3つの「つながり」で紡ぐサステナブルなビール『梅田木立』のラベルデザイン — 4者による産学連携アップサイクルプロジェクト
- 上村 裕香
コーヒー抽出後の豆かすを、オリジナルレシピをもとに醸造し、クラフトビールへと生まれ変わらせることで、食糧廃棄物の削減と資源の循環を実現する。そんな、アップサイクル・クラフトビール『梅田木立(うめだこだち)』第3弾のラベルデザインを、本学のプロダクトデザイン学科・プロダクトデザインコース4年生の徳田奈緒さんが担当しました。
徳田さんがデザインしたラベルの『梅田木立』は、複合高層ビル「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」の入居企業の従業員専用レストランやバーで従業員に向けて、2025年11月5日(水)から提供を開始しています。
本プロジェクトは、阪急阪神不動産株式会社、CRUSTJAPAN株式会社、日本ビジネスシステムズ株式会社と本学の産学連携プロジェクトです。2025年度前期の授業で、様々な学科の学生30名が第3弾『梅田木立』のラベル、ノベルティBOX、フライヤーのデザインコンテストに取り組みました。審査の結果、見事最優秀賞に選ばれたのが、『梅田木立』の3つのつながりを表現した徳田さんのロゴ・ラベルデザインです。
今回は、デザインを担当した徳田さんに制作の過程やデザインに込めた思いを伺いました。
多様な学科の学生が参加する産学連携プロジェクト
今回のデザインコンテストは、丸井栄二教授(芸術教養センター)の芸術教養科目の一環として行われ、徳田さんが所属するプロダクトデザイン学科以外にも、情報デザイン学科やキャラクターデザイン学科、空間演出デザイン学科など、様々な学科・学年の学生が参加しました。授業では、最初に『梅田木立』のロゴをデザインし、その後ラベル、パッケージ、フライヤーの3点のデザインへと進み、それぞれを都度ブラッシュアップしていきました。
徳田さんはこれまでも様々な産学連携のプロジェクトに取り組んできたといいます。特に、プロダクトデザインコースが2017年から取り組んでいる、100円ショップのDAISOブランドを展開する株式会社大創産業との産学連携プロジェクトでは、テスト勉強で定番の赤シートをノートに挟める形にデザインした「落ちない暗記シート」を提案し、商品化されました。

これまでも、文具や雑貨のプロダクトデザインなどの多くの産学連携プロジェクトに取り組んできた徳田さんですが、今回の『梅田木立』のデザインプロジェクトでは、「グラフィックを専門とされている丸井先生の授業で取り組んだからこそ、ロゴに対しての意味づけや世界観を作り込むことが重要だと気付かされました」と語ります。
ロゴ制作は、まず『梅田木立』というビールがこれまでどのような経緯で作られてきたかというリサーチから始まりました。『梅田木立』は2023年・2024年にも販売され、それぞれのビールの特徴を表現したラベルが好評を博しました。これまでに販売された第1弾・第2弾の情報や『梅田木立』という名前の由来を調べ、デザインにどのようなメッセージを込めたいか、考えていきます。10案以上のラフスケッチを描き、試行錯誤を繰り返して現在の形へと辿り着きました。

徳田さん:わたしが今回意識したのは「つながり」というコンセプトでした。『梅田木立』が販売される大阪梅田ツインタワーズ・サウスにも「つながる梅田の中心」というコンセプトがあると聞いていたからです。デザインを通して、3つの「つながり」を表現しました。1つ目のつながりは、これまでの『梅田木立』のラベルとのつながりです。2024年に販売されていた第2弾の『梅田木立』のラベルで使われていたフォントに近いHOT-白舟隷書R教漢Rをベースにした文字を使うことで、より多くのワーカーの方から愛着を持ってもらえるようなデザインを目指しました。2つ目は、4つの『梅田木立』の文字を曲線でつなげることで文字同士のつながりを表現し、曲線の最後には上を向く矢印をつけてアップサイクルの特徴を表しました。全体としては、マグカップをイメージした「立」の文字から湯気が立っているようなビジュアルにしています。3つ目は、大阪梅田ツインタワーズ・サウスの「つながる梅田の中心」というコンセプトを、線が十字に交差するポイントに装飾を施して、表現しました。
企業との対話でデザインを磨く
ロゴデザインの中間発表では、阪急阪神ビルマネジメント株式会社の社員の方々が来校され、それぞれの学生のデザイン案に対してフィードバックを述べられました。中間発表は、学生が自分の考案したデザインを机に並べ、社員の方々が順に回るという形式で行われ、短い時間でコンセプトを伝える力も問われました。

徳田さん:企業の方からのフィードバックでは、デザインについて「ここはいいね」と褒めてもらったり、もう少し別の要素を取り入れたらもっと良くなるというアイデアをいただいたりしました。例えば、ラベルの背景の柄は、大阪梅田ツインタワーズ・サウスの窓の雰囲気をイメージして入れています。フィードバックを受け、そういった細かい部分について、ブラッシュアップしていきました。
最終審査会で、徳田さんのデザイン案は、ロゴやラベルのデザインを通してコーヒー抽出後の豆かすをビールにアップサイクルさせる過程を上手く表現できている点や、第3弾であることを示す「3」という数字がデザインの中に含まれていること、ロゴの中に組み込まれたマグカップのかわいらしさなどが評価されました。
学生それぞれの個性が光るラベルデザイン
ラベル以外にも、ノベルティBOXとフライヤーのデザインも手がけた徳田さん。ノベルティBOXはシンプルにロゴだけを入れたデザインにした一方、フライヤーはターゲット層を強く意識してデザインしたといいます。

徳田さん:ロゴはビールの製造過程や「つながり」というコンセプトを表現したので、柔らかい印象のデザインになりました。しかし、『梅田木立』が販売される大阪梅田ツインタワーズ・サウスは企業の本社が多く集まっているビルなので、会社の中でも役職を持つ50代前後の方々がこのビールを飲む可能性が高いと考え、ターゲットに合わせて、フライヤーでは色味や配置、フォントなどを落ち着いた雰囲気に整えました。
徳田さんは制作過程で、個人的に大阪梅田ツインタワーズ・サウスに足を運び、その外観や建物の雰囲気、利用者層を自分の目で見て、デザインに活かしたと話します。
また、パソコンの画面で見る色と紙に印刷したときの色には差があるため、制作時には何度もラベルを紙に印刷し、実際のビール瓶を想定して瓶に紙を巻きつけ、確認作業を繰り返しました。
中間発表や最終審査の後には、教員も交えて学生が互いの作品についてフィードバックし合う機会も設けられ、それぞれの学生がデザインに込めた思いを聞くことで、「自分とは違う視点や、ターゲットへの新たなアプローチ方法を知ることができました」と徳田さんは話します。

授業内で学生から提出されたデザインを見ていくと、大阪梅田ツインタワーズ・サウス前の横断歩道の真ん中にビール瓶を置いた写真を使ったフライヤーや、大阪梅田ツインタワーズ・サウスを中心としたマップ柄のラベルなど、多種多様なアプローチがあることに驚かされます。優秀賞・特別賞に選ばれた3作品も、ビジネスの7:3の法則とビールの泡の比率を結びつけたグラフィックが印象的なラベルや、グラデーションが特徴的な力強い字体のロゴ、手書きのコーヒー豆のイラストが目を引くシンプルなラベルなど、それぞれの個性が光るデザインばかり。

提出されたデザイン案の中から、最優秀賞に選ばれたときの気持ちを聞いてみると、徳田さんは「めちゃくちゃ嬉しかったです」と笑顔で答えてくれました。
徳田さん:情報デザイン学科などでグラフィックを専門に学んでいる学生も多く参加している授業だったので、その中で選ばれるとは思っていませんでした。他の学生のデザイン案を見て「きれいだな」「いいデザインだな」と思うものがいっぱいあったので、最優秀賞に選ばれたという連絡が来たときは驚きましたし、すごく嬉しかったです。
SDGsの実現に向けた創造的な学び
本取り組みは、コーヒー抽出後の豆かすを捨てることなくアップサイクルし、廃棄物の削減と資源の循環を実現することで、SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」をはじめ、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標13「気候変動に具体的な対策を」といった目標の達成に役立つことを目指しています。
学生がSDGsの実現に向けた学びを実践しながら、社会課題の解決に主体的に関わる機会でもあった『梅田木立』のラベルデザインプロジェクト。プロジェクトを通して、SDGsや環境問題について考えたことを尋ねると、徳田さんは「クラフトビールを買ったことはありましたが、コーヒー抽出後の豆かすを再利用して、風味をつけるビールがあることは知らなかった」と新たな発見があったことを語りました。

徳田さん:サステナブルな取り組みについて、これまでの制作活動の過程で調べる機会はありましたが、知らないことも多いなと感じました。新しい技術が開発され、環境にやさしい商品が日々新たに作られていることを、このプロジェクトをきっかけに知ることができました。『梅田木立』のラベルデザインでは、「コーヒー抽出後の豆かすを使い回しているんじゃなく、新しく生まれ変わったんだよ」という明るいポジティブなメッセージが表現できれば良いなと考えていました。
コーヒー抽出後の豆かすという廃棄物を、美味しいビールへと生まれ変わらせるアップサイクルの取り組み。その物語を一枚のラベルに凝縮した徳田さんのデザインは、3つの「つながり」というコンセプトのもと、多くの人々の手に届けられています。
この産学連携プロジェクトは来年度も継続し、第4弾のビールが制作される予定です。ぜひ、今後の取り組みにもご期待ください!
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。