課程「超域プログラム」内に来春開講する「後藤繁雄ラボ」では、このようなコンテンポラリーアートの学びが待っているとのこと。後藤先生が40代から20年かけて培ってきたコンテンポラリーアートに関わる学びを、まだ元気なうちに次の世代に伝えたいという気持ちでこのラボに取り組むという。もしも興味があったら、その扉を叩いてみて欲しい。

後藤繁雄ラボ

http://www.kyoto-art.ac.jp/tg/Interdisciplinary/goto/
 

 一方、大学で学ぶほどのエネルギーをかけることができない方には、後藤先生の新刊『アート戦略/コンテンポラリーアート虎の巻』が来年新春に出版されるとのこと。そちらを手に取ってみるだけでも、コンテンポラリーアートへの入り口は開くかもしれない。

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 さて、翌日の10月22日(日)には、日本画家の千住博教授の特別講義が開催されたが、その様子は次回の記事で報告させていただくことにしよう。

 

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