COLUMN2025.09.30

教育

私のシュルレアリスム元年

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  • 京都芸術大学 広報課

トップ写真 「諸橋近代美術館」

 

私が「芸術」というものを初めて強く意識した瞬間は、小学校の教科書の中にあった。

もともと絵を描くことは好きだったが、そこに「作家性」や「クリエイティブ」という概念があることを突きつけてきたのが、サルバドール・ダリの《茹でたインゲン豆のある柔らかい構造(内乱の予感),1936年》という一枚の絵画だった。

スペインの内戦をテーマにしたとされるその絵は、子供の目には異様としか言いようがなかった。写真のようにリアルで緻密な描写力がありながら、画面全体を覆うのは不穏な空気。人体の一部が引き伸ばされ、ぐにゃりと歪んだ光景には、グロテスクさと同時にどこかエロティックな雰囲気さえ漂っていた。理屈は分からない。

しかし、その強烈なイメージに、私は心を鷲掴みにされた。これが、シュルレアリスムとの最初の出会いだった。 この一枚をきっかけに、私はダリという作家にのめり込んでいく。画集を買い漁り、後年にはダリ作品の収蔵で有名な福島県北塩原村にある諸橋近代美術館へも足を運んだ。それまで恐竜やアニメのキャラクターを描いていた私のノートは、次第にシュールなモチーフで埋め尽くされるようになった。

今思えば、それは思春期特有の「中二病」的な感情、つまり凡庸であることへの反発や、他人とは違う「個性」への渇望だったのかもしれない。その憧れの受け皿として、現実から鮮やかに跳躍してみせるシュルレアリスムの表現は、あまりにも魅力的だったのだ。

この「シュールなもの」への偏愛は、絵画だけに留まらなかった。中高生の頃に夢中になったのがビートルズだ。特に60年代後半、ヒッピーカルチャーと共振した彼らが生み出すサイケデリックなサウンドの世界には、ダリの絵画に通じる「匂い」を感じ取っていた。

なぜこの発想が生まれたのか? その根源を知りたいという尽きない好奇心。 あの教科書の1ページから始まった「脱構築」への旅は、今も私の創作の根幹を成す、終わらない原体験なのである。

 

文化コンテンツ創造学科 虎硬

出展:『雲母』芸術時間 2025年秋号

 

 

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