INTERVIEW2023.03.30

海を越えて学び、京都で開花。 卒業・修了展で受賞した KICL出身の留学生4名にインタビュー

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  • 京都芸術大学 広報課

思わず見惚れる美しいイラスト、心温まるアニメーション、内面を映し出す立体作品、ワクワクする集合住宅…。先日の2022年度卒業展・大学院修了展で栄えある賞に輝いた、これらの魅力ある作品を生みだしたのは、世界のさまざまな地域から本学にやってきた留学生の皆さんです。まずは「実践力のある日本語の修得」をめざすKICL(京都文化日本語学校)で学び、グループ校である本学へと進学。日本語の使い手としても、芸術作品の創り手としても、大きく成長した皆さんひとりひとりに、作品に込めた想いをはじめ、留学生活の思い出や今後の目標について伺いました。

京都文化日本語学校(Kyoto Institute of Culture and Language)
 

「実践的な日本語を学ぶ」「日本文化の理解」「世界の人々とのネットワークの構築」を教育目標に、世界各国、約30カ国の学生たちを受け入れる多国籍な学校。幅広い留学目的に対応しており、美術系進学希望者向けの美術進学クラスや大学院進学を目指すための大学院準備クラス、また、文化理解を深める京都文化クラスや社会理解を深めるニュースクラス等を設置しています。
 

https://www.kicl.ac.jp/jp/school/


(person #01)
キャラクターデザイン学科 CHEAH, JITLADA(シィア ジラダー) タイ出身

描きながら見つめた、私の中の信仰心。

『DARK SOULS』という日本のゲーム作品に惚れ込み、「このゲームをつくった国に留学しよう」と決心しました。KICL時代はひたすら語学の習得に専念し、大学に進学してからは「伝統文化演習」の授業などで“和太鼓”や“狂言”といった伝統芸能の世界を体感。「本物の日本文化にふれる」という、京都の芸術大学ならではの貴重な学びを味わえました。

もちろん、専攻するキャラクターデザイン学科の学びも、実習中心で面白いものばかり。さまざまなプロジェクトやコンテストに挑戦するたび、新しい発見がありました。この卒業制作でも、仏教徒の自分にはなじみのないキリスト教の世界観をつかむため、京都市内にある教会を訪れて牧師さんと対話。そうした経験をもとに12枚の絵とストーリーを描くうちに、自身の抱えていた信仰への複雑な感情が整理されていくのを感じました。

KICLでも大学でも、いろんな友だちに出会えたことが、日本で得た一番の宝物です。また、多彩なタッチに挑んだ課題作品をまとめたポートフォリオが評価され、第一志望だったゲーム制作会社の内定を獲得。私を日本に導いた憧れの作品に、一歩近づけたような気がしています。いつか、人々の記憶に残り、ジャンルを超えて“伝説”と呼ばれるようなゲーム作品をつくりたいです。

卒業制作作品『Axion of the Lost』イラストレーション
卒業制作作品『Axion of the Lost』イラストレーション
卒業制作作品は全部で12枚となった。
卒業展では奨励賞を受賞。

 

(person #02)
キャラクターデザイン学科 HALFYARD, SOPHIA DOMINIQUE(ハーフヤード ソフィア ドミニク) カナダ出身

好きな京都で、自信のない自分から脱皮。

『となりのトトロ』に『とっとこハム太郎』…幼い頃から日本のアニメやゲームが大好きで、14歳のときに日本への留学を決心。高校生になり、留学の下見を兼ねて両親といっしょに日本を訪れ、一目惚れした街が京都でした。「京都にある」「芸大と関わりが深い」という自分の条件にあう日本語学校を探して、KICLを見つけたときは「やった!」と思いました。

KICLの美術進学クラスでは、語学の他にもデッサンの基礎や作品プレゼンテーションのやり方を学習。入試の対策だけでなく、芸大で学ぶための準備にもなりました。また、大学に進んでからは「美術史」「芸術史」を学び、日本と海外の画家が互いに影響しあっていたことを発見。「外国人と日本人の感性を融合させたい」という自身の創作テーマにつながりました。

卒業制作を手がけていたのは、ちょうど就職活動に悩んでいた時期。「自信がなくて逃げ出したい」から、「人と比べるよりも自分を認めよう」と前向きに変わっていく自分の気持ちを、そのまま作品に注ぎました。そうして完成したのが、自分自身を受け入れるようになり、憧れていた蝶ではなく、蛾に羽化する幼虫を描いた本作品です。私自身もなんとかサナギの殻をやぶり、「日本アニメーション」というアニメ制作会社に内定。人の心を動かすアニメ監督をめざして東京でがんばりながら、ときどき京都に「ただいま」と帰って来たいです。

卒業制作作品『すてきな羽だね、ケムシちゃん』映像作品、2Dアニメーション
卒業展では学長賞を受賞。撮影:高橋保世
卒業展では上映会が開かれた。撮影:高橋保世
卒業式では学科総代として卒業証書を。
お世話になった学科事務の皆さんと。

 

(person #03)
美術工芸領域・彫刻・立体造形分野 廖 元溢(リョウ ゲンイツ)台湾出身

日本で感じた、国を越えてつながる喜び。

日本に留学したのは、台湾で師としていた作家の方に「いい経験になる」とすすめられたから。ひと言も日本語を話せないまま来日したので、最初はかなり苦労しました。そこで支えとなってくれたのが、いろんな国から学びにきているKICLの学友たちです。

イギリス人に香港人、アメリカ人、フランス人…それぞれ母国語が違うし、僕は英語が話せないから、会話に使えるのは日本語だけ。同じレベルのクラスメイトと、片言でも恥ずかしがらずに話せたことが、とてもいい練習になりました。受験前には先生がマンツーマンで面接練習をしてくれたおかげで、大学院に合格。院生たちと交流を深めるなか、ますます日本語に慣れていきました。

僕が台湾で取り組んでいたのは「木彫」。けれど日本に来て、“人とのつながり”の大切さを意識するうちに、その絆を糸(刺繍)で表現する作品へと変化していきました。僕の作品は、他人とのコミュニケーションに対する心の風景そのもの。台湾人としても口下手な僕にとって、アートは最高の自己表現です。5月に開催する東京のギャラリーでの個展をはじめ、これからたくさんの人に作品を見てもらいたい。そして、僕自身が日本で感じた、“国や地域に関わりなく、人と人がつながりあえる希望”を、作品を通して伝えていきたいです。

修了制作作品『Draw The Nautical Chart』 撮影:高橋保世
作品には刺繡がほどこされている 撮影:高橋保世
大学院修了展では大学院賞を受賞。
KICLで共に学んだ仲間。
大学院進学前に面接練習をしてくれた先生と。

 

(person #04)
環境デザイン学科 GORDON, KATHARINA ISABEL(ゴルドン カタリナ イザベル)ドイツ出身

おひとりさま国・日本に、他者とつながる住宅を。

日本へのワーキングホリデーで建築系の会社に勤め、「本格的に建築デザインを学びたい」と留学を決意。高等教育でも通用する日本語を学び直すため、KICLに入学しました。日本語の学習はもちろん、とくに好きだったのが、“日本の歴史や文化を学ぶ”週一回の授業。下鴨神社の申餅の由来や、東寺があるのに西寺がない理由など…「教室で教わったことを、現地で友だちに得意げに教える」のが、留学中の楽しみとなりました。

こうして準備を重ね、入学した環境デザイン学科の授業は、まさに“learning by doing(実際に手を動かして学ぶ)”そのもの。椅子づくりから土壁の補修まで、すべての工程をいちから体験することで、ひとつひとつの意味や構造を深く理解していきました。

卒業制作は「ヒュッゲ」というタイトルどおり、北欧の空間概念を取り入れた“くつろぎ”のある集合住宅。日本は欧米以上に、“おひとりさま化”がすすんでいる国だと感じます。だからこそ本作品のように、テラスでご近所とつながる住まいを、実験的にでも提案したいと考えました。卒業後も京都に住みつづけたくて、ホテルやマンションなどを手がける市内の設計事務所に就職予定。この大学で身につけた表現力を活かし、「京都でこんないいところに行った!」と思ってもらえる、「人を楽しくもてなせる空間」をつくりたいです。

卒業制作作品『Hyggehäuser』模型(1/200)
卒業制作作品のプレゼンテーション
卒業展では奨励賞を受賞。

 

今回、お話を聞かせてくれた留学生たちは、KICL時代から同じ場所でともに学んできた、長年の学友どうしでもあります。海を越えた日本で初めて出会った彼らが、芸術という目に見えない絆でつながり、またそれぞれの未来へと飛び立っていく。ときに孤独な異国の学びでつかみとったその表現力を、どうか、新しい舞台でも存分に発揮できますように。インタビューに答えてくれた留学生の皆さん、本当にありがとうございました。プロとしてのさらなるご活躍を、心からお祈りいたします。

 

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