吐く息が白くなり始める12月。
白川通に面する京都芸術大学の玄関口・大階段が、今年もイルミネーションの光に包まれます。
今年で18年目を迎えるイルミネーションプロジェクトは、12月9日(火)18時30分に点灯式を迎えました。
冬の冷たい空気の中、サーカスをモチーフにした華やかなイルミネーションが、
階段を見上げる人々の足を止め、心躍るようなときめきを生んでいました。
このイルミネーションを創りあげたのは、学生44名とMS(マネジメント・スチューデント)2名の計46名。
学科や学年の垣根を越えたチームによって、ひとつの光の風景が形づくられました。
本記事では、点灯式当日の様子とともに、制作チームがイルミネーションに込めた想いをお届けします。
「The Stage of KILIG」

2005年から始まった「イルミネーションプロジェクト」(未実装の年度も有り)。学生たちが実際の社会のなかで学ぶことで、芸術による社会貢献ができる人材の育成を目的として行われているリアルワークプロジェクト(社会実装プロジェクト)のひとつです。
今年のイルミネーションのタイトルは『The Stage of KILIG』。
「KILIG(キリグ)」はタガログ語で、「蝶が舞うようなときめき」を意味する言葉です。
高揚感や興奮、胸がドキドキする感覚を含みますが、日本語には完全に置き換えられる言葉がなく、そのまま訳すことはできません。
このタイトルは、モチーフであるサーカスから着想を得て名付けられました。
幕が上がる前の期待と緊張、演目の最中に訪れる高揚、そして幕が下りたあとの静かな余韻。
そのすべてを包み込む、曖昧で確かな「ときめき」を表す言葉として、「KILIG」が選ばれています。
外から見れば、ここで学ぶ学生たちは、大学というステージで光を浴びる演者のように映るのかもしれません。
学生たちにとっては毎日の勉学に、そして白川通を通る人々にとっては日常の片隅に。
この光は、それぞれの場所へ「ときめき」を灯すステージとなりました。
「幕が上がる、その瞬間」

点灯式当日、大階段には多くの人が集まり、今か今かとその時をワクワクしながら待ちわびていました。
やがて、赤いパーカーに身を包んだ司会の竹本杏菜さん(総合造形コース|1年生)と松村知夏さん(ビジュアルデザインコース|1年生)が登場。本プロジェクトの歴史や今年のイルミネーションのタイトル、その意味をお話してくれました。


その後は、大階段に居る全ての人を巻き込んで、いざ点灯のカウントダウン。10から数え始め、声が揃っていき、「3、2、1……点灯ー!」

その瞬間ぱあっと明るくなる大階段。
両脇に設置された丸いオブジェクトは回転しながら点滅しています。そしてひときわ目を惹くのは、真ん中に設置された丸いイルミネーションの上に乗ったゾウのオブジェクト! まるで本当にサーカスでゾウがパフォーマンスをしているような迫力です。

そのすぐ上を彩る赤と白の布たちは、光を吸い取って眩く輝いています。中央に配置された布には、『The Stage of KILIG』と書かれており、サーカスの一幕に訪れたような心ときめく瞬間がそこにはありました。

シャッター音と、感嘆の声が響きます。息が白くなる寒さの中で、目の前だけ季節が変わったようでした。
訪れていた前年度プロジェクト参加者も、「こんな華やかなイルミネーションになるとは。楽しいし、綺麗」と感動していました。

点灯式が終わると、点灯式前日から配布されていたチケットの交換会が始まりました。
サーカスの入場チケットを模した可愛らしいチケットの裏面には、メッセージを書くための欄が設けられています。
学生食堂のスタッフや清掃員の方々など、日頃から大学生活を支えてくださっている方へ感謝のメッセージを書いて渡すと、大学内のカフェやお弁当の割引券を受け取ることができる仕組みです。
この企画には、「学生一人ひとりが主役である」という想いと同時に、舞台が演者だけでは成り立たないように、また学生生活も多くの支えによって成り立っているという思いが込められています。
日頃なかなか伝えられない感謝の気持ちを言葉にすることで、参加者自身もサーカスの世界に飛び込んで楽しめる、心温まる時間となっていました。
集められたメッセージカードは、展示期間中大学構内に展示されています。
メッセージを受け取る人がその場所を通るたび、ふっと心が温まるような、光だけにとどまらない体験を届けています。
また、このチケットはメッセージカード部分のみを回収する仕組みとなっており、参加者はイルミネーションに参加した記念として、チケットを手元に持ち帰ることができます。



「やりたいことと求められていることの狭間で」
本プロジェクトは、学生にとって「クライアント」が存在する制作でもあります。
イルミネーションプロジェクトは、瓜生山学園理事長がクライアントとなり、行われています。
普段は自分で何を制作するかイチから考え、制作者も自分という中で創作することが多い学生たち。構想を練る段階から、普段と違うものづくりのプロセスを踏んでいかなければなりません。
理事長からの要望は、大学に関わる人々や白川通を歩く人々が、イルミネーションを通して心温まり、感動してほしいというものでした。
今回は制作班4チームと広報班の計5チームに分かれて制作が行われました。
「良いものを創ろうとすると、自分たちのやりたいことが前に出ちゃって、それをクライアントに沿ったものに引き戻す作業っていうのがすごい大変で。引き戻しちゃうといろんなものが減っていったりして、そこをまた補うのが大変でした」
広報班の松井咲樹さん(映像クリエイションコース|1年生)はそう語ります。
その中で、学生みんなが主役であるという想いや、小さなときめきに気づいてほしいという想い。そして、それを見た人たちに心温まってほしい……そんな想いから作りあげられた「サーカス」というモチーフと共に、制作は進んでいきました。
「サーカスを支える仕掛け」
今回のイルミネーションには、布を使った表現が取り入れられています。その表現についてのこだわりを、制作班である、北坂雫さん(ビジュアルデザインコース|1年生)にお聞きしました。

「この布はオーガンジーという素材なんです。プレゼンの時は耐久面でどうなのかなって言われてたんです。別の素材を考えた方が良いんじゃない、ってプレゼンを見た人たちから言われて。でもどうしても諦めきれなくて」
空中を飾る華やかな赤と白のオーガンジー。しかし、風を真に受けるとそのまま煽られてしまいます。そこで、布に大きな切り込みを入れて、風に煽られないよう工夫をしたと言います。
制作時にも、他の制作班とは教室を変え、4台のミシンで縫い上げたり、切ったりしたようです。
「ミシンを触るのが久しぶりってメンバーも居て、最初は不安でした。ただ、メンバーにファッションデザインコースの学生が居て、その子に教えてもらいながら、最後にはみんなで集中して取り組めました。色んな学科が集まったプロジェクトだからこそ、それぞれの得意を活かせたと思います」
オーガンジーは光沢感のある素材。イルミネーションの光を受け、空間をより煌びやかに演出しています。
また、階段には回転する球体が使用されています。制作班で山本志道さん(クロステックデザインコース|2年生)は、その統括をされていました。

「球体のサイズや作り方から考えないといけなくて。風を真に受けて倒れてしまわないかとか、耐久面の問題とか。先生方と相談しながら、回転台に乗せたり、二個作って交互に点灯させる仕組みを作りました」
回転する仕組みを作ってほしいというのは、クライアントからの要望でもありました。プレゼン時には、回転する仕組みがなく、静かだったサーカス。それをより華やかにしてほしいという要望を叶えるため、学生たちは食らいついていきました。
「この大学のウルトラファクトリー(ライセンスを取ればだれでも使える、大学の造形技術支援工房)で金属や木の切り出しを行ったんですけど、それに三日くらい時間をとられて。ライセンスがないとできない作業もあるので、分担しているうちに、一体感を持って作業ができるようになったと思います」
トライアンドエラーを繰り返し、一つずつ作りあげていかれたイルミネーション。それを伝える役割であった広報班の松井咲樹さんは、サーカスの幕が上がる前のワクワクを演出するために、広報のやり方を工夫していました。

「イルミネーションはだいぶ賑やかな感じですけど、広報はその前の部分を伝えなきゃなので、なるべく大人しい感じで伝えました。ポスターやチケットの色合いも落として。点灯時のわあっ、って感じが薄れないように、なるべく華やかさを隠していきました」
イルミネーションプロジェクトのInstagramを見ると、彩度を落とした赤色を使用して、幕が上がる前のあの余韻が再現されていることが分かります。
「チケットやポスター、それぞれ作る人が違うから、色味を統一したりとか、雰囲気を合わせたりするのが大変でした。途中で大迷走したりして、バックナンバーのジャケット写真っぽくなった時もありましたけど、最終的には今の形になりました」
始まる前から本気で取り組み、ワクワクさせてくれる、チーム一丸となったものづくりが行われていました。
MSを務めた夏原美幸さん(演技・演出コース|2年生)は、去年のイルミネーションプロジェクトの参加者でもありました。

「柱の部分にも装飾があるんですけど、去年は鏡を張っていたんですよ。でも、今年はあれ自体が光るように電飾をとりつけて、さあ光をつけるぞってときに、メンバーが凄く感動していて。頑張ってくれてありがとう、って思いました」
同じくMSを務めた福田杏夏さん(キャラクターデザインコース|2年生)は、クライアントプレゼン時のお話をしてくれました。
「サーカス案を理事長に通した後、一週間ほどブラッシュアップの期間があるんですけど、そのブラッシュアップをMSが理事長に報告しに行くんです。元々、中央のゾウが乗ってる球は、何も乗っていなくて、玉乗りのモチーフとして置いていたんですけど、『ただの球だと伝わりにくい』とアドバイスをいただいて。それを素直に受け止めてやってみると、画面が引き締まりましたね」

学生自身がやりたい表現と、クライアントからの要望。その両方にまっすぐ向き合っていく。そういったメンバーの姿勢を、MSのお二人は優しい笑顔を浮かべながら、楽しそうにお話してくださりました。
「幕が下りた、そのあとで」

MSを務めた夏原さんは、メンバー一人ひとりと向き合ってきた日々を振り返ります。
「みんなが何を頑張って、何に悩んでいるのかを見ながら、一生懸命取り組んで、成長していく姿を見られたのが嬉しかったですね。完成まで持っていけて良かったな、と思いました」

また、担当教員である原田悠輔先生はこのプロジェクトをこう総括します。

「どう見せるか、どう伝えるか。クライアントや、初めて見る人に何が伝わるのか。
その点に真摯に向き合い、試行錯誤を重ねてきたからこそ、今日の形に辿り着けたのだと思います」
そして広報班の松井さんは、最後にこう語ります。

「点灯式で終わりじゃなくて、これからの日常の中でも、小さなときめきに気づいてほしい。
このプロジェクトが、誰かの人生のきっかけになってくれたら嬉しいです」
点灯式の夜が過ぎても、大階段のイルミネーションは、変わらず白川通を照らし続けていきます。
制作に関わった学生たちにとって、このプロジェクトはひとつの「成果」であると同時に、
社会と関わりながら表現を形にしていくことの、スタート地点でもありました。
そして、イルミネーションを見上げる誰かにとっては、忙しい日常の途中で、ふと立ち止まるきっかけになるかもしれません。
学生たちが願った「KILIG」──
それは、特別な夜だけでなく、これからの日常のどこかで、
小さく、確かに灯り続けていくのだと思います。
本イルミネーションプロジェクトは、12/24(水)まで、18時から20時まで点灯しています。
ぜひ、大学という舞台で輝くサーカスを、日常の途中でふらりと覗いてみてください。

イルミネーションプロジェクト インスタグラムアカウントはこちら
(文=文芸表現学科3年 千葉 美沙希、撮影=Oto Hanada、※印撮影=広報課撮影)
京都芸術大学 Newsletter
京都芸術大学の教員が「今、気になっている」アート・デザインの話題と、週に一度のコラムをお届けします。メールアドレスだけで登録完了、来週から届きます。
-
京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts
所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
連絡先: 075-791-9112
E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp