INTERVIEW2024.07.24

京都文芸

芸大生がつくる商業文芸誌「301」第4号、大幅リニューアルで販売中!

edited by
  • 上村 裕香

本学の文芸表現学科が2020年に創設した出版レーベル「301文庫」から創刊された、芸大生がつくる文芸誌「301」。もう、みなさん手に入れましたか?


文芸誌「301」は、慶應義塾大学の学内に編集部を構える「三田文学」や東北芸術工科大学の学生が制作している「文芸ラジオ」などと同様に、現役大学生である本学の文芸表現学科の学生が企画から取材、執筆、編集までを行う商業文芸誌です。
年一回発刊し、大学内のADストアや京都市内の書店、オンラインストアで販売しています。


文芸表現学科には、学科での学びを活かして社会課題の解決に取り組む社会実装科目という授業がいくつかあります。教員の指導のもとで文芸誌「301」を学生主体で編集・制作するのも、社会実装科目の一環として行われています。


このたび発刊された文芸誌「301」第4号の制作を行ったのは、文芸表現学科3年の16名の学生たち。
今回は、第4号の編集長を務めた木村雄大さん(クリエイティブ・ライティングコース3年)、編集委員の宮口結凛さん(クリエイティブ・ライティングコース3年)に、制作の舞台裏を明かしてもらいました!


リニューアルした誌面

301創刊号

文芸誌「301」という名称は、京都芸術大学の所在地・瓜生山の標高が301mであることにちなんでつけられました。
表紙を見てみると、地形図で用いられる等高線が。登山をする際、山の標高を知るための指標となる、同じ高さの地点を連ねて書いた線です。第4号には創刊号や第2号に掲載されていたような瓜生山に関連した企画はありませんが、これまでの歴史を引き継いで制作されているんですね。

301第4号

引き継ぐところは引き継ぎつつ、第4号はガラリと誌面をリニューアルしました!

まず、ページ数は創刊号の約2倍の214ページに大幅増量。29人の作家や評論家、書店員、編集者、落語家などの様々な文芸に関わる人々に取材や原稿依頼を行い、17の出版社にインタビューしたという、学生の熱量がギュッと詰め込まれた一冊になっています。


そんな第4号の軸となっているのが、「芸大文学」と「新釈・上方文学」という2つの特集です。
編集長の木村さんは「どちらの特集も、編集する学生にとって身近なテーマを選びました」と特集について説明します。

「『芸大文学』は芸術大学から生まれる文学作品のこと。従来の一般大学の文学部ではなく、芸術大学の文芸学科で文芸創作を学ぶことは、まだ一般的に認知度が低い学び方だと思います。そこで、『芸大で文芸を学ぶってどういうこと?』とか『小説って独学で学ぶものじゃないの?』という疑問に答える企画がやりたくて。実際に芸大で文芸創作を教えている教員や、芸大で学んで作家になった人にインタビューをしました。『芸大文学』を読んだ人が、文芸表現学科の授業を少しだけ体験できたらいいなと思っています」

「芸大文学」の特集には、大阪芸術大学の文芸学科を卒業した作家・綾崎隼さんのインタビューや、東北芸術工科大学、京都芸術大学、大阪芸術大学の文芸学科の学生が過去に執筆した卒業制作の中から、それぞれの芸大の教員が推薦した小説が掲載されています。

「『新釈・上方文学』は、江戸時代に活躍した井原西鶴や近松門左衛門など、京都や大阪の人形浄瑠璃作者・俳諧師・作家が生み出してきた上方文学の歴史を見つめ直す企画です。『301』を編集する学生も京都や大阪に住んでいる学生が多く、『江戸時代に興った上方文学が、現代の京都や大阪の作家にまでつながっているとしたら?』と考えて、企画しました」と木村さん。

こちらの特集では、『ツミデミック』が最新の直木賞受賞作となった一穂ミチさん、「第11回大阪ほんま本大賞」を受賞した『グランドシャトー』の高殿円さん、今回が小説初執筆となる芸人の九月さんが小説を書き下ろしています。

商業文芸誌を学生だけでつくる

本年度の編集部が動き出したのは2023年10月初旬。大学2年後期から3年前期までの1年間を通して行われる社会実装科目の中で、授業としては週に一回編集会議をして、ときには授業外の時間を使って取材・執筆を行ってきました。

文芸表現学科がクライアントとなり、編集部の学生は「商業誌として社会に通用する雑誌をつくってほしい」というクライアントの要望に応えるため、企画を立案し、12月には台割表(雑誌を制作するとき、どのページにどのような企画や誌面がくるのかなどの構成をまとめた、設計図のようなもの)をクライアントにプレゼン。春休みから取材や原稿依頼に取りかかりました。

10箇所以上の場所に取材に行ったという宮口さんは「『足で稼ぐ』ってことを意識していました。担当教員の先生もいろいろな場所に行ってみて、話を聞くのが大事だと送り出してくださったので、自由に興味を持って取材できました。文芸誌制作に携わって、本づくりにはとてつもないパワーが必要なんだとひしひしと感じるなかで取材させていただくと、本づくりのプロたる出版社の皆さんがずっとかっこよく見えて。『この記事を読む人が、普段文章を書かない人でも、自分が一生懸命になっていることに自信が持てる記事になっているんじゃないかな』と思っています」と取材の日々を振り返ります。

春休み明けの4月からは取材した内容を原稿に起こしたり、作家さんに依頼した原稿の校正をしたり。6月中旬の入稿に向けて、クロステックデザインコースの学生とも連携しながら、文章や誌面のデザインを詰めていきました。
原稿がそろって終わりではなく、印刷所への入稿や校正作業、書店への納品、販促活動まで、文芸誌の編集・販売に関わることはすべて学生が行います。

コンテンツ「上方文化を彩るちいさな出版社」

ここからは、ひとつひとつのコンテンツについて見ていきましょう。
宮口さんが担当したコンテンツのひとつが、特集「新釈・上方文学」の中の「上方文化を彩るちいさな出版社」です。
このコンテンツでは、ミシマ社や赤々舎など、京都・大阪・兵庫の17社の小規模出版社に取材を敢行。上方で芽吹く新たな文学の形を探りました。
ミシマ社のような総合出版社から、染織と生活社のような専門性の高い書籍を出版する会社まで、様々な出版社を取り上げています。

宮口さんは、「『染織と生活社』は、その名の通り染め物と織り物に関する書籍や雑誌の発行が専門の出版社です。染織材料の専門店で働く研究者が創業して、伝統の染め物の切れ端を束にしたものを置いていらっしゃったりします。ほかにも、木版画が専門の『美術社出版芸艸堂』や、『日本の色辞典』で有名な『紫紅社』など、個性的な出版社に取材することができました」とそれぞれの出版社について紹介してくれました。

 

コンテンツ「芸大流・物書きのたまごの育て方」

木村さんの推しコンテンツは特集「芸大文学」の中のインタビュー「芸大流・物書きのたまごの育て方」!
大阪芸術大学の玄月先生、八薙玉造先生、京都芸術大学の仙田学先生、新城カズマ先生の4名の文芸創作を教える教員へのインタビューを通して、芸大の教員がいかにして若い作家を育成し、新しい文学の可能性を引き出そうとしているかを深掘りします。

木村さんは4名へのインタビューについて、「玄月先生は芥川賞作家で、普段『教員』としてお話しされることってあまりないと思うんです。そこで、作家として活躍されている先生方に『教員としてどういう思いをもって文芸創作を教えているのか』ということをお聞きしました。芸大に通うぼくたちから見ると『普段、そういうことを考えて教えてらっしゃるんだ』と知れて、一般の方から見ると『文芸学科ってこんな授業やってるんだ』とわかる記事になっていると思います。小説を普段から書いている人にとっては、小説の書き方のヒントになるかも。それと、玄月先生のインタビューだけ、全原稿の中で唯一関西弁を使っているので、その味わいもすごく好きですね」と顔をほころばせます。

ぜひ編集委員がこだわったというそれぞれの先生方の語り方や言葉の表現にも注目してみてください!

 

 

コンテンツ「書き下ろし小説」

 


京都、大阪、兵庫の3箇所を舞台に3人の作家が小説を書き下ろした「新釈・上方文学」のメインコンテンツ「書き下ろし小説」も、必読の内容となっています。
一穂ミチさんの「大阪の叔父さん」は20歳になった青年・尚志が、気ままに旅をするフーテンの叔父と再会した日を描いたやわらかな後味の一編。
高殿円さんの「祖母が死んで、母はいかなごを炊くようになった。」は神戸の春の風物詩・いかなごを炊く母を見つめる娘の視点から、その土地で暮らすことの実景を活写しています。
九月さんの「春と示唆」は京都での無為な大学生活を振り返る語り手と、友人の山田のふたりの掛け合いが楽しい、ユーモラスな短編です。終盤の台詞の畳みかけに惹きつけられること間違いなし!
ぜひ、3編とも読んで、現代の上方文学の息吹を感じてみてください。

大学生がつくる文芸誌に、プロの作家の作品が掲載されるまでには、多くの苦労があったそうです。


「プロの作家の方に原稿を依頼するのがはじめてだったので、本当に手探りで。メールやSNSを通じて何人かの作家さんに依頼をして、断られてもめげずにチャレンジしました。作家さんに何度か怒られたりもしながら、クライアントとも話し合って、その都度作家さんと交渉して、依頼を引き受けていただくことができました。原稿を受け取ったときは、やっぱり『プロってめっちゃすごいなあ』と思いました。小説1編は雑誌のページでいうと3ページほどなんですが、圧倒的におもしろいんです。それぞれの作家さんの個性もありながら、故郷とか家族とか、つながっている部分もあって」と木村さんは当時の苦労を振り返ります。

商業シーンで活躍する作家と原稿のやり取りをしたことは、編集委員の学生たちにとっても貴重な経験になりました。

芸大生だからこそできた

そして、実際に製本された雑誌がこちら!

 

印刷所から届いたときは感動もひとしおだったのでは、と聞いてみると、木村さんと宮口さんからは意外にも「実感があまりなくて……」とクールな反応が。

宮口さんは「印刷所から表紙の色味を確認するための色校が届いたときが一番グッときましたね。雑誌全ページのゲラが、無線綴じの大きな束で届いたときも『自分たちでこんなに分厚いものをつくったんや』と思って感慨深かったです。本が届いたときは、もうぜんぶ忘れちゃった(笑) 取材させていただいた金木犀舎の浦谷さんが『本ができると、それまで苦しかった取材とかぜんぶ忘れちゃうんです。だからまた本つくっちゃう』っておっしゃっていて、『ああ、これかあ!』って思いました。つくっている間は苦しいこともありましたけど、本という形になって報われた感じがしました」と雑誌が届いたときの気持ちを語ります。


昨年の後期から9か月間、編集長として文芸誌「301」編集部の統括や、誌面のディレクション、取材・執筆などをこなしてきた木村さんは、文芸誌をつくるという授業だからこそ得られた学びがあったと話します。

「まず、社会人ってすごい大変だなって思いました(笑) ぼくがいろいろな人の間に入って調整する立場だったので、苦労も多かったです。でも、一般大学の学生ではできない経験だったと思いますし、芸大生だからこそ受けてもらえた取材もあったように感じます。出版社に取材に行くのも、作家の方とメールするのも、ひとつひとつが自分の学びになりました。取材することは文芸誌をつくるという目的に向かう手段ではあるんですが、その取材自体が自分の糧になっています」

試行錯誤を繰り返して、1年間歩きつづけ、迷いつづけて完成した214ページの文芸誌。

大学内のADストア、京都市内のいくつかの書店を中心に販売するほか、京都・出町座の1階にあるCAVA BOOKSのオンラインストアでも予約を受け付けています。
ご興味のある方は、ぜひお手に取ってみてください!

301文庫「文芸誌301」第4号 (読み:サンマルイチ)

版元  :京都芸術大学 文芸表現学科 301文庫
発行人 :山田隆道
担当教員:木村俊介
編集長 :木村雄大
副編集長:松野下笑吉
編集委員:藤川栞名 宮口結凛 田中颯来 志水瑠里 市来勇人 藤谷佳奈子 三浦爽也 黒田周一 黒田竜一 三浦琳太郎 島田碧 米田芽生 YIWEI ZHOU 畠山紗綾

アートディレクション・デザイン:瀬永莉子
ロゴデザイン:大賀由佳子

印刷  :佐川印刷株式会社
価格  :1,000円(税込)
発行日 :2024年6月30日
判型  :A5判
ページ数:212ページ

「文芸誌301」Instagram:bungei_301/
「文芸誌301」X(旧Twitter):https://x.com/301bunko/

 

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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