ソニーワールドフォトグラフィアワード 10年の歩みと今後に向けて -Student Grantを獲得した片山達貴くんのプレゼンテーションを取材して
- 京都芸術大学 広報課
9月29日(金)昼下がりの秋風が心地よい中、東京・銀座四丁目の交差点にGINZA PLACEを訪ねた。ソニーイメージングギャラリーや、ソニーストア銀座が入居するこのビルは、ちょうどオープン1周年を迎えたところで、透かし彫りをモチーフにしたという白い外観はまだ新品の美しさをたたえている。
このGINZA PLACEを訪ねたのは、7階のBISTRO MARXで行われた「ソニーワールドフォトグラフィーアワード 10年の歩みと今後に向けて」と題した会を取材するためだ。
今年の春、京都造形芸術大学美術工芸学科4年生の片山達貴くんが、このソニーワールドフォトグラフィアワードの学生フォーカス部門で、ファイナリスト10人のひとりに選ばれ、グランプリは逃したものの、他のファイナリスト2人とともに1年かけて作品を制作するStudent Grantと呼ばれるプロジェクトに選ばれた。その片山君が、この日ここでプレゼンテーションを行うことになっているのだ。
会場に着くと、写真を専門とする報道関係者や同アワードの過去の受賞者たちが集まり、和気藹々とした雰囲気が漂っていた。
ソニーワールドフォトグラフィアワードは、2007年10月にロンドンで開催された記者発表をもって産声をあげ、2008年4月にフランス・カンヌで行われた授賞式を初回に、途中発表の場をイギリス・ロンドンに移しながら、毎年世界中の才能ある写真家を発掘し、世界に紹介している。「プロフェッショナル部門」「一般部門」「ユース部門」「学生フォーカス部門」の4つの部門があり、これまでの応募作品数は延べ150万点を超え、応募者数も延べ約28万人を数えているという。写真分野で唯一無二の世界的コンペティションと言って間違いないだろう。
このソニーワールドフォトグラフィアワードが生まれたきっかけは、2007年に同アワードを運営するワールド フォトグラフィ オーガニゼーション(World Photography Organisation)の創設者でCEOのスコット・グレイ(Scott Gray)氏が思い描いた夢に、ソニーが賛同したことだ。以来、プロフェッショナルおよびアマチュアの枠を超えて、写真家同士が交流できる国際的な機会を作ろうとともに歩んできたという。
会場ではこのスコット・グレイ氏より、この10年間の軌跡についてプレゼンテーションが行われた。説明によると、初回の2008年の応募総数は7万点ほどだったそうだが、今年2017年には23万点以上もの応募規模に成長し、また世界中のオンライン報道露出も、2008年には6900件程度だったものが、今年は130万件を超え、この10年の間に世界中で広く認知・評価されるようになってきたことがよく分かる。また、初期の頃は、グランプリの受賞者にしか世間の関心を得ることができなかったが、年々応募作品のクオリティが高くなり、近年はファイナリストの発表の段階でマスコミの大きな関心を集めることができるようになったという。
このスコット・グレイ氏の話を裏付けるように、2016年に一般公募部門で最優秀賞を受賞した野見山 桂さんによるプレゼンテーションでは、受賞後に世界の名だたる報道機関からの取材が続いて、世界が一変したエピソードが語られた。野見山さんは四国を拠点に、環境学を専門とする研究者で、研究の傍ら撮影した竹林で舞う蛍の写真が、いきなりグランプリに輝いたのだという。今年の夏は、瀬戸内海の無人島の蛍を追う様子がNHKのドキュメンタリー番組で紹介されなど、「生き物を育む環境を守りたい」という思いを写真に込めるその活動に注目が寄せられている。
さて、いよいよ片山くんのプレゼンテーションである。
片山くんは、高校卒業の後、美容師や郵便局員などの仕事を経て、京都造形芸術大学美術工芸学科の現代美術・写真コースに入学してきた変わった経歴の持ち主だ。京都造形芸術大学の中でも、ウルトラファクトリーのプロジェクトなどにも積極的に参加し、東京都現代美術館チーフキュレーター(当時)の長谷川祐子さんがキュレーターを務めた「ULTRA AWARD 2015」にも、ファイナリストに選ばれ作品展示を果たしている。実は、この大学広報誌「瓜生通信」の編集部でも活躍しており、今年4月に発行された69号で、京舞井上流五世家元で人間国宝の井上八千代さんにスポットをあてた特集のエディターも務め、その中で井上八千代さんと写真家の蜷川実花さんの対談企画を立案し具現化させたのも片山くんだ。
その片山くんが、このソニーワールドフォトグラフィアワードの学生フォーカス部門の最初の課題「Memories(思い出)」で、世界中の300を超える教育機関の学生たちから提出された応募作品の中からファイナリスト10人に選ばれたのが、この《always there》という作品だ。
その後、このファイナリスト10人が臨んだ課題が「Emotions(感情)」。ちょうどこの時期、人生の分水嶺となる就職活動と重なった片山くんは、就職活動を意味する「就活」と人生のエンディング準備を意味する「終活」を重ね合わせ、就職活動のプロフィール写真と遺影をダブらせた作品《“Shukatsu” from age 25 as the process of self-discovery》で、Student Grantを獲得。現在、米国のファイナリストShravya Kagさん〔School of Visual Arts(スクール・オブ・ビジュアル・アーツ)〕とドイツのSarah Schrimpfさん〔Academy of Fine Arts Munich(ミュンヘン美術院)〕とともに、1年かけた共同プロジェクトに挑んでいる。
また、このSony Student Grant獲得を契機に、更なる発展が続いているようで、公募型彦根市滞在アートプログラム「HIKONE STUDENT ART EXHIBITION 2017」のファイナリスト20名に選ばれ、10月1日まで彦根市の「寺子屋力石」において展示された新作《MY BODY》などについてもプレゼンテーションで紹介された。
ところで、プレゼンテーション終了後の懇親会でのことである。片山くんにスコット・グレイ氏から熱いメッセージが贈られた: 「プレッシャーをかけるという意図ではないのだが、今回初めての試みのStudent Grantから生まれてくる作品が素晴らしいものになることを、心から期待している。もしも素晴らしい作品が生まれた時は、World Photography Organisationの全能力を投入して、君たち3人を世界の檜舞台に押し上げることを約束する。」
このグレイ氏の熱いことばの中に、ソニーワールドフォトグラフィアワードがたった10年でこれだけ世界規模のプラットフォームに成長したその原動力を見た心地がした。グレイ氏とソニーが育んできたこのソニーワールドフォトグラフィアワードが世界中のフォトグラファたちにもたらす意義は、今後ますます大きくなっていくことだろう。
また、片山くんに続く京都造形芸術大学の後輩たちに向けて、スコット・グレイ氏からメッセージをいただいた。
「日本の写真には、荒木経惟さんや森山大道さんといった素晴らしい先人たちが築いてきた歴史があります。私たちは日本人の写真家が持つその芸術性に大変強い関心を抱いており、彼らに続く素晴らしい才能の登場を待っています。ソニーワールドフォトグラフィアワードは近年更なる広がりを見せており、たとえば、数年前に学生フォーカス部門でグランプリを獲得した中国の学生は、この受賞がきっかけとなり米国留学の奨学金を手にしました。このように、ぜひこのプラットフォームをみなさんの次へのステップアップに利用してください。みなさんから素晴らしい作品の応募をお待ちしています」
ぜひ、片山くんに続いてチャレンジして欲しい。
Sony World Photography Awards
初回の2007年からエントリーされた写真の総数は2016年には100万枚を超え、現在行われている写真コンテストの中でも最も尊敬を集め影響力のあるものの一つとして確固たる地位を確立しています。
入賞したフォトグラファーには賞金総額30,000USドルに加え、最新のソニーデジタルイメージング機器が授与されます。 加えて授賞に続く一年間にわたり世界中での露出の機会、作品紹介の機会が待っています。
毎年春に大変好評を博している Sony World Photography Awardsのエキシビションは優勝作品、入賞作品をフィーチャーし、ロンドンのランドマークであるサマセット・ハウスで行われます。
<次回 応募締切>
プロフェッショナル部門 | 日本時間 2018年1月11日(木) 22:00 |
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一般公募 | 日本時間 2018年1月4日(木) 22:00 |
ユース部門 | 日本時間 2018年1月4日(木) 22:00 |
学生フォーカス部門 |
日本時間 2017年12月4日(月) 22:00 ※京都造形芸術大学では「美術工芸学科 現代美術・写真(写真・映像)コース」が推薦申請できる教育機関として登録されています。 |
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