INTERVIEW2024.09.03

アート

SNSで万バズ連発! メディアでも話題沸騰の在学生クリエイター・八羽さんにインタビュー。学内の工房でのユニークな作品づくりに迫ります

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  • 上村 裕香

先日、本学の職員によるこんなXの投稿が話題になりました。

 

 


実は、このキーホルダーを作成したのは本学の在学生。各種メディアにも露出し、1年生のころから精力的に作品制作を行なっています。今回は、アクリル板や木材を使ってユニークな作品を制作しているこども芸術学科3年生の八羽(はっぱ)さんにお話をうかがいました!

 

ウルトラファクトリーにて。「元気な感じで!」とリクエストしたらこんなポーズをとってくれました

手の中で作れる作品

八羽さんが芸術大学に入学しようと思ったのは、高校で体験した「ねぶた制作」の授業がきっかけだったといいます。本学でも名物授業として毎年「ねぶた制作」を行なっていますが、八羽さんが体験したのは個人で作る小さなねぶた。机に座っているだけではなく、体を動かしながら学んだり、自分の手でものを作ったりすることの楽しさを感じ、子どもが好きだったこともあり、こども芸術学科に入学しました。
こうした八羽さんの姿勢は現在にも繋がっていて、入学してからも一貫して「手の中で作れる作品」を制作しています。

八羽さんのポートフォリオサイトより(https://aoiwa88.myportfolio.com/


八羽さんの作品の一部がこちら。どれも持ち運んだり、部屋の中に置いたり、着ていて楽しかったりと、暮らしの中に溶け込んで生活を楽しくしてくれるアイテムです。

話題になったこちらが、「ですが今回は特別に…!?」と書かれたアクリルキーホルダー。注意書きに添えるだけで「ですが今回は特別に…⁉︎」という一言を加えることができ、一発逆転できるキーホルダーです。
「関係者以外立ち入り禁止」と書かれている場所でも、このキーホルダーをかざせば……。と想像するだけで楽しいですね。

なんでも元気になる四肢

八羽さんの代名詞的な作品といえば、「なんでも元気になる四肢」。身の回りのものにかざすだけで手足(四肢)が生えて、なんだか元気になっているように見えるキーホルダーです。
こちらは今年の1月からカプセルトイとしての販売も開始され、インコやぬいぐるみ、猫、建物など様々なものに「なんでも元気になる四肢」をかざした写真がSNSで多数投稿され話題になりました。

ほかにも、「こつぜん」と書かれた「もしかしてさっきまでここに何かあったのではないか」という気持ちになるアクリルスタンドキーホルダーや、正解のないなぞなぞが書かれた「無いなぞなぞTシャツ」など、個性あふれる作品を多数制作・販売されています。

 

趣味の延長から

どうしてこういったユニークな作品を制作しはじめたのか聞いてみると、「個人的な趣味で楽しんでいたものを、周りに勧められて学祭の物販で販売したのがはじまりです」と話してくれました。

「わたしは高校生のころからダンボールでものを作るのが好きで、大学に入学してからアクリルでの制作をはじめました。

最初に作ったのが『なんでも元気になる四肢』です。自分の手足の写真を撮って、プリントして切り取って、ラミネートして、個人的に散歩で持っていったのがはじまりです。その写真を友だちと繋がっているSNSアカウントで公開してみたら、友達に『これすごくいいね』って言ってもらえたんです。それで、学祭の物販でアクリルキーホルダーの形で売ることにしました。はじめから物販やネット販売をするつもりはなくて、趣味の延長でした」

 


学祭の物販で販売したのが1年生の9月、ネットショップの開設は翌年の1月。物販の中でも一際異彩を放っていた八羽さんのブース、記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。

ネットショップの開設までの期間が短いことについて聞いてみると、「高校のころからネットショップが好きで、販売するものもないんですけど、いろんなコンセプトで非公開のネットショップを開設していたんです」とまたユニークな回答が。

その当時に開設していた架空のネットショップのひとつが、現在八羽さんが作品を販売しているネットショップ「健やかな生活」です。作品を購入した方の生活が、作品によって健やかになってほしいという思いを込めてつけました。元気のいい、溌剌とした作品を制作したいという八羽さんのこだわりも込められています。

八羽さんのネットショップ「健やかな生活」題字

 

アイデアの源


物販やネットショップで販売している作品が注目を集め、メディアで取材されることも多い八羽さん。テレビ番組では「思いつきクリエイター」として紹介されたことも。目標は毎週1つの作品を作り続けることだと話す八羽さんの原動力はどこにあるのでしょうか。
「モチベーションが高いわけではないと思います(笑) 周りのみなさんにはよく『思いつくことがすごい』と言ってもらうんですが、自分はもの作りがとても得意ってわけではないんです。細かい作業が苦手だし、アイデアを思いつこうとしても、いつも思いつくわけじゃないし。それでも、なんでものを作るかというと、『予定を埋めたい』んですよね。なにかを考えるのは好きなんですが、考え事をした日って『なにもしてない日』みたいになっちゃうじゃないですか。でも、考えたことを形にしたら『キーホルダーを作った日』になる。惰性で作っていたとしても、その日の予定は埋まってるので。それがモチベーションですかね」

アイデアがいつでも湧いてくるわけではない、と話す八羽さんですが、高い頻度で作品を発表し続けています。作品のアイデアをどうやって考えているのか聞いてみると、「『ですが今回は特別に…!?』キーホルダーを作ったのは、ほかの作品でアクリルが余ったのがきっかけです」と意外な回答が。

「丸い作品を作ると端材が多く出てしまうので、それで細い作品を作りたいと思いました。どんな作品を作ろうかなと図書室で考えていて、おにぎりを食べようとしたら机に『飲食禁止』って張り紙が貼ってあって。『えー』と思って、指に『ですが今回は特別に…!?』って油性マジックで書いて、その張り紙にかざしたんです。そのときに、『これ指じゃなくてアクリルでもいいな』と思いました。ちょうど細い作品作りたかったし、作ろう。そんな風に偶然が重なって制作に行きつきました。お風呂で頭を洗っているときとか、大学の授業を受けているときとか、いろんな場所で何を作るか考えていますね」

手元に「ですが今回は特別に…!?」キーホルダーがある方はぜひ手に持ってみてください。細長いアクリル板の右側は持ったときに手で文字が隠れないよう、文字が印刷されていないんです。こうした工夫も、八羽さんが自分の生活の中でアイデアを発見し、実際にアイテムを使う光景を想像して制作しているから出てくるものなんですね。

 

「こつぜん」キーホルダーはこども芸術学科の課題で制作したものだといいます。八羽さんは「子どもがものをなにか違うものに見立てて遊ぶ『見立て遊び』の要素があったり、自分の行動によってそのアイテムが完成したりするところは、こども芸術を学びながら制作しているものと関連があると思います」と学科での学びとの関連性について語ります。

授業の中で制作した「こつぜん」
商品化した「こつぜん」

 

制作は学内の工房で

日々の生活や大学の中で考えたアイデアを形にするために八羽さんが利用しているのが本学のウルトラファクトリー。2008年に設立された、本学に通う学生なら学科・学年を問わずだれでも利用できる制作支援工房です。

金属加工および樹脂成形を扱う工房と木材加工を扱う工房の2つのフロアから始まり、2017年にシルクスクリーン専門工房、2018年にデジタルファブリケーションの専門工房が増設され、現在は4つのフロアから構成されています。

美術作家であり本学教授のヤノベケンジ先生が工房ディレクターを務め、第一線で活躍するアーティストやデザイナーを迎えての「ULTRA PROJECT」など、さまざまな実践型プロジェクトも行われています。

ウルトラファクトリー ©表恒匡

1番ベーシックとなる基礎ライセンスは常時受講可能になっており、動画の視聴とオンラインテストを受け、ライセンスを取得することでデジタルファブリケーションの工房を利用できます。八羽さんが制作に利用していたUVプリンターは今年に入ってから機材不調のため、利用停止してしまいましたが、レーザーカッターや3Dプリンター、デジタルシルク製版機など、さらに各工房で定期的に実施されているライセンス講習を受講すれば、様々な機械を利用し、制作を行なうことができます。

八羽さんは「ウッドサイン(『逃げて』と印字された木製のプレート)はレーザーカッターを使って、アクリルの作品はUVプリンターで制作しました。外注したらアクリルの厚さが3ミリのものばかりなんですが、ウルトラファクトリーで制作するときは自分でアクリルを用意して、機材にセッティングするので1ミリとか5ミリとかのアクリルも使用できるんです。好きな厚さで好きな色で印刷できるので、中にパーツを入れたり嵌め込んだりすることもできて、自由に作品が作れるのも魅力です。

機械を使うときは職員の方が操作方法を教えてくださいます。予約を取るときにデータを見せるんですけど、その段階で『これは印刷がうまくできないかもしれないよ』ってアドバイスをもらうこともあります。でも、作品の中身について言及されることはほとんどなくて。わたしはそれがうれしいです。自分が作っているものについてなにか言われるのは苦手なので、技術的なアドバイスだけもらえる環境がとてもやりやすいですね」と、ウルトラファクトリーを利用しての感想を語ります。

ウルトラファクトリーでは各工房に1名以上のスタッフが常駐し、学生アルバイトや臨時スタッフからも機械の操作方法や技術のサポートを受けることができます。1年間にウルトラファクトリーを利用する学生は延べ6000名を超えるそう(昨年度は、授業での利用延べ1000名、個人での利用延べ5000名)。

学科の授業や学内で多数行われている社会実装プロジェクトから、個人制作まで、多様な目的で工房を利用する学生を受け入れ、制作支援を行なっています。

ウルトラファクトリー4階の様子 ©顧剣亨

八羽さんは、今後もウルトラファクトリーの機材を利用して作品を制作したいと意気込みを語ります。

「次に考えているのは、結核予防のために打つBCGワクチンのあとをモチーフにした作品です。このワクチンはハンコ注射で接種するもので、9個の針を二の腕に刺すので、9つの点の跡が残るんですよね。その跡が人によって違うのが面白いなと思って、ルービックキューブにしようかなって。ルービックキューブの1マスに1個、ハンコ注射の跡を印刷して、9個の跡がそろうと一面そろうという。でも、試作してみたらワクチンを打った跡だってわかりにくかったので、改良していかないとなと思っています」


今後も独自の発想で作品を作り続けていく八羽さんの次回作にご期待ください!

そして、まだウルトラファクトリーを利用したことのない学生のみなさんは、ぜひ工房を利用して作品を制作してみてくださいね。あなたの作った作品が、だれかの暮らしを変えるかもしれません。

 

  八羽さん関連情報

  X: @aoiwa_88

  メール: aoiwa88@gmail.com

  ネットショップ
  https://aoiwa.stores.jp/

 

  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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