2021年から実施されているACK(Art Collaboration Kyoto)に、今年度から京都芸術大学の学生もプログラムに関わることになりました。その模様をレポートします。
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Art Collaboration Kyoto(ACK)とは
「コラボレーション」をコンセプトに、京都で開催する現代美術のアートフェアです。
国内と海外、行政と民間、美術とその他の領域等、様々な分野とのコラボレーションを実現し、新たな可能性を開く機会となるでしょう。会場となる国立京都国際会館では「ギャラリーコラボレーション」と「キョウトミーティング」の2つのセクションを設け、出展ギャラリーが作品の展示・販売を行うほか、ACKが主催するACK Curatesの「パブリックプログラム」、パートナー企業とコラボレーションした「スペシャルプログラム」を開催します。ACK Curatesではその他、キッズプログラム、トーク等、これからのアートの担い手を育成する教育プログラムも充実。併せて京都府内では、ACK会期に合わせ多数のアート展示が開催されます。
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会場の京都国際会館の中に入ると様々な作品が所狭しと展示されてました。作品の販売も行っており、出展ギャラリーに問い合わせることで、企業やバイヤーではなく個人(一般人)での購入もできるようです。京都芸術大学の教員や卒業生の作品も数多く並んでいました。
ACKでは、アート作品の販売・展示だけでなく、たくさんの「スペシャルプログラム」が行われていました。特に、国内のアートフェアの中でも実施事例として珍しい「キッズプログラム」では「つくる」というアーティストが先生になり子どもたちがアート作品を「つくる」プログラムと、ギャラリー内をツアー形式でめぐる「みる」の2つのプログラムが行われていました。この「みる」プログラムは、本学アート・コミュニケーション研究センターがプログラム監修し、アートプロデュースコースの学生がガイドスタッフとして対話型鑑賞※を実施しました。
※対話型鑑賞:ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開発された教育プログラムです。グループで一つのアート作品をみながら自分の発見や感想、疑問などを共有しながら話し合う、鑑賞者同士のコミュニケーションを通じた鑑賞プログラムとして、近年では、美術館や学校教育や、ビジネス・医療分野でも注目されています。
今回取材した3日目の「つくる」プログラムでは、「白い彫刻作品をつくろう」と題してアーティストの金氏徹平さんを講師に、共に金氏さんの代表的なシリーズである《White Discharge》を卓上サイズで作るワークショップを行うとのこと。アーティストが直々に講師を務めるなんて贅沢です!
まず始めに、金氏さんから参加する子どもたちに向けて、作品をつくる時に金氏さんが考えていたことやコンセプト、制作方法についてのお話がありました。「雪が降って物に積もったら、普段と全然違うものに見えるよね。今日はそれを作ります。石膏っていう白い液体を、積み重ねたものの上にかけていきます。石膏は、はじめは液体だけど時間が経つとカチカチに固まるので、関係ないもの同士を集めてひとつの不思議な塊にしてくれます。この体験をみんなにしてもらおうと思います。」と語る金氏さん。
「じゃあ、好きな材料をこの中から持って行って!」と金氏さんから号令がかかると、子どもたちは材料の山にわっと集まり、夢中で材料を集めました。中には家から材料を持ってきている子もおり、相性がいいものを探しているようです。
材料が決まったら、グルーガンで材料同士をくっつけていきます。
ひたすら縦に積んでいく子や、お城のような形にする子と、様々な形ができていきます。どの子も真剣に、自分の理想を形作っていっているようです。
そして材料を接着し終わったら、今度は石膏を上から流しかけていきます。途端に、どこにでもある日用品やおもちゃがまるで異世界から来た不思議な彫刻に見えてきました。
石膏は時間との勝負。すぐ固まってしまうので、どんどんかけていかなければなりません。
大急ぎで石膏をかけたら、完全に固まるのを待つ間に「みる」プログラムへ出発です。
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「みる」
アートフェアで「みて・感じて・おしゃべり」しよう
講師:京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センター(ACC)
アートフェアってなんだろう?どんな作品と出会うことができるかな!?
みんなでアート作品をみて、考えたことや感じたこと、発見したことをおしゃべりしながら楽しむ対話型鑑賞※で、アート作品の新しい「見方」や「楽しみ方」を発見しよう!会場内をガイドスタッフとめぐりながら、展示されている本物の作品をじっくり鑑賞していきます。
監修:京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センター(ACC)
ガイドスタッフ:京都芸術大学 アートプロデュースコース 学生
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今回ガイドスタッフを務めるのはアートプロデュースコース2年生の東田美怜さん。
この「みる」プログラムは3日間実施しており、今日が最終日。「昨日は高学年の子が多かったんですけど、今日は低学年の子が多いです。1ヶ月前くらいからどんなプログラムにしようか考えてきましたが、参加者によって全然反応が違うのが面白いです。今日はどんなふうになるか楽しみです!」と、「つくる」のワークショップをしているお子さんたちを見守りながら語ってくれました。
まずは野外展示作品のぺ・セジンさんの《Waiting for Godot》シリーズの鑑賞から。
東田さんが「第一印象を教えてくれるかな?」と問いかけると、「蜂の巣!」「カップケーキ!」「ソフトクリーム!」と思い浮かんだイメージを子どもたちが口々に叫びました。
実はこの空間は長い廊下のようになっていて、《Waiting fot Godot》シリーズの作品が点々と展示されていました。廊下の少し進んだ先に、別の作品を見つけた子が「あっちにも似たのがある!」と言うと、「じゃあ向こうの作品も見に行こうか」と上手に誘導する東田さん。
次の作品の周りに集まると、「第一印象はどう?発見したことを教えてくれるかな?」と東田さんが問いかけます。
「穴かな」「コップ!」「いや、デカすぎて使えないし、アートだから使えないよ」「トッピングがなくて美味しくないドーナツ」と見えたことからさらに想像して、新たな発見を子どもたちが活発に話します。
「じゃあ、これは何の材料で創ってあると思う?」と別の角度からの鑑賞を東田さんが促すと、「石!」「石じゃないよ!鉄だよ!」「確かに鉄に見える」と意見が割れたようです。
それぞれに理由を尋ねると「グレーだから、石」「グレーだから鉄だと思う」と色から材料を想像したようです。
続いて、廊下を抜けた先にあったのはインドネシア人アーティストのシャイフル・アウリア・ガリバルディさんの《Lartucira #13.12》。
先ほどの鑑賞時と同じく、しゃがんで子どもの目線になった東田さんが「何に見える?」と問いかけます。
「鳥とおだんご」「フラミンゴに見える」「鳥だとしたら、足がないよ」「きのこが生えてる!」等の発言があった中、「さっき作った、白いのかけたやつに似てる」との気付きも。「つくる」プログラムを実施したことによって、関連がある作品なのではと考えた子がいたようです。
野外作品の鑑賞を終えて、ギャラリー内に戻ってきました。
大きく開かれた空間にあったのは、潘逸舟さんの《あなたと私の間にある重さ―京都》。はかりがぐるりと円を描くように置かれており、どこの家庭にもありそうな茶碗、皿、カップ、箸、スプーン等がはかりの上に乗っていたり、はかりとはかりの間を橋のように架けられていました。
はじめは、はかりのことを時計だと思う子もいましたが、はかりだと分かると「なんの重さを測ってるんだろう」と考えて、子ども同士で話したり聞き合っていました。その様子をバイヤーたちは微笑ましく眺めていました。
次に鑑賞したのはクキタ ナルキさんの《Urashima Tarō and Princesses Otohime》。子どもたちは画を見た瞬間に「浦島太郎!」とタイトルを聞かずとも、描かれている物語を読み取っていました。
そこでガイドスタッフが、「どんな場所だと思う?」と尋ねると、「鴨川が暗くなったと思う」「夜の時で、海の一番下の場所だと思う」「家がある」など、作品を更によくみながら、新たな発見を発言してくれていました。「じゃあここにいる人たちは何をしてるかな」とどんな場面なのかを尋ねると、「綱引きかな」「足を踏ん張ってる」「ひっぱりあいっこしてる」「痛そうな顔してる」と表情や行動から、登場人物がどのような状況にいるのか、感情までも考えて、発言していました。
続けて同作家の《Patrick with Virtual Cupids》を見た瞬間、「なんで服着てないの?」「雲の上が暑かったから、裸んぼがよかったんちゃう?」とストレートな意見が。
ツアー(鑑賞)後にガイドを務めた東田さんに、子どもたちの鑑賞の様子の話を聞くと、「前日までのグループでも同じ画をみましたが、人が裸になっていることを指摘することはありませんでした。やっぱり小さい子は見えたことを素直に言葉にして伝えてくれますね」とのこと。
さらにギャラリー会場内を進んでいくと、ブースの一角にある作品をみつけて「これ知ってる!さっきつくったやつや!」と、反応する子どもたち。金氏徹平さんの《White Discharge》を発見!すかさず東田さんが、先ほどの「つくる」ワークショップで指導してくれた金氏さんの作品だと伝えると、「どうやってつくられているか」「どんなイメージでつくったんだろう」など作家目線で更に作品を鑑賞する姿がみられました。
ツアーの最後に東田さんに「楽しかった?」と問いかけられるとと、子どもたちは「楽しかった!!」と東田さんに駆け寄り、大きな声で応えていました。
東田さんは今回のワークショップについて、「現場に出ることが初めてだったので、どうなるか不安だったけど、子どもたちに助けられて良いプログラムができたと思います。」と振り返ります。「一番印象に残ったのは、子どもたちが意見を言っている時、近くにいた関係のない大人が真剣な表情で子どもたちの言葉に耳を傾けていたこと。自分が思っていた以上の成果を出せたと思うし、これこそが対話型鑑賞の「目的」なんじゃないかと思いました」と興奮気味に語りました。
今回のACKのキッズプログラムで子どもたちは、他の鑑賞者と意見を交換したり、アーティストに美術品の作り方を教わったりと、アートに参加して自ら積極的に動ける内容だったため、ただ見るだけという受け身の形ではなくより深い体験ができたのではないでしょうか。今回の経験を活かして、今後も楽しい対話型鑑賞のプログラムを実践してくれることを期待しています。
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