REPORT2024.03.01

ゲームとAIのこれからを学ぶ――京都芸術大学・京都精華大学・立命館大学による合同ゼミ:株式会社モリカトロン「AIゲーム ワークショップ」

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  • 京都芸術大学 広報課

複数の班に分かれてのグループワーク。京都にある三つの大学から集まった学生たちがノートPCでプレイしているのは、マーダーミステリー(謎解き)ゲーム「Red Ram」です。

プレイヤーが入力した設定に基づいて生成AIがシナリオや画像を作成してくれるのが、このゲーム最大の特徴ですが……

「凶器は豆腐にしよう」「舞台はコミケで……」「被害者は大統領にしちゃおうかな」――ってちょっと、君たち自由すぎない? いくらAIだって、そんな設定でちゃんとプレイできるような謎解きゲーム、作れるの? 

「みんなAIに厳しいですねえ」「開発者はヒヤヒヤですよ」

そんなことを言いながらも、モリカトロンの皆さんはどこか愉快そう。そう、株式会社モリカトロンは「正しいAIから楽しいAIに」をモットーに「友達になれるようなゲームAI」を作る会社。学生たちがこうやって楽しんでいるのは、まさにねらい通りということかもしれません。 

学生たちは、ワークショップを通してどんなことを学んだのでしょうか? 潜入取材してみました。

ワークショップの概要

森川幸人氏によるスライド形式の講演で「ゲーム×AI」に関する最新動向や今後の展望を学んだのち、AIシナリオを生成するゲームをプレイしながらゲームとAIの今後に関して考察するグループワークを実施し、成果発表を行いました。

日時:2024年2月10日(土)13:00〜15:50

講師:株式会社モリカトロン森川幸人氏(代表取締役 / モリカトロンAI研究所所長)、成沢理恵氏(同社取締役/京都芸術大学キャラクターデザイン学科教授)、高橋力斗氏(同社AIエンジニア)

場所:京都芸術大学 秀徳館

対象:京都芸術大学キャラクターデザイン学科、京都精華大学デザイン学部ビジュアルデザイン学科デジタルクリエイションコース、立命館大学映像学部でゲーム制作等を専攻する学生約15名

■モリカトロン公式HP https://morikatron.com/

え、これもAIなんですか? 

モリカトロンの森川幸人氏

まず学生たちは「GenerativeはCreativeか?」と題したスライド発表で、ゲーム制作におけるAI活用の歴史や現状、そしてその可能性について学びました。

「AIって知ってる? 生成AIは? じゃあ、Stable DiffusionやChatGPTって知ってる?」と森川さんが訊ねると、さすがはデジタルネイティブ世代、多くの学生たちが手を上げます。

「それでは次は、どこにAIを使われているのかを実際の事例で見てもらいましょう」

続いて始まったのは、『AIが描いた絵はどちらでしょう?』と題したクイズでした。最初のほうははっきりとウソだと分かるような絵なのですが、どんどんわからなくなっていきます。

これが生成AIの最先端……と思っていると、「これらは2022年の画像です」とさらりと衝撃の事実を告げる森川さん。それってつまり、今はもっとスゴいということですよね?

Bing AIで生成したという森川さんの自己紹介を挟んで、AIがゲームの現場で実際にどう使われているかを説明してくださいました。デバッグ(※1)やプレイ戦略の学習といった開発・テスト段階での「便利な道具」から、ゲームの難易度調整やデッキ・パーティ(※2)の自動生成といった「プレイを楽しくするための機能」にまでAIは利用されています。

※1)デバッグ…ゲームプログラム上のエラーを見つけ出し修正する工程。
※2)デッキ・パーティ…「デッキ」はカードゲームでプレイに使用するカードのセット。「パーティ」はRPGゲームにおいて探索や戦闘に使用するプレイキャラクターのセット。適切にデッキ・パーティが構築できているかどうかがゲームの勝敗を大きく左右する。

中でも目を引いたのは、森川さんがプレイステーションで制作した名作『アストロノーカ』(1998)の動画でした。当時まだ一般的ではなかった遺伝的アルゴリズム(※3)で「成長する」キャラクターを登場させた、先駆的作品です。

※3)遺伝的アルゴリズム…生物の「環境に適応し、より強い個体が生き残り、環境に適応できない弱い個体は淘汰される」とする進化の仕組みを利用して、プログラム上で優秀な個体を次世代へと受け継ぐ仕組みのAIアルゴリズム。4つの主要な進化的アルゴリズムの一つであり、その中でも最も一般的に使用されている。

せっかく育てた野菜を天敵「バブー」に食べられないよう、プレイヤーはマスの上に罠を張り巡らせます。バブーは罠に翻弄されていったんは諦めて帰るけれど、なんと次に会ったときには姿かたちが変わり、前に掛かった罠に掛かってくれなくなってしまうのです。

スクウェア・エニックス社で本作のプロデューサーを務めた成沢理恵教授(キャラクターデザイン学科)は、そんなバブーと「友達になれそう、と思う瞬間がある」のだと言います。

こちらの対策に適応しつづけ、執念深くこちらの野菜を食べにくるバブー。憎い敵キャラのはずなのに、いちど生き物だと認知してしまうと徐々に愛着が湧いてきてしまい、今度こそは友達になれるのではないか……と思うのだそう。

ゲームの展開上、ありえないことです――けれど、そんな気持ちを抱いてしまうくらい、バブーは活き活きとして「楽しい」AIだったのです。

「Red Ram」をみんなでプレイ!

学生たちは、モリカトロンが制作したAIがシナリオを生成するマーダーミステリーゲーム「Red Ram」をプレイしました。

「Red Ram」の特徴は何といっても、シナリオの自動生成機能です。学生たちが話し合いながら「被害者の属性」「使われた凶器」「犯行の行われた場所」等を入力すると、ストーリー・事件のトリック・キャラクター・背景画像などがすべてAIによって生成され、十五分ほどでシナリオの生成が完了します。

学生たちが生成したゲームはどのようなものだったのでしょう。

ふたつのグループが、「凶器」の部分に「豆腐」を入力してシナリオを生成していました。しかし、プレイの様子を見ているとおもしろい差がありました。片方のシナリオでは被害者の死因は『豆腐による窒息死』でしたが、もう一方のグループは『豆腐の角に頭をぶつけたこと』。

真剣にプレイする学生たち

おもしろいですね。森川さん、どうしてこんな違いが生じるのでしょうか。

「『Red Ram』では、ChatGPTの学習データの中にある殺人事件や死亡事故等の事例を参照して、トリックを作っています」

――なるほど。ChatGPTは「豆腐の角に頭をぶつけて……」という慣用表現をベースに「豆腐の角」を殺人事件のトリックに使ってシナリオを作った、ということかもしれませんね。

「逆に言えば、学習データの中にない突飛なトリックは生成ができません。試作モデルでは「スポンジ」を使ったトリックが生成できずに、延々とループを繰り返してしまったりしたこともあります。ですので、ループエラーを回避するような仕組みを構築しています」

――たくさんの工夫が必要なのですね。

「その他にも、性的な画像を生成しないようにという制限を設けたら、男性の上半身は社会通念上いまだ性的なものとはみなされていないせいか、男性キャラクターがみんな上半身裸で生成されてしまったり……。沢山の試行錯誤がありました」

ひと通り「Red Ram」を楽しんだあとは、グループごとにAIとゲームの今後の展望についてディスカッションをしたのち、発表を行いました。

「生成AIの埋め込まれたゲームでは、自分だけの無限の世界を作ることができる。プレイを通して各プレイヤーの個性が反映されるゲーム体験になるのでは」「AIと友達になれる瞬間をうまくデザインできれば、あたらしいキャラクターと出会っていくことそのものをゲームにすることができそう」「いまのゲームにはルート分岐があるが、『第二の現実』のように無限の選択肢があるゲームを作れるようになるはず」「人間が得意なこととAIが得意なことは違うから、人間の仕事はなくならないと思う」……

学生たちの発表に対して、モリカトロンのお三方や各大学の先生方が丁寧にフィードバックを行いました。驚いたのは、AIに対するネガティブな反応が一切なかったこと。「人間の仕事が奪われる」といった調子で語られがちな生成AIですが、学生たちはこのワークショップを通して、AIと共生する未来を思い描くことができたようです。

キャラクターデザイン学科 成沢理恵教授
モリカトロンAIエンジニア 高橋力斗氏
立命館大学から、ゲームデザイン・シナリオ担当の竹田章作先生(左)、プログラミングを担当している奥出成希先生(右 本学と京都精華大学でも非常勤講師を務める)もワークショップに参加

「皆さん素晴らしいです。ゲームAIに関して考えてほしいことに、自力でたどりついてくれましたね」と森川さんは学生たちにエールを送ってくれました。

「AIはもちろん開発の道具として使うこともできるけれど、感情を表現することもできれば、推理をすることもできる。ゲームに組み込めば自由度を高めてくれたり、やわらかいコミュ二ケーションができたりする。「ビデオゲーム」という枠組みを超えて、たとえば『ちょっとあたたかい友達』みたいなものが表現できるような時代がはじまりつつあるのかもしれません。人工生命といった隣接する領域にも興味を持ってくれると、うれしいです」

京都をおもしろくしよう

キャラクターデザイン学科 村上聡教授

「ソフトやツールの操作といったテクニカルなことは、誰でもYoutube等で手軽に学べてしまう時代です。ツールや技術が革新的な進化を遂げようとしている今だからこそ、時を超えて共通するゲームデザインの真髄を先人たちから学んでくれたらと思い、こういう機会を設けています」

日本におけるビデオゲーム発祥の地であり、ゲームを学ぶことができる大学が多く存在する京都。村上 聡教授(京都芸術大学芸術学部キャラクターデザイン学科)は「京都をおもしろくしよう」というモチベーションから、こういった合同ゼミを企画したそうです。

「どれだけハードウェアが進歩して表現が変わっても、「楽しさ」を作り出すゲームデザインの基本はいつも変わらない。学生たちには思考力や人間力といった、ゲームづくりの基礎となる部分をじっくり鍛えてもらいたいと思っています」

三大学によるコラボレーションはまだまだ始まったばかり。ゲームの都・京都が学生たちの力でどうおもしろくなっていくのか、楽しみですね。

ワークショップにて生成したシナリオを実際にプレイいただけます!

Red Rum https://mm.ai.dev.morikatron.net/redram/
シナリオ#93「コミケの豆腐屋事件」、#94「雪月湖畔の冷たい真実」、#95「豆腐の秘密―宇宙飛行士の最後の晩餐」、#96「トウモロコシの謎」が学生たちの入力データにより生成されたシナリオです。
※(2024年3月)現在、既に生成されたシナリオのプレイのみが可能な状態です。シナリオ生成はお楽しみいただけません。

 

(文=天谷 航)

 

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