INTERVIEW2024.10.28

文芸

【こんな国語の教科書があったらいいな】芸大生が目次を考えてみた!――文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信

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  • 京都芸術大学 広報課

コンセプト:読む喜びをさがす旅

多くの人に本を読む喜びを知ってほしい。
そんな想いから、「理想の国語の教科書の目次を作ってみよう!」の企画は始まりました。
メンバーは京都芸術大学文芸表現学科の4人。あれこれ協議しながら、理想の目次を作っていきます。

「心から本を読むことが好きだよ」という人もいれば、「本なんて国語の教科書でしか読んだことがないよ」という人もいます。しかも、割とたくさん。
前者は後者に歯痒さを覚えるし、口には出さずとも、「勿体ない!」なんて上から目線で思うこともあるでしょう。

しかし実際のところ、「勿体ない!」と思ってしまうほどに、本の世界はとても魅力的なのです。魅力的なあまり、自分だけでなく大切な人も本の世界に巻き込みたくなるのです。

だから知って欲しい。今回私たちは、そんな「本なんて」の人も、国語の教科書ならば自然と目を通す、ということに着目して、この企画を考えました。

国語の教科書は、義務教育を受ける者にひとしく与えられる読書体験。
教科書の中で、生涯を通して自分にもっとも必要な本に出会うこともあるでしょう。
誰にでも与えられる読書体験が、ひとりひとりにとってかけがえのないものとなるような。
あるいは読書の楽しさを知ってもらい、他の多くの本へといざなえるような。そんな教科書を作ることができれば。

「色々な形式の作品を入れたいね」
「わかる、あ、でも小説たくさん入れたいな」
「何年生のにする?中3とか、高校生とか、ある程度年齢が上だったら難しめの作品も入れられそうだけど」
「でも、はやいうちに読書の楽しさを知って、その後時間がある中でたくさん本を読んでもらう、とかでもいいよね。ガイドライン的なのになれれば」
「じゃあ、中1とか?」

なんて話しながら、本企画における私たちのコンセプトは、『読む喜びをさがす旅』に決定!
タイトルは「【新編】ろまん国語」。
中学1年生向けの、理想の目次を作ります。

章のテーマ・ジャンル決め:どんなものと出会いたい?

そうして学習指導要領を決めたあとは、どんなジャンルを入れたいかを挙げていきます。

小説・詩・評論などのオーソドックスなものを筆頭に、
「少し変わり種だけどラップとか、マンガも『国語』だよね」
「授業でやらなくても、読んで思い出に残る作品を入れたいね」
この気持ちを軸にして考え、さまざまなものが出てきました。

なかでも「手紙」や「短詩」など、自分たちが経験してきた国語の授業を思い出しながら、“あれもやりたいこれもやりたい“と増えていき……。
なかなかとりとめのない教科書になってしまいそう、と危惧していた時期です。

ここから実際の教科書の目次を参考に、章立てて考えました。

「私のところはこういう単元やったのよく覚えてる」
「私はなかったかも……。代わりに校外学習をやったよ」

などと自分たちの教科書はこうだったと話し合っていると、教科書にはある程度の型が決まっていることに気付きました。

章のテーマと採用するジャンルをまとめていき、全体的に見てみると。

形になってきているのを感じ「これはいいものができるんじゃないか!?」とワクワクしていました。

それでもテーマ名を決めるのに苦労しました。
テーマに合わせてジャンルを絞ると、どうしても小説を差し込む隙がなくなるのです。
なので、小説にも現代小説や著名な文豪の作品・古典など幅をもたせることにしようと案がありました。
他にも、RPGに出てくる町のようなイメージで章タイトルを統一しようという意見が出て、この考えのもとに進めていゆきます。

章の名前は

1 はじまりの町
2 仲間とのであい
3 過去へのまなざし
4 心の対話
5 ゆめの創造
6 旅のおわりに

となっています。
これを開くのは中学に上がり、不安と期待入り混じる春。中学1年生の国語の教科書ということを踏まえて各章の名前をつけました。

例えば「この評論からディベートやディスカッションを~」と授業内容まで考えると、いっそのこと教科書そのものを作りたいと思うほど愛着が湧いてしまいます。
この教科書は誰かの読書体験の礎となることも目的ですが、それと同時に「私たちの考えた理想の教科書」でもあったのです。中学生の時に出会っておきたかったという本も含まれています。

作品選定・決定:届けたい想い

ジャンルと章のテーマが決まると、いよいよメイン。具体的な「作品決め」の作業です。

「絶対にこの作品は入れたい」
「いいと思う!なら、詩ではこの作品とかどうかな」

小説・詩・評論・短歌・俳句。
やはり、文芸表現学科のメンバーなので普段親しんでいる「小説」にはたくさんの候補があげられました。でも、「教科書」なのですから、ただ面白いと思うだけの作品や自分が好きなだけの作品ではダメです。

「中学生のときの自分たちに勧めたい作品はなに?それはなんで?」
「『はじめて出会う少し長い物語』にぴったりで、わくわくするものがいい」
「あの人の歌、ひとつは入れよう」

それぞれの考えをていねいに伝え合いながら納得できる作品を選んでいきます。詩や短歌もつぎつぎに候補が出そろいます。選ぶ作品と理由は違えど目指すところは同じ。届ける人のことも考えてこそ、先述の「学習指導要領」に合うものが出来上がるのだと思います。

一方で、少しだけ難航したのは「評論」の作品決めでした。小説よりは触れる機会が少ないこともあり、教科書に載せるくらいの読みやすい文量の作品がとっさには思いつきません。
頭をひねった末に出されたのは「実際に見に行ってみない?」という提案でした。

ということで、他のジャンルの最後の決め手探しもかねて、図書室にやってきました。
新書の棚周辺など、普段はあまり行かないようなところにも訪れることに。
こうやって世界が広がっていくきっかけになるところも本や読書のいいところです。

そのあとは悩んでいたのはなんだったのか、と思ってしまうほどすんなりと候補が出そろいました。テーマや順番といった「届けたい想い」を考慮しながら作品が決まっていきました。

ここからは決まった作品の中から「この作品について言いたい!」という推しポイントや、選んだ理由などを紹介します。

『神様』川上弘美 

はじめに読みたい短いお話ってなんだろう、と考えたときに真っ先に思いついたものです。
文庫本にしてたった10ページの物語。最近同じ階に越してきた「くま」と人間のわたしが川原に散歩に行く話。礼儀正しく、少し変わった「くま」。たったそれだけの話なのに、なぜか印象に残っています。
飄々としているように見える「くま」と人間とのやりとりから読み取れることは人によって違うかも知れません。どう思った? と会話のきっかけになればいいなと思います。

「『夢十夜』第一夜」夏目漱石

夏目漱石の代表的な作品の一つです。
第一夜から第十夜まで十章に分けられる『夢十夜』は、いくつかが「こんな夢を見た。」から始まります。夢日記のような短編が連なり、第一夜では仰向きに寝る女を覗き込んでいました。今にも死に絶えてしまいそうなその女に「百年待っていてください」と言われます。そうして主人公が女の墓石を眺めて待っていると、百合の花が咲きました。
夢のように曖昧でふわりとした文章が時おり牙をむく瞬間が読んでいて小気味よく面白い作品です。自分は騙されたのではないかと思いながら待つ主人公には、確かに愛があったのではないでしょうか。

「星めぐりの歌」 宮沢賢治

星めぐりというタイトルの通り、宮沢賢治が空を見上げて見つけた星について語っては次の星へ、を繰り返す詩です。めぐるという言葉から星を転々と歩き回っている様子が想像でき、旅をテーマにしたこの教科書の雰囲気にあっていることや、旅の前日の夜のようだと感じたことから最初に持ってくる詩にぴったりだと思い選びました。この詩は宮沢賢治の童話『双子の星』や『銀河鉄道の夜』にも登場するため、これをきっかけに宮沢賢治の他の作品に興味を持ってくれるかもしれません。

『14歳からの哲学:考えるための教科書』

タイトルの通り、考えるためのチュートリアル。中学1年生という、自分のことがなんとなくわかってくるような、わからなくなっていくような時期に凄く良いと思って選びました。とても易しくて読みやすい、でも美しい言葉で、考えるための初期装備をいっぱい授けてくれる本だから。「考えようにも考え方がわからないよ」という子におすすめだし、「別に考えなくたって人生上手く回っていくでしょ!」という子にも読んでほしいです。

他にも、2016年の大ヒット映画『君の名は。』の元ネタとされる『とりかへばや物語』の選書をはじめとして、『赤毛のアン』、『君たちはどう生きるか』など、キャッチーさを意識したラインナップで、文学に興味のない中学生にも入りやすいような工夫を凝らしました。

目次完成:理想大集合!

【新編 ろまん国語1 目次】
1 はじまりの町
・詩 宮沢賢治『星めぐりの歌』
・小説 川上弘美『神様』
・古文 とりかへばや物語
・方言を学ぼう
2 仲間とのであい
・評論 竹内薫『もしあなたが猫だったら? -「思考実験」が判断力をみがく』
・短歌俳句 短歌俳句の世界を知ろう- 「音調」を楽しむラップ
3 過去へのまなざし
・小説 夏目漱石『夢十夜』-「I love you」を自分なりに訳してみよう
・文章力 レポートを書こう
・漢文 推敲
4 こころの対話
・詩 矢川澄子『ことばの国のアリス』
・ノンフィクション 角野栄子『ファンタジーが生まれるとき-「魔女の宅急便とわたし」』-インタビューをしてみよう
5 ゆめの創造
・小説 星新一『ボッコちゃん』
・古文 万葉集   
         古今和歌集-百人一首をしよう
6 旅のおわりに
・漢詩 孟浩然『春暁』   
            杜甫『春望』
・評論 池田晶子『14歳からの哲学:考えるための教科書」』- 自分について考えてみる
付録
・小説 L・Mモンゴメリ『赤毛のアン』    
        吉野源三郎『君たちはどう生きるか』
・戯曲 サムイル・マルシャーク『森は生きている』
・古文 一休ばなし   
      落窪物語
・海外の詩を読もう
・漫画 手塚治虫『火の鳥』    
    萩尾望都『半神』    
    高橋留美子『めぞん一刻』
・翻訳読み比べ
・落語 死神
   寿限無    
   時そば

ついに私たちが考えた教科書の目次が完成しました!
「多くの人に本を読む喜びを知ってほしい」という想いと私たちならではの遊び心を詰め込んだ教科書になりました。前述とは違う章の名前や選出作品になっているとお気づきの方もいるかもしれませんが、こちらは幾度とない話し合いの末「こっちのほうが良い!」となった最終決定版です。

フォーマットは従来の教科書に沿った形を取りながら、従来の教科書ではなかなか見ない、遊び心のあるインパクトのある背景を選択しました。ろまん国語って感じがします。

付録はRPGゲームのエンディング後のようなご褒美感を出したかったので、なるべく多くのジャンルの読み物を選んでみました。
授業では読む機会はなくとも文学作品としてなくてはならない戯曲や外国文学。現在の日本を代表するといっても過言ではない漫画なども載せちゃいます。

話し合いの最中で出てきたものの、教科書本文には入り切らなかった、教科書らしくないという理由で削られてしまった作品も詰め込みました。なんせご褒美ですから、勉強のためだけではありません。

終わりに

ここまで、「多くの人に本を読む喜びを知ってほしい」という想いから始まった「理想の国語の教科書の目次を作ってみよう!」の企画をお届けしてきました。

作りたいものを詰め込みながらも私たちなりの理想の教科書らしい良いものが出来上がったのではないかと思います。

「メンバーみんなで自分が中学1年生の時に出会いたかったなという本をいれました」
「こういった機会がなければ出会うこともなかった作品に出会えるものを作ったんだと思います」

この記事をきっかけに、あなたが知らなかった「読む喜び」に出会えたら幸いです。

 


京都芸術大学 文芸表現学科 社会実装科目「文芸と社会II」は、学生が視て経験した活動や作品をWebマガジン「瓜生通信」に大学広報記事として執筆するエディター・ライターの授業です。
本授業を受講した学生による記事を「文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信」と題し、みなさまにお届けします。

(構成・執筆 文芸表現学科3年 石田葉南、大城彩世、黒田真生、畠山夏芽)

 

 

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