京都芸術大学の卒業展・大学院修了展(卒展)に展示されているのは、学生たちが学びの全てを注ぎこんだ集大成となる作品たち。単に作品を飾るだけにとどまらず、多くの人に見てもらうための工夫がそこかしこに散りばめられ、年に一度のアートの祭典として多くの人を魅了しています。
13学科23コースと大学院の7つの領域が成果を発表するだけあって、「アート」の内容も多種多様。13の会場で行われる一大イベントに、京都芸術大学広報課が潜入取材をしてみました。
2023年度「京都芸術大学 卒業展/大学院修了展」
日時:2024年2月3日(土)~2月11日(日)10:00~17:00
※入場受付は16:30まで
会場:京都芸術大学 瓜生山キャンパス(京都市左京区北白川瓜生山2-116)
入退場:入退場自由(予約不要)・入場無料
「え、これ触っていいんですか?」
大学院修了展が行われている人間館A棟1階のギャルリ・オーブ。その入口をすこし入ったところに置かれた立体作品は“網で覆われたフルーツたち”という、いかにも触れなさそうな見た目をしていました。
「全然大丈夫ですよ!」と案内をしてくださったのは、この《時間の布》を作った柳生梨音さん(芸術専攻(修士課程))。芸術作品の展示って、見ることしかできないと思っていたのに、どういうこと?
時には自分で網を被り、来場者のカメラに向かってポーズをする柳生さん。よく見ると、展示の周りに細かい破片がぱらぱらと散らばっています。この網は、約3万個の小さな陶器からできているのです。
「壊れてもいいと思ってます。何回でも焼き直せますし……あと、《時間の布》というタイトルにはそういう想いも込めているんです」
「そういえば、この作品って買えるんですよね」
「そうなんです。学科ごとに『値段設定の秘訣』を教えてくれる講座があって。値付けが難しいインスタレーションなんかは相談したりとか……」
作品を通して社会に触れる場
京都芸術大学は、全国でも珍しい卒展の「アートフェア」化に取り組み、毎年多くのギャラリストやコレクターが若手アーティストと出会うために足を運ぶそうです。
売上はすべて学生に還元され、昨年度の卒展での総売上は、なんと約2,000万円に上るとのこと。自身の作品の前で美術関係者とディスカッションを交わし、“作品が売れた”、“作品に興味を持ってもらった”という経験をすることは、学生たちにとって自分の作品が社会とつながるという大きな実感につながります。
自宅に、ご自分のお店やオフィスに、アートを飾ってみませんか? それぞれの価格を知りたいと思われたら、是非お近くの学生に声を掛けてみてくださいね。
初日に足を運んだにも関わらず、早くも売れている作品がちらほらとありました。
「売れると思っていなくてびっくりしました」と語るのは森 桃華さん(総合造形コース・4年生)。望天館の屋上にある滝のところに《Live and let live》を展示しています。
「最初は3メートルくらいにしようと思ってたんですけど、ザトウクジラの子どもと同じ5メートルにしました。そしたら、とある会社さんが吊るして飾るために購入してくださって……」
より解放感のある姿を目指して、水場の清掃に取り組んだという森さん。「今は地面に支えているので、吊るせるようにしたり塗装を完璧にしたり、いろいろと手直しをしてからお渡しします」と笑顔で話していました。
多彩なアートが集結する、年に一度の一大イベント
卒展で購入できるのは、美術工芸作品だけではありません。マンガ学科や文芸表現学科等では学生たちの卒業制作作品の冊子を購入することができますし、さまざまな学科で関連グッズを販売しています。また、上演・上映や屋台の出店等で自分たちの成果を発表する学生たちもいます。
作品の中には《時間の布》のように撮影OK・触っても大丈夫というものも多くあります。各展示ごとにきちんと可否に関する表示がされているので、安心です。大丈夫かどうか分からないものがあったら、近くの学生さんに尋ねると丁寧に教えてくれますよ。
残念ながら一日の取材ではとても全てを回りきることができませんでしたが、展示のなかから一部を紹介していきたいと思います。
文芸表現学科「BUNGEI BOOK FAIR 2023」(よむ/味わう)
文芸表現学科クリエイティブライティングコース(人間館A棟4階)では、40人の学生たちひとりひとりが制作した文庫本を展示・販売しています。
40冊の文庫本は、学生たちがそれぞれ4年間追究した「文芸表現」の成果。内容は小説からエッセイ・ノンフィクション、果てはインタビュー集まで、多岐に渡ります。
机の上にずらりと並ぶ作品たち。一見して驚いたのは、40人40色のバリエーション豊かなカバーデザインでした。内容が伝わって来るもの、中に何が書かれているんだろうと思わせるもの……
実はこのカバーデザイン、情報デザイン学科や美術・マンガを専攻する他学科の学生たちによる作品なんだそう。学科の枠を超えるコラボレーションの機会となっているようです。
また、今年度から「BUNGEI BOOK CAFE」が復活しました。自家焙煎珈琲専門店ヴェルディの協力のもと作られたオリジナルの「BUNGEI BLEND」コーヒーや、卒業生のご実家のお店であるという「DE CARNERO CASTE」のカステラ等を食べることができます。
購入した文庫本を片手にコーヒーを飲んでいると、まるで喫茶店にいるみたい。会場に掛かっている落ち着いたギターのBGMも、学科の学生さんが作曲したものだそうです。
会場では来場者の投票で「装丁賞」の投票も実施しています。制作冊子はweb販売(https://kua-bungei.stores.jp/)もあるほか、人間館A棟1階のBREATH KUAで試し読みも可能です。
情報デザイン学科クロステックデザインコース(味わう/あそぶ/みる)
見晴らしのいい望天館屋上では、クロステックデザインコースの皆さんによる「クロステック横丁」が開催されていました。駄菓子屋さんに、コーヒー屋台に、カプセルトイコーナー……って色々ありすぎませんか?
駄菓子屋さんをやっているのは、スーツケース型の駄菓子屋キットで駄菓子屋文化を広めることを目指す村下未華さん(クロステックデザインコース・4年)。私がポテトフライを選ぶと「それ、一番人気なんですよ」と笑顔で教えてくれました。
タイのコーヒー文化を日本に広めることを目指すRATCHATAJAROENTAD PONRAWITさん(クロステックデザインコース4年生)の「ムーコーヒー」も出店中。ムー君(ニックネーム)に「オススメは?」と訊いてみたら「ナチュラルローストです」とはにかみながら答えてくれました。
また、この空間にあるテーブルや椅子はすべて、「ものづくり人口を増やす」を目標にDIYキットを販売する「tanji」 丹治 清人さん(クロステックデザインコース・4年生)さんの制作物。
「ものづくりがそんなに好きじゃない人に届けたい」と語る彼が手がけたのは、カプセルトイキット。かわいいし、木の質感がとても素敵ですね。中に入っているカプセル商品も老若男女問わずに大人気。私もお花の麻雀牌をひとつゲットしました。
展示を巡って歩き疲れたら、懐かしい駄菓子とおいしいコーヒーでほっとひと息つきましょう。
舞台芸術学科(みる/体感する)
舞台芸術学科(人間館B棟 3階)では、今年度卒業公演として制作した等々力企画『まほろば』(演劇)と稲場企画『Untold』(ミュージカル)に関する展示を実施していました。
舞台デザインコースの学生たちが制作した衣装・美術やコンセプトペーパー、また音響・照明の機材等を間近で見ることができました。《Studio 21》での上演で実際に用いられた『まほろば』の舞台セットには実際に乗ることができ、気分はさながら出演者。本物の舞台装置の奥行きやサイズ感を体感できました。こんな機会なかなかないですよね。
また、『まほろば』『Untold』の両方について、当日の上演の様子を収めたダイジェスト映像も見ることができ、セットや衣装・照明がどうやって使用されていたのかを実感することができました。
アートプロデュース学科コース/歴史遺産学科(よむ)
アートプロデュース学科アートプロデュースコースと歴史遺産学科(共に人間館A棟 4階)では、学生たちの卒業/修了研究の要旨が展示されていました。
アートプロデュースコースでは、「汐風を辿る」と題し、各論文の要旨が印刷され、気になったものは持って帰ってじっくり読めるようになっています。
ミュージカルやアニメのように親しみやすいものから、結婚式やコミュニティスペースと言った一見アートから遠いように見える題材まで、ひとつひとつが力作で、ついつい見入ってしまいます。ソファも設置してあり、要旨ペーパーをゆっくり読むことができます。
どの内容がよかったかを決める「オーディエンス賞」の投票も実施していますので、皆さんもぜひ参加してみてくださいね。
歴史文化学や考古学、また文化財の保全・修復を学ぶ歴史遺産学科文化財保全修復・歴史文化コースでも、参考文献や研究対象そのもの(!)が要旨とともに展示されていました。
普段見ることのない、文化財修繕のための道具や素材やその技法。眺めているだけで面白く、こんな世界があるのか! と感心しきりでした。
1日では回り切れない充実の内容
そんなこんなで、思うままに見ていたらあっという間に夕方になってしまいました。まだ半分も見れていないのに……!? でも、様々な学科やコースの学生たちの集大成はひとつひとつが正真正銘の力作です。気が付くと時間が過ぎ去ってしまいますし、1日で回りきることは不可能です(断言)。
学科ごとに展示内容のパンフレットを配布しているのもあって、物販で荷物がすぐに一杯に……。小銭を入れたお財布と、エコバッグを用意すればよかった! と思いました。また、会場間の移動のため、歩きやすい靴で来ることをおすすめします。
京都芸術大学の卒展は、五感で楽しむアートの祭典。いかに充実しているかお分かりいただけたでしょうか? 皆さんもぜひご来場ください!
(文=天谷 航)
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