REPORT2024.04.18

文芸

『観光の町「京都」、ホテルで旅の続きを』−文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信

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  • 京都芸術大学 広報課

京都芸術大学 文芸表現学科 社会実装科目「文芸と社会Ⅱ」は、学生が視て経験した活動や作品をWebマガジン「瓜生通信」に大学広報記事として執筆するエディター・ライターの授業です。

本授業を受講した学生による記事を「文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信」と題し、みなさまにお届けします。
(執筆:文芸表現学科3年 小澤竜弥・石田ひなの 2年 轟木天大・富田鷹)

「人生に心踊る寄り道を」

京都駅から歩いて5分。京都に訪れた観光客が普段素通りしてしまうエリアに、そのホテルは佇んでいる。

暗い半地下へ潜る下り坂を降りると、柔らかい照明に照らされたロビーが迎えてくれる。左手にはさらに地下へと潜る階段と天井まで圧巻の本棚。夜になるとそこはたちまちショートフィルムのシアターに。右手にあったカウンターはバーへと変貌を遂げる。

ここはTUNE STAY KYOTO。

本、ショートフィルムにジン。「人生に心躍る寄り道を」をコンセプトに3つの体験を展開する、一風変わったホテルだ。

(ホームページ:https://www.tune-stay.com/top

おしゃれなゲストハウスを京都へ

京都といえば、いの一番に思い浮かぶのは観光ではないだろうか。そんな京都でホテルとなると、ただ寝泊まりするだけの簡素なものでも十分なのかも知れない。だが外国人観光客たちにとってはそうではない。海外ではホテルよりも、その場に偶然集ったゲストと交流を深めるホステルの需要が高い。このTUNE STAY KYOTOも、ホステルの系列店から派生したホテルだ。

TUNE STAY KYOTOは、他の系列店と比べホステルの毛色が薄いものの、海外からのゲストが70%を占める。そのため本棚には海外の書籍も並んでいるし、ショートフィルムも海外で制作されたものが多い。ジンのメニューにも、私たちが初めて目にする国外の地域のジンまで揃っている。

一味違う京都観光の縁(よすが)に

京都の夜は案外静かだ。夜に差し掛かると観光地の店は営業時間を終えてしまう。大通りにあふれていた観光客も、ホテルで次の日の鋭気を養っているのだろう。そんな夜の時間、TUNE STAY KYOTOでは3つの体験ができる。夜になるとそれを目当てに、自然とロビーにゲストたちが集ってくるという。

客室にはあまり籠もってほしくないと言われるほどコンパクトな客室を出ると、3つの心弾むコンテンツが用意されているのだ。

その3つとは、BOOK、FILM、そしてGIN。

◯BOOK

TUNE STAY KYOTOへ入り、受付をしてすぐ左。ロビーから地下空間へと続く大階段の壁には文字通り壁一面を覆う本棚が並んでいる。
ここは宿泊者だけが体験できる、本好きにはたまらない極上の癒し空間だ。

旅を彩る本との出会い

本棚には京都にゆかりのある本がたくさん並べられている。京都出身の作家の本や京都の観光地にちなんだ本、はたまた京都の歴史に関する本や京都大学にちなんだ本まで。前日に読んでおけば翌日の旅が楽しくなること請け合いだ。ちなみに、気に入った本は購入することもできる。

また、海外旅行客のための本もたくさん置かれている。それらは京都に限定せず、日本をより知ってもらうための本が多い。たとえば写真は漢字の成り立ちをまとめた本。これを見ながら日本語の読み書きを勉強する方もいるとのこと。日本語が読めない方でも同じように楽しめるようになっているのだ。

極上の調和空間を

大階段は大きな長椅子になっていて、本棚から気になった本を見つけたらすぐに座ってじっくり読めるようになっている。ロビーから地続きの共有スペースなので、バーで買ったジンを飲みながら、あるいは朝食のベーグルを食べながら読むのも乙だろう。
購入前の本を読みながら飲食するなんて、それこそ中々できないスペシャルな体験だ。

ところでTUNE STAY KYOTOの“TUNE”は「調和」という意味がある。
ホテルというとあくまでも旅行の拠点、夜中に寝泊まりするためだけの施設だと日本人なら特に考えてしまいがちだ。
しかし、ここは旅の続きを楽しめる場所。
「泊まる」ためではなく「過ごす」施設として建てられたのが当ホテルだ。
本について初対面の方と語り合うもよし、じっくり読書を楽しむもよし、ただひたすらに本棚を見て回るもよし。

コンセプトは「旅をするような本屋」。
最近では通販で済ませてしまったり、電子書籍を買ったりで、自分の足で本屋に赴く機会が減ったという人も多いのではないだろうか。

本を通した特別な交流

大階段という視覚的にも広い空間は、宿泊者同士のコミュニケーションを促してくれる。
図書館と違って静かにしなければならないということはないので、気軽に声をかけ合うことができるのだ。
ブックギャラリーの奥には小さなアートギャラリーも展開されている。ソファでくつろぎながら、あるいは芸術作品を眺めながら、気に入った本について語り合うなんてこともできる。
また、話すのは苦手だな、という方でも少し特殊な方法でコミュニケーションをとることも可能だ。

本にしおりが挟まれていることがあって、そこにはゲストに読んで欲しいその本の読み所が書かれている。

「しおり」には「道標」という意味もある。
名前も顔も知らない人の想いに触れ、また自分も想いを書き記し次の人へと繋いでゆく。特殊で特別なコミュニケーションをぜひ楽しんでみてほしい。

ちなみに、しおりは全ての本に挟まれているわけではなく数冊のみに挟まれているので、もし見つけられたら、それはとてもラッキーなことだ。

〇FILM

本棚の大階段エリア、そこは読書だけでは終わらない。夜になると本棚からシアターへ変貌を遂げ、読者は観客へ変身する。

ショートフィルム(短編映画)は一本が約15分で紡がれる短い物語だ。
TUNE STAY KYOTOでは毎夜、ショートフィルムが21時、22時から2作品ずつ上映され、計4作品を宿泊者は無料で自由に観賞できる。
ジャンル、国、言語、メッセージなど、あらゆる面で多様な映画が一夜に集っている。その日最後の贈り物として体験して欲しいスポットだ。

ショートの魅力

なぜ約15分の短い映画なのかと疑問に思う方もいるだろう。映画には1時間や2時間をかけて描かれる濃密なドラマとしてある作品も多い。

だが、短い映画というのはホテルスタッフたちがこだわったポイントでもある。

1時間や2時間の作品は確かに見ごたえがある反面、長い時間を拘束されてしまう。対してショートフィルムは約15分、選出されている映画の中には、3分というカップ麵と勝負ができる超短編作品も存在する。

スタッフの方たちのホテルだからこその気軽さを堪能して欲しいというホスピタリティゆえの選出である。
何より、短編映画に触れている人は意外に少ない。未体験のモノを初体験へと昇華して欲しい。そんなスタッフたちの想いもこの取り組みには隠れているのだ。

一期一会

毎夜4作品が上映され、さらに作品は毎日更新される。
2泊3日や、間隔を空けてもう一度泊まるとなった時も全く同じ映画が上映されることはないだろう。

好きな作品、嫌いな作品、気持ちのいい作品、よく分からない作品、微妙な作品、笑える作品。映画が多種多様なように感想も無数に出て来る。1本ではなく数を見るということは感想もその分増える。人が増えればさらに、だ。

そして、湧き出たたくさんの感想をそこで共有して欲しい。一緒に来た人、隣の誰か、怖ければスタッフでもいい。彼らは真剣に選んでいるからこそ、その感想を最大限心待ちにしている。

(映画の提供元 https://www.shortshorts.org/

〇GIN

クラフトジンのテイスティングセットで発見を

TUNE STAY KYOTOのBARの目玉と言えるのが、クラフトジンのテイスティングセットだ。
どのようなものかというと、気になるジンを20種類以上の中から3種類、そこからトニックウォーター(5種から1つ)、ガーニッシュ(付け合わせの果物やハーブ・スパイスのこと)と選んでいき、それらを自分の好きなように調合出来るセットのことだ。

この記事を書いている文芸表現学科の私たちは、こちらのセットを試してみることにした。

成人を迎えたばかりの私たちは普段、ジンに触れることが少ない。あったとしても居酒屋でよく見かけるサントリー「翠」ぐらいではないだろうか。
そのため知らない味に挑戦しようとテイスティングセット3つ(9種類のジン)を注文した。

例えば、赤色のジン。京都蒸溜所の「季の梅」という商品で、アルコール度数が抑えめのスロージンをベースに京都産の梅、北海道産のハスカップ、甜菜糖を混ぜているとのこと。
そのままでも、甘く包み込まれた素材の風味が鼻に抜け清涼感を得られるが、トニックウォーターで割ると炭酸が華やかな酸味を際立て、すっきりと飲める。
どちらで飲んでもとても飲みやすい印象を受けた。

そして青色がとても綺麗なジン。
名前を「EMPRESS 1908」と言い、甘さは抑えめですっきり飲みやすい印象だった。
バタフライピー由来のこの青色だが、実は何かを入れると色が淡いピンク色に変わる。
一体何を入れるのか、分かるだろうか?

正解はスクロール後に・・・

 

 

 

 

正解は、トニックウォーターだ。みなさんは正解できただろうか。

テイスティングセットを注文すると、このような色が変わるジンを見つけたり、ガーニッシュと合わせることで同じジンでも変化を楽しんだりすることができる。選択を通して、何千・何万通りの中のひとつの出会いをぜひ自身の舌で確かめてみてほしい。

何故ジンなのか?

ここまで、TUNE STAY KYOTOのBARに、多種多様なジンがあると紹介してきたが、なぜジンにこだわったのか? という疑問にスタッフの方は丁寧に答えてくれた。

わたくし共はお客様に"体験を通して、なにか発見”をしていただけたらと考えております。そういった意味で、あまり皆さんに馴染みのない”ジン”を選択しております。ですので、BARとして一応ビールも提供はしているんですが、やはりメインはジンと言うことで、自分で選んでいただいて、新しい発見をしていただけたら嬉しく思います。

”(世間一般的に)正解とされるお酒はバーテンダーさんが他のBARで作ってくれる”とも仰っており、非常に“発見"を大切にしている印象を受けた。

ジンセット以外にも……

TUNE STAY KYOTOのBARではセットのジン以外にも、気に入ったジンの単品や、セットのメニューには載っていない深川蒸留所のバラや苺のフレーバーなどのジン、またジン以外ではウィスキーや京都醸造のビールなどもグラスに注いで提供していた。
みなさんも自分好みの味を発見してみてはいかがだろうか。

偶然のめぐり合わせを楽しむ

TUNE STAY KYOTOの強みはこれだけにとどまらない。地下の本エリアをくぐると、カウンターキッチンがついた飲食スペースが現れる。
ここでは調理や食事を楽しめる。さらにバーで注文したビールを片手に調理、なんて贅沢なこともできる。ただし本の持ち込みはできないため要注意だ。

食材は各自で持ちこむ必要はあるが、キッチンに備えられている調理器具を使って料理を楽しむことができる。

ホステルの味を色濃く残したこの空間は、家庭のリビングのような雰囲気が漂っている。
とくに予約の必要もないため、偶然時間をともにしたゲストと交流を深めることができる。初対面のゲストと「ゴミ箱どこですか」「飲料水ってあるかな」なんて気軽な会話が自然とできてしまう不思議なスペースだ。

京都を盛り上げる特別な催しも

TUNE STAY KYOTO は「おひがしさん門前未来プロジェクト」に参加している。 (ホームページ: https://www.monzen.serd.jp/)「おひがしさん門前未来プロジェクト」とは、東本願寺や渉成園、その他近場の企業が力を合わせて、東本願寺を中心とした門前地域の魅力を発信するプロジェクトだ。

その一環で、東本願寺にある渉成園で「月夜書屋」という、普段は立ち入れない特別な部屋で本と出会える特別なプロジェクトも開催されたそうだ。 いわば TUNE STAY KYOTO の本屋の出張版。 四季折々の姿を見せる名勝庭園と共に本を楽しめる、こちらも素敵な体験ができることだろう。

好きな形で、思うがままに、TUNE STAY KYOTOで「調和」してみてはいかがだろうか。

 

〇プロフィール
執筆 小澤竜弥
2020年京都芸術大学 文芸表現学科 クリエイティブ・ライティングコース入学。

執筆 石田ひなの
2021年京都芸術大学 文芸表現学科 クリエイティブ・ライティングコース入学。

執筆 轟木天大
2022年京都芸術大学 文芸表現学科 クリエイティブ・ライティングコース入学。

執筆 富田鷹
2022年京都芸術大学 文芸表現学科 クリエイティブ・ライティングコース入学。

 

 

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