初夏の爽やかな風が心地いい季節となった5月30日(木)〜6月6日(木)、瓜生山キャンパス人間館1階のギャルリ・オーブにて「Cygames背景美術展 2024-2025」が開催されました。
株式会社Cygamesは「最高のコンテンツを作る会社」というビジョンを掲げ、ゲームの企画・開発・運営、アニメーション製作などを行う会社です。『グランブルーファンタジー』や『Shadowverse』、『ウマ娘 プリティーダービー』などのタイトル名は聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。
そんな人気ゲームの背景アートを堪能できる「Cygames背景美術展」は、大阪芸術大学で開催された2019年、 山本二三美術館で開催された2021年に引き続き、3回目の開催です。
今回は、京都芸術大学からはじまり、全国の5大学を巡って5つのゲームタイトルから厳選した背景アートを展示します。
また、本学での会期中にはCygamesのイラストレーターによる学生向けポートフォリオ相談会や、「コンシューマータイトルにおける3D背景の在り方」をテーマにしたクリエイターズトークセッションも行われました。
展覧会の様子と合わせて、ポートフォリオ相談会とトークセッションの様子もレポートします!
背景アートの世界に没入
展覧会の会場入り口には、今回のキービジュアルが。霧の立ちこめる山奥に建つ荘厳なお城と、雲の広がる青空が印象的な一枚です。
こちらは2019年の「Cygames背景美術展」で展示されていた、山頂にある村の背景アートをもとに「村の周囲はどんな環境になっているのだろう」と想像を膨らませて描いた作品なのだそう。
キャンバスの右奥に配置されているのが前回の美術展で描かれた村です。遊び心のある一枚から、背景アートの世界に没入していくことができます。
そのとなりには、キービジュアルを基に作成された立体的なジオラマも展示されていました。モデリングに1か月、制作に3か月かけて、細部までこだわり抜いて作られたそうです。
1枚のイラストを描くために、背景クリエイターがどのように細部まで想像し、どのような世界を思い描いているのかを、より深く知ることができます。となりの2Dイラストと比べて見るのもおもしろいはず。
今回展示されているのは、『グランブルーファンタジー』、『Shadowverse』、『プリンセスコネクト! Re:Dive』、『ウマ娘 プリティーダービー』、『GRANBLUE FANTASY: Relink』の5つのゲームタイトルから厳選した、それぞれの世界を形づくる背景アート。
会場内には、背景アート作品の展示だけでなく、「背景の発注から完成まで」をまとめたパネルや、背景アートを制作するときに現場のイラストレーターが気をつけている点が書きこまれたシートなど、芸術大学の学生にとって勉強になるコンテンツも盛りだくさん。
背景イラストのキャプションに「実は『グランブルーファンタジー』の背景チームに入ってから2枚目の背景でした」と実際に作画を担当したイラストレーターのコメントが添えられていたり、ゲームタイトルの説明と「3D描画の制約や背景制作の過程」について詳しく解説しているパネルがあったりと、イラストをただ鑑賞して楽しむだけでなく、そのイラストの作られた背景までのぞき見ることができます。
こちらは、「変わりゆくものが見えるタッチパネル」。
大きなモニターに興味津々で近づいてみると、表示されたのは一枚の街の背景イラスト。「タッチしていいですよ!」とのことなので、画面下部分に表示されたアイコンを右にスライドしてみると……。
街の風景がガラリと変わりました。さらに右にスライドすると、夕暮れの背景がまた変化し、夜景に。
ゲームの背景アートで表現される時間や天候による変化を、インタラクティブに体験することができます。
そのほかにも、背景アートのクリエイター10人が大切にしている愛読書を3冊ずつ集めた「クリエイターの愛読書」のコーナーや、Cygamesのイラストレーターが実際に使用している作業環境を再現したブース、「Cygames背景美術展 2024-2025」が巡回する大学の学生から寄せられた質問にCygamesのクリエイターが答える「クリエイターへの30の質問」のパネルなど、さまざまな展示が行われていました。
実際にゲームの背景を描かれているクリエイターの方々の言葉に接することで、背景アートの世界を一歩身近に感じることができる展覧会になっています。
魅力的なポートフォリオとは?
5月30日(木)〜6月2日(日)には、学生を対象に、背景イラストを主としたポートフォリオ相談会も開催されました。
今回は特別に、キャラクターデザイン学科の3年生で、Cygamesへの就職を希望しているというキム・チェウォンさん(キャラクターデザインコース・3年)にご協力いただき、相談会の様子を見せてもらいました!
キムさんは学科でゲームやあそびを研究するゼミに所属し、3Dのアーケードゲームや花札をモチーフにしたゲーム、ボードゲームなどを制作。
前半はゲーム制作の内容をまとめ、後半はキャラクターデザインやロゴデザインなど2Dのイラストを掲載するポートフォリオを見せてくれました。
アドバイスをくださるCygamesのイラストレーターさんからも「しっかりと細部まで描きこまれた作品がポートフォリオにたくさん入っているのがいいですね」と好感触。
一方で、様々な作品が網羅的に並べられている印象については、「ゲームの会社でどんなことをしたいのか?」を意識するといいというアドバイスがありました。
「ゲームの会社に入って、自分が女の子のイラストを描きたいのか、ゲームの企画をしたいのか。それによって、ポートフォリオに掲載する順番も変わってくると思うんです。最初に自分の一番の強みがあるといいですね。たとえば、ゲームの企画をしたいなら、ゲームとして魅力的なコンセプトビジュアルやキービジュアルとなる一枚絵を最初のほうに配置するといいと思います」
また、キムさんからの「制作物について説明はしたほうがいいのでしょうか。説明するとしたら、どんな風にしたらいいですか」という質問には、「文章で補足することも重要だと思います」と回答が。
「自分で行ったゲームの企画について、このゲームはなにがおもしろくて、自分はなにをがんばったかってことを文章で伝えられるといいと思います」と、見る側がその制作物をどう捉えればいいかについて補足する重要性を説明してくださいました。
実は以前にもCygamesのポートフォリオ相談会に参加したことがあるキムさん。今回のポートフォリオ相談会を振り返って「前回のポートフォリオよりもイラストの種類や量を増やすことができて、成長を見てもらえたのかなと思います。ゲームはいろいろな人とチームで作るものだから、コミュニケーション能力も大事だというような、仕事に関するアドバイスももらえてよかったです」と顔をほころばせます。
そしてなんと、今回のポートフォリオ相談会では参加者に数量限定で特製グッズを配布していました。Cygamesの会社説明と図録が一体になった冊子と、オリジナルデザインのクロッキー帳です。すてき!学生にとって、大きな学びと喜びを得られるイベントになったのではないでしょうか。
背景を描くという仕事
会期中の6月1日(土)には、Cygamesのクリエイターが登壇するクリエイターズトークセッションが開催されました。
登壇したのは、社内でキャラクターデザインのディレクションやマネジメントなどを担当されているCygames執行役員の三ッ間俊行さんと、コンシューマーゲームやCG映像などを担当されている大阪Cygames代表の國府力さん。
大阪Cygamesは、ハイエンドコンシューマーゲームの開発の拠点として2015年に設立されました。現在はエンジニアやデザイナー、サウンドチーム、プランナーなどの300名を超えるスタッフが所属し、『GRANBLUE FANTASY: Relink』などのタイトルを制作しています。
トークセッションは『GRANBLUE FANTASY: Relink』の背景美術にこめたこだわりや、ゲーム内に登場する街のイラストの比較についてのお話からスタート。
「辺境の街フォルカ」と「花都シードホルム」のふたつの街の背景美術を比較することで、背景イラストレーターという職業の奥深さを伺うことができました。
國府さんはふたつの街について「フォルカは『村』をイメージして制作しているので、曲線や歪さ、曖昧さを意識しています。具体的には、地面とオブジェクト(プランター、椅子、壺)をそのまま置くと直線的になるので、その前に草を置いて曲線的になるように調整しました。逆に、シードホルムは都会的なイメージで、シンメトリーなデザインに統一しています。オブジェクトの前にもなにも置かず、整頓された感じですね。それぞれのイメージによって、デザインや配置を変えています」とイラストを指しながら説明してくださいました。
そうしたこだわりの詰まった背景美術は、Cygamesの掲げるビジョンである「最高のコンテンツを作る」ことにおいて、どんな意味を持つのでしょうか。
國府さんは「背景を描くことは、世界を作ること」だと言います。「イラストを単に描くというだけじゃなくて、背景を描くことはキャラクターが生活する場所を作るということで、それは現実においては特徴のある国々の、その中の街を作るということですよね。それがゲームの物語に影響するんです。だからある意味では、神になったつもりで世界をつくりあげると言ってしまってもいいかもしれません(笑)。ぼくの考える最高の背景は、ゲームの世界観や物語が最高の形で表現されている背景ですね」と独特の表現で説明し、会場の笑いを誘いました。
一方で、キャラクターデザインのディレクションなども担当されている三ッ間さんは「背景は第二の語り手」であると表現します。ゲームには様々な語りが登場します。キャラクターの台詞や、物語を動かすシナリオの語りもあるでしょう。しかし、文章でそれをすべて説明されると、ユーザーがすべてを把握することが難しくなります。そんなとき、キャラクターたちが置かれた場所はどんな場所なのか、どんな状況なのかということをイラストで一発で見せることができるのが、背景美術の強みだと三ッ間さんは言います。
「ゲーム内において、情報のコントロールができていることが重要だと考えています。ユーザーにどこまで伝えるかを計算し尽くして、デザインをつくっていくんですね。なので、最高の背景は、見ただけですべての情報が込められている背景だと思っています。ただし、押し付けがましくない形で」
その後も、「いい背景をデザインするためにやるべきこと、考えること」、「背景美術において細部までこだわる理由や価値」といった背景アートに関するトークや、「なにを考えて組織づくりを行なっているのか」、「入社後のスキルアップのための取り組み」などのゲーム制作の仕事を志望するときに気になるキャリアに関連したお話が展開されました。
芸術大学の学生にとってはぜひ聞いてみたい「学生時代に2Dを専攻していた人が3DCGで活躍できるのか」といった質問も。
國府さんは、働いている人を見ると学生時代から3DCGを専攻されている方が多いとしながらも、ゲームの現場では「すべての仕事は2Dイラストレーターからはじまる」ということを強調されました。
「コンセプトアーティストという職業は、ゲームのイメージやアイデア、世界観を一枚の絵にして表現する仕事です。そのイラストも、まずは2Dイラストレーターが描いて、それに基づいて3Dのモデルを作っていくんですね。その3Dモデルを作っていくときにも、設計図面を描く2Dプロダクションアーティストがいますし、イラストの『ここに光が当たったらいいな』『ここは青色だといいな』ということに気づけるセンスを活かして、背景美術に光を与えるライティングアーティストという仕事をしている方もいます。活躍の場はたくさんあると思いますね」
また、「3DCGの分野にこれから関わりたい人はなにをしたらいいのか?」という質問には、おふたりから「カメラを持って街に繰り出す」という意外な回答がありました。
三ッ間さんは「仕事をはじめるとひとつのプロジェクトに長く携わることになるので、学生時代は質の良いインプットとアウトプットのサイクルをできるだけ速くするといいと思います。カメラを持って、マニュアルで街を撮ってみるっていうのもいいですよね。被写体深度とか画角とか、自分で調整して。やっぱり、クリエイター視点で世界を見てほしいんです。世界を楽しむ心、世界にワクワクする心っていうのが大事だと思っているので。机の前にかじりついてやることだけが勉強ではないし、作品の魅力というのはそれぞれのクリエイターが困難を乗り越えてきた経験から滲み出てくる『個性』に表れるんだと思います」と、3DCGの技術以外の部分も積極的に学ぶことの重要性をアドバイスしました。
今回の美術展で背景イラストレーターに興味を持った方は、カメラを持って街へ繰り出してみてはいかがでしょうか。
この「Cygames背景美術展 2024-2025」は、7月23日(火)〜7月28日(日)に山形の東北芸術工科大学、11月14日(木)〜11月20日(水)に福岡の九州産業大学など、全国5都市で2025年まで巡回しています。今回は来場できなかったという方も、機会があればぜひお立ち寄りください。
Cygames背景美術展 2024-2025
【展示タイトル】
・グランブルーファンタジー
・Shadowverse
・プリンセスコネクト!Re:Dive
・ウマ娘 プリティーダービー
・GRANBLUE FANTASY: Relink
【開催期間】
京都芸術大学:2024年5月30日(木)~2024年6月6日(木)
東北芸術工科大学:2024年7月23日(火)~2024年7月28日(日)
九州産業大学:2024年11月14日(木)~2024年11月20日(水)
名古屋芸術大学:2025年1月8日(水)~2025年1月15日(水)
武蔵野美術大学:2025年5月2日(金)~2025年5月13日(火)
※開催場所や開場時間等の詳細は公式サイトをご確認ください。
【入場料】無料
【公式サイト】https://exhibition-cygames.jp/
京都芸術大学 Newsletter
京都芸術大学の教員が執筆するコラムと、クリエイター・研究者が選ぶ、世界を学ぶ最新トピックスを無料でお届けします。ご希望の方は、メールアドレスをご入力するだけで、来週水曜日より配信を開始します。以下よりお申し込みください。
-
上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。