REPORT2023.12.01

アート

作品を鑑賞して「きく」「はなす」「かんがえる」 — MASKの大型現代アート作品一般公開 2023 対話型作品鑑賞プログラム「アートのヒミツ基地?!みんなで探検ツアー」

edited by
  • 上村 裕香

大阪・北加賀屋の「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」にて、保管する大型現代アート作品の一般公開「Open Storage 2023 ―拡張する収蔵庫―」が、10月27日(金)から29日(日)、11月3日(金)から5日(日)まで行われました。

MASKでは、約1,000㎡の倉庫跡地に、国際的に活躍する現代美術作家の大型作品を保管・展示しています。美術工芸学科のヤノベケンジ教授や、同じく美術工芸学科のやなぎみわ客員教授、大学院 芸術研究科の名和晃平教授など、錚々たる現代美術作家の巨大な作品も収蔵されています。

今回は、そんなOpen Storageに合わせて10月29日(日)に開催された、対話しながら収蔵作品を鑑賞するプログラム「アートのヒミツ基地?!みんなで探検ツアー」に潜入してきました! また、対話型作品鑑賞プログラムでファシリテーター(案内役)を務めた、本学 アートプロデュース学科の学生たちに話を伺いました。

 

対話型作品鑑賞プログラム アートのヒミツ基地?!みんなで探検ツアー

そもそも、「対話型作品鑑賞プログラム」ってなに? と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。

「対話型作品鑑賞プログラム」とは、美術の知識に頼らず、ファシリテーターとともに、複数人で作品への互いの考えや意見を共有することで、作品理解を深めていく鑑賞プログラムです。
作品をよく観察し、だれかに自分が感じたことや気づいたことを言葉にして伝えることを通じて、他者とともに生きていくために必要な、創造的思考や表現力、洞察力やコミュニケーション能力の向上にも役立つと、近年注目されています。
 

 

作品を鑑賞し、「きく」「はなす」「かんがえる」

今回の「アートのヒミツ基地?!みんなで探検ツアー」は、対話型鑑賞プログラムを応用した鑑賞ツアープログラム。小学校低学年、高学年、中学生以上の3回、各回約45分のツアーが行われました。初回の小学校低学年の部には、8人の子どもたちが参加しました。

受付を済ませると、まずは持田敦子《拓く》に対面。真っ白で巨大な壁の回転扉は、複数人で押してみると意外にもなめらかに動きます。扉を押していくと、倉庫内に入ることのできる細い道が現れ、異界に迷いこむようなワクワク感とともに、MASKの中へ入っていきます。

初回のファシリテーターはアートプロデュース学科2年生の奥彩佳さん。子どもたちに作品を「どうみるか?」「どう言葉にするか?」をレクチャーしました。
はじめに鑑賞したのは宇治野宗輝《THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD,THE HOUSE》、《THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD(car section)》。あちこちに仕掛けの施された家と車、さまざまな音、光が特徴的な作品です。


 

「MASKの中では、『みる』『きく』『はなす』『かんがえる』を大事にして、歩き回ったり、しゃがんだりして、作品をいろんな角度からみてみてね!」というファシリテーターの奥さんの言葉に従って、参加者たちは正面だけでなく側面から観察してみたり、「音をもう一回出してください!」とリクエストして作品の音と光がどう連動しているか考えたりと、好奇心旺盛に作品を鑑賞していきます。

 

「おしゃべりの材料」をつくってあげる

ファシリテーターの学生たちは、「?(はてな)カード」を広げながら、作品に向き合う参加者に「この作品、何人なら持てるかな?」「なにに似てるかな?」と声をかけ、言葉を引き出していました。
この「?(はてな)カード」は、今年度ファシリテーターを務めた学生たちが考案・作成したものなのだそうです。カードの左側には「音は?」「かたちは?」など、作品を鑑賞して答える質問が、右側には「どんなきもち?」「にがそう? あまそう?」など、作品から想像して考える質問が書かれています。

アートプロデュース学科2年の冨田紫瑞花さんは「この『?(はてな)カード』は、『根拠に基づいて話す』という作品鑑賞の基礎をわかりやすくカード化したものです。小学校低学年の子は、まだ頭の中で考えたことを言葉にするのがむずかしい。だから、具体的にどう言葉にすればいいのか考える補助になればと思い作成しました。『おしゃべりの材料』をつくってあげたいと思ったんです」とカードをつくった理由を説明します。

進行役を務めていた奥さんは「今回参加してくれた子どもたちには、この作品鑑賞だけではなく、家に帰ってお父さんお母さんに話すときや、今後、星を見たり花を観察したりするときにも、『?(はてな)カード』を使ってほしい」と、プログラムで得た経験を今後の生活にも役立ててほしいと語りました。
 

作品鑑賞を地続きに捉える

2回目のワークショップには、小学校高学年の3人が参加してくれました。この回のファシリテーターはアートプロデュース学科2年の長濱枝音さん、豊福日彩さんが務めました。

作品をいろいろな方向からじっくりみたあと、作品に「自分ならどんな名前をつけるか?」考えることに挑戦した今回のプログラムでは、ヤノベケンジ《黒い太陽》と《サン・チャイルド》を鑑賞しました。《サン・チャイルド》に対しては、参加者から「勝ちそうになってる人」や「マリオに登場するはずだったヒーロー」などのユニークな名付けが飛び出しました。

少人数のワークショップとなりましたが、参加した小学生の保護者からは「息子は、授業では積極的に発言するタイプではないんですけど、作品を見ることに興味があるというので参加しました。学生さんが根気強く聞いてくれたから、たくさん話すことができたんだと思います」という感想が寄せられました。

ファシリテーターの豊福さんは「以前にもプロジェクトで子どもたち相手にファシリテーターをした経験があったので、その経験が活かせたと思います。子どもたちの反応で印象に残ったのは、ヤノベケンジさんの《サン・チャイルド》と《黒い太陽》を結びつけて『これはマリオの世界なんじゃないか』って言ってくれたことですかね。ふたつの作品を鑑賞することが、個別のことではなく地続きに捉えられているのが、よかったなと思いました。《サン・チャイルド》のビームが《黒い太陽》に向けられているんじゃないか、という解釈もおもしろかったですね(笑)」と、ワークショップに参加してくれた子どもたちの反応を振り返りました。
 

「作品当てゲーム」思わぬところから得られる学び

そして3回目、中学生以上が参加するワークショップでは、アートプロデュース学科2年の塚本楓さんがファシリテーターを務めました。
「このワークショップでは『作品当てゲーム』をします。グループの中で『当てられる側』になったひとりは、MASKの中にある作品のうち自分が一番好きな作品を口に出さずに選んでください。次に、『どんな形、どんな色?』などのお題が書かれたカードを3枚引いてもらいます。『当てる側』の人達は、そのお題に『当てられる側』がなんと答えるかをよく聞いて、作品を当ててください」という塚本さんの案内に従い、参加者たちは「作品当てゲーム」をすることになりました。
 

取材に伺った筆者も参加させていただきました! ここからはぜひ、この記事を読んでいるみなさんも「作品当てゲーム」に参加しているつもりで、読み進めてみてくださいね。

さて、「作品当てゲーム」開始です! 今回『当てられる側』となったのは、参加者の女性で、『当てる側』はファシリテーターの豊福さん、塚本さん、広報課の中川さん、筆者の4人です。
参加者が塚本さんのもつお題カードから3枚を引き、答えていきます。


塚本さん「1枚目。『その作品は、どうやってつくられた?』」
参加者「うーん、どうやって……遠くから運ばれてきたかな」


塚本さん「2枚目。『テンションは高い? 低い?』」
参加者「テンションは高いですね。すごく高い」


塚本さん「3枚目。『その作品は、だれといっしょに見たい?』」
参加者「これはむずかしいけど……意外と、子どもです」


参加者の回答に、『当てる側』は頭を抱えます。「子どもといっしょに見たいなら、ヤノベケンジさんの作品かなと思うけど、『意外と』って言葉がひっかかるなあ。《ラッキードラゴン》《サン・チャイルド》も、子どもが喜びそうな作品だし……」と悩む豊福さん。

「『遠くから運ばれてきた』っていうのは、普通は動かないってことかな? やなぎみわさんの《ステージトレーラー「花鳥虹」》は、トラックだから『遠くから来た』ならわかるけど、『運ばれてきた』とは言わない気がする」と塚本さんから、するどい分析が飛び出します。
 

久保田弘成さんの《大阪廻船》は、『運ばれてきた』という表現には合う気がするけど、テンションは高くないですよね」と中川さんが指摘すると、すかさず豊福さんが「この船、実は前後に回転するんですよ。いまは安全上鎖につながれてますけど、廻船パフォーマンスをしたこともあったみたいです」と説明してくれるなど、思わぬところで作品への理解が深まる場面もありました。

 

多様なものの見方を知る

悩んだ末に、『当てる側』の4人が選んだのはやなぎみわ《ステージトレーラー「花鳥虹」》でした。果たして回答は……?


参加者「やなぎみわさんの、《ステージトレーラー「花鳥虹」》です。正解!」


『当てる側』の4人は喜びと納得の声をあげました。そして、「『意外と』子どもといっしょに見たいというのは、デコトラックみたいな印象があるからですか?」とか、「トラックだから遠距離運転されてきたものだと推測したんですか?」など、『当てられる側』の参加者に質問を投げかけていました。
 


どの作品を説明しているか当てるだけでなく、ゲームのあとに「作品をどう受け止めたのか」を鑑賞者同士で話し合うことが重要なのだそう。プログラムの参加者からは「作品を『当てられる側』として参加したとき、お題の札に書かれている質問がおもしろく、普段目がいかないところを観察できました」「はじめて対話型作品鑑賞プログラムに参加したのですが、ゲームが終わったあとにも会話をすることで、いろんな人の見方を知れました」といった感想が寄せられました。

実は筆者も、対話型作品鑑賞プログラムに参加するのは今回がはじめてでした。普段は「芸術ってよくわからない」と敬遠していたのですが、今回のプログラムを通して他者の様々な意見に耳を傾け、アートを身近に感じることができました。

対話型作品鑑賞プログラムは美術館や博物館だけでなく、企業における人材育成や組織開発の手法としても活用されています。ぜひみなさんも、作品を鑑賞したときには、「きく」「はなす」「かんがえる」を実践してみてはいかがでしょうか。
 

 

京都芸術大学 Newsletter

京都芸術大学の教員が執筆するコラムと、クリエイター・研究者が選ぶ、世界を学ぶ最新トピックスを無料でお届けします。ご希望の方は、メールアドレスをご入力するだけで、来週水曜日より配信を開始します。以下よりお申し込みください。

お申し込みはこちらから

  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

お気に入り登録しました

既に登録済みです。

お気に入り記事を削除します。
よろしいですか?