2008年に改正された大学設置基準においてファカルティ・ディベロップメント(Faculty Development 以下FD)が、2017年にはスタッフ・ディベロップメント(Staff Development 以下SD)の義務化が規定されて以来、本学においてもFD委員会が設けられ、様々な研修が行われています。
FD/SDとは下記のことを指すのですが、端的に言えば「教育内容・方法の改善」を目的とした研修のこと。
「大学は、当該大学の授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施するものとする。」(第25条の3)
「大学は、当該大学の教育研究活動等の適切かつ効果的な運営を図るため、その職員に必要な知識及び技能を習得させ、並びにその能力及び資質を向上させるための研修(第25条の3に規定するものを除く。)の機会を設けることその他必要な取組を行うものとする。」(第42条の3)
コロナ禍をきっかけに本学の教育現場でも、特にICTを活用した新しい教育ツールの導入が急速に進み、教授法や学習環境に大きな変更を迫られました。そこで、FD/SDプログラムについても大規模な点検・整理を行ったのだと言います。昨年は、合計17回(うちFD8回、SD9回)の研修が行われ、愛媛大学主催のファカルティ・ディベロッパー(FDer)養成講座でその取り組みを発表したところ、高い評価をいただいたのだとか。
そして教員のみならず、教育を受ける側の「学生参画型」研修も昨年度のトライアルを経て、今年度から始まりました。「学びの主体である学生が、自ら積極的に授業に関与し取り組む必要があること」「教員間で改善の意見交換をするだけでは、当事者である学生の意見を取りこぼしてしまうこと」などの理由から、学生参画型の研修も取り入れました。その定義どおり、研修中の学生からも「よりよい授業設計・運営は、教員だけではなく受講する学生と協働で作り上げていくもの」という意見が出ていたそうで、教職協働で改善を図ろうとするサイクルがうまく回り始めつつあるように感じます。
さて、5/21に行われた初回となる学生参画型の研修は「ドリームツリーを作ろう」と題し、学生と教員の双方の視点から各学科のカリキュラムを俯瞰し、理解を深め、理想のカリキュラムツリーを再構築するワークを行うというものでした。各学科・センターより学生FD委員を選出し、学生47名、教員22名(FD 委員8名を含む)、総勢69名での研修となりました。
まずはカリキュラムの解説と理解の後、各授業を付箋に書き出して整理します。そして付箋を移動、追加、削除するなどして理想の形に再構築。皆が学び、成長する流れとなる新しいカリキュラムツリーを描きました。
そして最後に各学科のカリキュラムツリーをプレゼンし、参加者全員で共有。情報デザイン学科はコースごと、加え、芸術教養センターのツリーも作成したのですが、一般的な「ツリー(木)」の形状に留まらず、木の根や山の形状のほか、映画フィルムやエリンギ型、ツリーを「釣り」ともじったもの、中には立体的な折り鶴にするなどバラエティ豊かな表現がなされ、各学科コースのカラーが良く出ていました。
理想のカリキュラムを考える以前に、所属する学科のカリキュラムへの理解が浅い学生も多く、「自分の学科のことを全然知らないことに驚きました」と話す学生も。もちろん授業ごとにアンケートを取得し、集計・分析する取り組みも行われていますが、実際に集まり、議論し合う場を設けたことに意義を感じている学生が多かったです。
「カリキュラムがどう考えて作られているかを知ることができ、とても良かったです。また、カリキュラムに対する意見を学生が直接言える機会もそうそうないですし、とても勉強になりました」。
「先生方がどのような思いでカリキュラムツリーを作っているのかを知ることができました。また、学生側からだけの “これはこうした方がいい” といった単純な意見だけでは成立しないと感じました」。
「カリキュラムを学生目線でしか考えたことがなかったのですが、学生目線の素直な気持ちと、先生目線の考えを擦り合わせることができたことで、授業の意図をズレなく認識することができるようになりました」。
教員側の満足度も高く「学生のカリキュラムに対する素直な意見を聞くことができた」「学生の視点が刺激的でした」「学生の生の意見を聞くことができ、とても良かった」などの感想が挙がりました。
続いて、第2回目となる学生参画型の研修が10/6に行われました。今回は「授業カイゼン(秋)」がテーマで、授業改善アンケートを基にした議論がなされました。教員37名に加え、学生41名が参加。総勢78名が9つのグループにわかれ、課題や評価、シラバス、授業手法や運営、有意義な授業とは?など、さまざまなテーマについてディスカッション。学生の主体的な学びを深める授業設計・運営の方法について探求しました。
朝から夕方にかけて丸一日に渡って行われた第1回目の研修とは異なり、今回は一時間半ほどのものでしたが、開始早々から活発な議論が行われていたことが印象的です。短い時間ながらも「大学を身近に感じることができた」「教員なりの目線、学生なりの目線をしっかり認識でき、とても良い機会になりました」など、多くの参加者にとって有意義で満足度の高い研修となっていました。
「先生は “仕事” という一点だけではなく、学生の成長や発見を喜びとして捉えていたり、自分自身も成長しようとされていることがわかり、好感が持てました」
「授業を組み立てる側の考えを聞くことで、授業を受ける側の意識もより高くなりました」
「授業を改善するために、先生からの意見だけではなく、学生の意見も直接聞いて取り入れようとするこのような活動から、しっかりと授業を作っていこうという先生方の意思が感じられて良かったです」
「授業の裏で教員が考えていることや、他の学科の現場の様子など、普段知り得ないことを知ることができ、非常に良かったと思います」
「学生の立場としては、普段考えていた改善していただきたい点などを直接聞いていただけたので、大変満足感がありました。この研修を機に学生と教員との溝が少しでも埋まればと思います」
本学のFD/SD研修は、今回ご紹介したような学生参画型の研修のほか、学生の満足度の高い授業を参観する「グッドティーチャー参観」や進路支援、留学生支援、障がい学習支援、コーチングなどの学習支援に関するものなどさまざまな研修がなされており、「教育」、「学生支援」、「大学運営・マネジメント」の3領域から成り立っています。また「導入・実践・支援」のフェーズに分かれており、習熟度に応じて、教員それぞれが自らのレベルを認識し、いかにステップアップすれば良いのかを把握できるようになっています。
・フェーズ1(導入)=「気づく/分かる」
・フェーズ2(実践)=「実践できる/開発できる」
・フェーズ3(支援)=「教えられる/支援できる」
FD/SD研修は、大学設置基準の改正で義務化されたものではありますが、「義務」だからではなく、実情や時代に合わせて点検とブラッシュアップを重ねていくべきもの。2回に渡って開かれた学生参画型の研修では、誰もそれを苦に思わず、むしろ互いに楽しく学び合う姿が印象的でした。
一方で、研修の具体的な目的や内容の理解不足、FD活動への理解不足のまま研修に参加する学生もおり、主催者側の案内不足もありました。また「このような研修や活動が実施されていることが、学内で知られていないため周知して欲しい」「他学科の学生や教員と交流する機会がより欲しい」という意見も寄せられています。
FD委員会ではその意見を受け止め、翌月には各ツリーの報告展示を学内で行い、多くの方々にご覧いただいています。研修で顕在化したすべての要望に応えたり、理想のツリーを即採用するということにはなりませんが、「教育内容・方法の改善」へとつなげるきっかけ、見つめ直す契機になったと思います。
(文・撮影:作山朋之)
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