
京都芸術大学のキャリアデザインセンター(CDC)では、進路・就職に関する不安や疑問に個別で対応するほか、就職支援講座や先輩体験談も聞ける業界セミナー、企業説明会、学内合説など年間を通じてきめ細やかなキャリア支援を実施しています。
本学の進路決定率は、社会実装プロジェクトをはじめとした本学独自の取り組みをスタートしてから徐々に高まり、安定して90%以上の数値を維持しています。学生は1年次から授業で業界研究や自己理解のワークに取り組み、学科の教員による特性を活かした専門的なキャリアサポートを受けることで、自分の経験・強みを活かした進路に進んでいます。
……と、冒頭からお堅い説明になってしまいました。しかし、実はこの記事は「京都芸術大学は進路決定率が高くて、キャリアサポートが充実しています!」ということを宣伝する(だけの)記事、ではありません。もっとちゃんと、京都芸術大学の「キャリア教育」への取り組みや姿勢を知りたい、という思いから企画した記事です。
この記事を書いているわたし(ライターの上村といいます)は、京都芸術大学の卒業生で、現在は同大学院で学んでいます。京都芸術大学を受験すると決めたのは6年前。学費や生活費の面で親に頼るつもりはありませんでしたが、両親に「芸大に行きたい」と打ち明けるときは少し緊張しました。関心を持って取り組んできた分野が専門的に学べるしいいね、と賛成してくれた両親にほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、こんな質問が飛んできました。
「で、卒業したらどうするの?」
当時のわたしは「この大学は進路決定率が90%以上ってパンフレットに書いてあるし」とパンフレットを見せて親を説得しました。しかし、その「進路決定率90%以上」の理由や取り組みについては、正直よくわかっていませんでした。

そこで、今回はキャリアデザインセンターの菅野さんと吉村さんに、進路に悩んでいた高校生のわたしが知りたかった10の質問をぶつけてみました!
もし、これを読んでくれているあなたが本学に興味のある高校生や、高校生の保護者の方、高校の先生方なら、この記事を読めばきっと「進路決定率90%以上の秘密」がわかります。その秘密を知ることは、本学の建学理念やこれからの教育のあり方を知る第一歩になるはずです。
進路決定率90%の秘密
——まずは率直に。本学の進路決定率が高いのはなんでなんですか?
菅野さん:とても平たく言うと、「出口に責任を持つ芸術大学としてそこに本気で取り組んでいるから」だと思います。キャリアデザインセンターだけでなく、先生方も含めて、就職・進路支援を大学全体の大事な柱として位置づけているんです。
キャリア支援の体制としては、キャリアコンサルタントの資格を持つスタッフや外部カウンセラーなど11人のスタッフがいて、学生面談に対応できる体制が整っています。さらに、1年生の後期から教養科目の中でキャリア授業があり、2年次以降もこれに加えて専門科目として学科の先生方がキャリアについて教えています。
学生生活の中で社会と関わるプロジェクトや実践型の授業が豊富にあるので、学生は日常の授業や制作を通じて、自然と就職活動でアピールできる経験や必要な力を身につけていることも、本学の特徴のひとつです。だからこそ、学生には「制作活動に没頭してください」と伝えています。就職活動は特別なことではなく、日常の学びとつなげられるように、大学をあげて取り組んでいます。

吉村さん:キャリア支援の体制として、キャリアデザインセンターと学科の先生が両輪で動いているのも特徴です。映画監督やデザイナーなど、実際に業界で活躍している先生たちが、専門指導と合わせてキャリア支援をしてくれていることは、本学の大きな強みだと思います。
——そもそも、なんで芸術大学なのに就職やキャリア形成、起業・進学も含めた進路決定を重視しているんですか?
菅野さん:大学は「社会の変革を牽引することのできる人材を育成する」「芸術の力を社会に活かす」をディプロマ・ポリシーとして掲げています。学生に四年間授業を受けてもらって終わりではなく、学びを社会にどう活かしていくのか、という視点を持った教育をしているんです。学生たちが日本全国、世界各国で活躍することで基本使命である「藝術立国」に一歩近づけると思っています。
——なるほど。一般的な芸術大学の学生に対する「ちょっと浮世離れしていて、ずっと制作に取り組んで黙々と……」というイメージとはちがいますね。
吉村さん:アーティストや研究者を育てることをビジョンの中核としている大学も多いですが、本学の場合は「芸術を通して学んだことを幅広いフィールドで活かしていける人材を育てる」ことを重視しています。もちろん、アーティストや研究者になることを否定するわけではありません。キャリアデザインセンターでは、学生が自分の専門分野や強み、特徴を仕事や地域のコミュニティなどの社会で活かすためのお手伝いをしています。

キャリアデザインセンターでできること
——キャリアデザインセンターで受けられる支援を具体的に教えてください。
菅野さん:CDCでは、履歴書の添削、面接練習、企業探しから、そもそも「なにがしたいかわからない」「なにからはじめたらいいかわからない」といった漠然とした相談まで対応しています。予約制で面談ができるだけでなく、ポートフォリオの閲覧、就職資料や書籍の閲覧、就活イベントの開催など、幅広いサポートをしています。

——例えば、わたしが大学1年生の後期くらいに「就活の授業受けてみたけど、いまから動き出さなきゃいけないのかなあ。なにしたらいいかわからないなあ」ってキャリアデザインセンターに相談に行ったら、どんなサポートが受けられますか?
吉村さん:まずは面談で悩んでいることを整理するところからはじめて、自己分析をしたり、興味のある仕事や先輩が就職した企業の情報を一緒に見たりします。自分の得意なことややりたいことのキーワードを一緒に見つけていくような作業もします。自分のハッシュタグを探す感じですね。「制作に集中してるうちに夜が明けてるタイプ」みたいな、その学生の個性を一緒に探して、それが活かせる要素がある仕事や会社を薦めたいと思っています。
「就活」というと身構える学生も多いですが、就職って、実は今までの選択と地続きなんですよね。高校を選ぶ、部活に入る、そういう選択と一緒。だから「特別なこと」と思わず、一歩ずつ、だれかに頼って動いていけばいいと思います。

——京都芸術大学ならではのキャリアサポートはありますか?
菅野さん:他大学と違うのは、やはり先生方もキャリア支援の役割を担っているところです。学科の先生方が専門性を活かして授業をしたり、キャリア面談を行ったりします。学科には各分野のプロがいますから、先生方が歩んできた道や業界の話をしていただけたり、ポートフォリオの相談ができるのも、芸大ならではですね。
また、社会実装プロジェクトが豊富にあるので、社会との接点が日常の中にある環境が整っているというのが一番の強みだと思います。以前、オープンキャンパスで自身の就活について話してくれた学生が「学内で得た経験だけで就活に挑めた。中にいるときは、いろんな社会実装プロジェクトがあって、学科の授業で企業の方と関わりながら制作を進めることが当たり前だと思っていたけど、就活のときにその経験を話すと企業の方からとても興味を持っていただけて、当たり前じゃなかったんだと気づけました」と言ってくれて、ちょっと泣きそうなくらいうれしかったですね。





芸大生だからこその強み
——学生の就職先は、どんな企業・職種が多いですか? どんな力が評価されているんでしょうか。
吉村さん:専門分野での学びを活かして、専門職に就く学生が6割と過半数を超えています。企業の総合職に内定し、クリエイティブ部門への配属が決まる学生も多いです。授業のグループワークやプロジェクトで培ったコミュニケーション能力を活かして販売や事務、サービス職で活躍する学生が3〜4割くらいですね。

*2 販売と事務には、総合職(就職後に部署配属が決まる)も一部含まれる。配属先が専門分野の場合は専門職に含める
主な就職先はこちら(https://www.kyoto-art.ac.jp/campuslife/employment/)
菅野さん:芸大生が評価されている力は、正解のない問いに向き合い続ける力ですね。社会で求められる力は時代ごとに変化していて、近年は銀行や自治体なども、芸術を学んだ人の「創造力」や「課題設定力・解決力」に注目して採用枠を広げています。絵が描けるとか、デザインソフトが使えるとかのスキル以上に、課題をゼロから見つけて、共に考える力が評価されています。作品という「完成物」があるというのも、ひとつの強みです。口で説明するだけでなく、目に見える成果があることで、工程管理力や粘り強さなども伝わる。みなさんには社会が注目している力がたくさんあるんです。
キャリア支援のこれまでとこれから
——キャリアデザインセンターの変遷、これまでとこれからについて教えてください。
菅野さん:キャリアデザインセンターの取り組みについては、こちらの進路決定率の推移グラフを見ていただけるとわかりやすいかなと思っています。10年以上前から大学をあげてキャリア支援に取り組みはじめ、昨年度の卒業生の進路決定率は91.5%でした。今後はこの進路決定率を前提として、さらに戦略を強化していく必要があります。

ぼく個人としては、究極は「キャリアデザインセンターがなくなればいい」と思っているんです。つまり、学生たちが学生生活の枠組みの中で自立して就活ができる、教育力の高い大学をつくっていきたいということです。教学とキャリアが一体となっている状態がベストではないかと。もちろん、面接練習や相談の対応は必要だと思いますが、キャリアデザインセンターとしては、面談件数が減少しても学生たちの進路が決まっていくようになることが理想だと思っています。学生にも4年間の学びの延長として就活に取り組んでもらえればと思っています。
——最後に、これからキャリアについて考え始める学生にメッセージがあればお願いします。
菅野さん:キャリアって「すごい決断をすること」と思って怖がる学生が多いんですが、もっと気楽に考えてみてほしいなと思います。一人で考えなくていいんです。キャリアデザインセンターにも、先生にも、先輩にもたくさん頼って、ちょっとだけ選択すればいい。人生の大きな決断に思えるかもしれませんが、戻ることだってできます。怖がらずに動いてみてください。
吉村さん:わたしも、就活は怖いことじゃないですよ、ということを伝えたいですね。世の中はみなさんのことを待っています! 企業の方はみなさんに会いたいんです。企業の方が学生と接してビジネスのアイデアが浮かんだりすることもあるでしょうし、マッチングして入社してくれたら活躍して、一緒に会社を盛り上げていけるかもしれないし。みんなのことをすごくウェルカムに待っている人たちがいるんだよってイメージを持ってもらえたら、もっと就活が楽しくなると思います。就活は団体戦ですから。パーティを組むような気持ちで、後ろにたくさんの味方がいると思って、一歩踏み出してほしいです。

終始和やかな雰囲気でインタビューは終了しました。インタビュー中に印象的だったのは菅野さんの「オープンキャンパスで進路決定率やキャリアデザインセンターの取り組みについて説明していると、『すごいでしょ』って感じになってしまうんです(笑) でも、高校生のみなさんと保護者の方に本当にお伝えしたいのは、良い悪い、すごいすごくないみたいな数字の話じゃないんです。本学はこういうことを本気で考えている大学で、進路を決めて卒業していくことが学生にとって大事だと思っているから、ここにこだわって取り組んでいるんですということを伝えたい」という言葉でした。
実はわたしはオープンキャンパスに行かないまま大学に入学したのですが……。もし、高校時代に菅野さんと吉村さんのお話を聞けていれば、もっと京都芸術大学とはどんな大学なのか、なんで「進路決定」や「社会と関わる」ことに重きを置いているか、知った上で親と話せたかも、と想像してしまいました。
これから進路を考える高校生・受験生のみなさんには、ぜひ一度、オープンキャンパスに足を運んでみてほしいと思います。8月23日(土)、24日(日)のオープンキャンパスでは、就職活動を終えた4年生が登壇する保護者向け講演会の特別企画を計画しています。CDC職員の方にも登壇いただき、本学のキャリア支援の取り組みをお話しいただきます。
キャリアのこと、大学での学びのこと、不安に思っていることがあれば、ぜひその場で質問してみてくださいね。パンフレットやウェブサイトだけでは伝わらない、大学の空気感や教職員の想いがきっと伝わるはずです!
(オープンキャンパス情報はこちら→https://www.kyoto-art.ac.jp/opencampus/)
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。