INTERVIEW2025.02.27

舞台教育

高校演劇コンクール近畿大会優秀校「春秋座」招待公演『演じる高校生』レポート — 精華高等学校・神戸常盤女子高等学校の「常識や当たり前を疑う」2作品を上演

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  • 上村 裕香

京都芸術大学内にある劇場・春秋座では、2001年のこけら落とし以来、秋に行われる「高校演劇コンクール近畿大会」の優秀校から推薦された2校を春秋座に招待し、『演じる高校生』と題して、受賞作品を上演しています。

今年度で24回目をむかえる『演じる高校生』。今回選出された学校は、兵庫県の神戸常盤女子高等学校と、大阪府の精華高等学校の2校です。各校1時間の個性あふれる演劇が、本格的な花道機構を備えた劇場・春秋座で2月2日(日)に繰り広げられました。

本公演の宣伝美術は、学校法人瓜生山学園(京都芸術大学、京都芸術デザイン専門学校、京都文化日本語学校、京都芸術大学附属高等学校)の在学生を対象に募集し、京都芸術デザイン専門学校コミックイラストコース2年生のチョウ・エンエンさんの作品が選ばれました。スポットライトの丸い光に写し出される役者たちの様々な衣装と小物が想像を掻き立てます。

公演前には、関連企画として「『演じる高校生』のための演技ワークショップ」が開催され、演技トレーナーの平井愛子先生(舞台芸術学科教授)と舞台演出家の山口浩章先生(舞台芸術学科 准教授)が演じることを志す高校生たちに「演じるとはなにか」についてレクチャーしました。
自然体で生き生きと演じるためのストレッチや発声法、動きながら台詞を自然に相手に届かせる方法などをワークショップ形式で紹介。ワークショップに参加した生徒からは「いままでは演技中にどう動いたらいいかわからないと悩んでいましたが、自分が『動きたい』と思う感覚が掴めて、演技がしやすくなりました」という感想や「動きも台詞もと気を配りすぎて、自然に動くことができていなかったのですが、今日は自然体で演技ができました」という手応えを感じさせる言葉が寄せられました。
ワークショップ後には山口先生に演出について質問できる時間も設けられ、役者が自然に動けるような演出方法や、舞台上での間の作り方などについての質問が飛び交いました。役者を志す生徒にとっても、演出家を目指す生徒にとっても、有意義な時間となったのではないでしょうか。

等身大の群像劇

当日上演されたのは精華高等学校の「—椿姫—大阪、ミナミの高校生2」(作:オノマリコ)と演劇部と、神戸常盤女子高等学校の「キャベツどうした?」(作:(有)山ヤ百貨店)の2作です。

精華高等学校(大阪)『—椿姫— 大阪、ミナミの高校生2』 撮影:森智明

精華高等学校の「—椿姫—大阪、ミナミの高校生2」は、オペラ作品を下地に作られている「大阪、ミナミの高校生」シリーズの第二作です。高級娼婦の愛と悲哀を描いた名作オペラヴェルディ作曲『椿姫』を原点として、現代の大阪に舞台を移し、常識や当たり前を押し付ける社会に違和感を持つ高校生の等身大の思いを群像劇で表現しました。

中心となる場面は高校の生徒指導室。2年生のマリー(青木千愛さん・3年)は担任の先生(竹中翔一郎さん・3年)から反省文を書き直すよう言われます。マリーの彼氏で、同様に反省文を書かされたトム(児玉大輔さん・1年)は反省の色を見せたのに、マリーの反省文はメチャクチャで反省の色が見えない!と怒る先生。マリーは反省文を書き直そうとするも、「怒られている理由」に納得がいかず……。だれかを愛すること、社会の中の常識や善悪に疑いを持つことについて考えさせられる物語です。

今回の公演の演出はマリー役を務めた青木さんが中心となり、生徒主体で考えました。2023年から繰り返し再演している本作品は、再演ごとにモノローグや演出方法を変えながら試行錯誤しているといいます。今回の公演では、普段、コンクールの際に上演する劇場にはない花道を使い、春秋座で上演するからこそできる会場を広く使った演出も取り入れ、観客を楽しませていました。

当たり前とはなにか

神戸常盤女子高等学校(兵庫)『キャベツはどうした?』 撮影:大阪フォトサービス

社会派なテーマを扱った精華高等学校と対照的に、神戸常盤女子高等学校の「キャベツどうした?」は笑いの要素をふんだんに取り入れたコメディ作品です。
舞台は兵庫県神戸市の女子高校。夏休み、小さな会議室に集められた就職を希望する女子高生3人は、それぞれに悩みを抱えています。口を開くと喋りが止まらない「口から生まれてきた女」五十嵐トモエ(安尾彩花さん・2年)、いつもクールな「笑わない女」林アスカ(坪内葵さん・3年)、夢を抱えながらもその気持ちを表に出すことができない「自信ない女」栗山ユーカ(伊藤綾香さん・1年)。3人は自分の気持ちを言葉にして、「当たり前とはなにか」を考えていきます。

自分の当たり前と世間の当たり前について考えるという物語の奥行きは、精華高等学校と共通する部分もある本作品。戯曲は書き下ろしで、2024年の夏頃から稽古を重ねてきました。公演中、何度も爆笑の渦を巻き起こしたのが通称「キャベツママ」こと小池明子(清水海音さん・3年)。全身緑のスーツに身を包み、独特の間と空気感で強烈な存在感を放つキャラクターに観客も釘付けでした。


上演後には、山口先生と両校の生徒が登壇し、アフタートークが開催されました。はじめに両校の生徒が上演してみての感想を語り、山口先生がそれぞれの作品についてコメントしました。
神戸常盤女子高等学校の「キャベツどうした?」は会議室で繰り広げられるワンシチュエーションコメディで、前半は女子高生3人が机の周辺で会話を繰り広げる「閉じた」空間で展開されます。そして、後半の「キャベツママ」の登場で、アスカとユーカは会議室を逃げ惑い、舞台の使い方がグッと広がります。この空間の使い方が「女子高生たちの閉ざされた空間が、社会の中で生きる大人が空間に入ることによって広がる」ことを表現しているのではないか、と山口先生から鋭い指摘が。出演した生徒は「そこまで意図はしていなかったです」と笑いながらも、「考え方の視野が広がりました」と批評を受け止めている様子が印象的でした。
アフタートークの最後には精華高等学校の生徒が「繰り返し上演するとき、新鮮に演じるコツ」を質問し、山口先生が舞台によって変化する会場の空気や観客に身体を反応させる心構えや、次の公演に向けての具体的なアドバイスを述べました。

春秋座で演じて

アフタートーク終了後には、楽屋にお邪魔して、両校の生徒に上演した感想や今後の展望などをうかがいました! お話ししていただいたのは、精華高等学校の竹中翔一郎さん、青木千愛さん、神戸常盤女子高等学校の清水海音さん、坪内葵さんです。みなさん、この春で卒業する3年生。後輩への思いやこれから行われる全国大会で公演を観る方へのメッセージもお聞きしました。

写真左から、竹中翔一郎さん、青木千愛さん、清水海音さん、坪内葵さん

——春秋座で上演した感想を教えてください。

竹中さん(精華高等学校):春秋座は花道など、普段コンクールで上演する劇場にはない舞台機構があったり、客席に提灯があったりと、地区大会や府大会の会場とは一味ちがう劇場だったので、新鮮な気持ちで演じることができました。

坪内さん(神戸常盤女子高等学校):わたしたちは昨年も春秋座で公演をさせていただいたのですが、2年連続で舞台に立つことができて感激しました。うちの高校は夏に行われる全国大会に出場するので、3年生であるわたしたちにとってはこれが最後の公演でした。アスカはクールなキャラクターで、演じるのが難しかったので、全国大会で2代目を演じる後輩をこれからサポートできればと思っています。

——公演を作るにあたって苦労したことや、上演時に意識したことはありますか?

青木さん(精華高等学校):今回上演した「—椿姫—大阪、ミナミの高校生2」は、わたしが1年生のときに先輩方の過去の上演映像を見てやりたいと思った作品で、2023年から繰り返し上演してきました。再演するたびにモノローグや台詞を変えているのですが、役者の部員全員が舞台に上がって台詞を言う、というのは今回がはじめての試みでした。わたしたちで台詞を考えて、もともと戯曲にある台詞と組み合わせることで「どれがほんまなんかわからん」ということを表現したかったのですが、それぞれに台詞を考えて戯曲を改変していくのが難しかったです。

清水さん(神戸常盤女子高等学校):今回の「キャベツはどうした?」の完成台本が配られたのが9月の始業式の頃でした。みんなで読み合わせをしたあと、それぞれの役者がどの役をやりたいか紙に書いたり、オーディションのようなことをやったりして配役が決まり、11月の地区大会まで2か月ほどで仕上げていきました。わたしが演じるときには、演技っぽい呼吸にしないように気をつけました。「どう自然に人間の呼吸で会話をするか」を考えながら、お客さんを飽きさせないように、抑揚をつけた演技を意識しました。

——この記事を読んでいる読者の方、観客の方に一言、お願いします。

清水さん(神戸常盤女子高等学校):来年度に行われる夏の全国大会での公演では、小池明子役を後輩が演じます。「2代目キャベツ」なので、新鮮な気持ちで見てほしいし、たくさん愛してほしいです。

坪内さん(神戸常盤女子高等学校):今後、演劇部が新しい体制になっていくので、後輩たちにはオリジナリティーを大切に、自分の演じるキャラクターを自分のものにして演じてほしいですし、見てくださる観客の方も楽しんで見ていただければと思います。

青木さん(精華高等学校):毎回はじめに「舞台で観劇したい人」って手を挙げてもらって、うちの高校の部員を上げるっていうのをやっているんですけど、アフタートークで山口先生に「本当にお客さんを舞台に上げたら?」ってアドバイスをいただいて、どうなるかはわからないんですが、アドバイスを参考にして演出についても考え直したいと思います。動きや表現の変化を楽しみにしていてください。

竹中さん(精華高等学校):この作品は恋がテーマで、青春を謳歌している人でもそうでない人でも、観ながら「共感できるな」とか「こういう人もおるんやな」とか、楽しんでもらえたらうれしいです。また春季全国大会で見ていただけたらと思います。よろしくお願いします!


公演とアフタートークを終え、次の公演への気持ちを語るみなさんの顔は輝いていました。今回インタビューに答えてくれた4人は、卒業後もそれぞれの形で演劇とのつながりを持って歩んでいくと話していました。今回の春秋座での公演や演技ワークショップは、きっと「演じる高校生」たちの未来に活きる経験になったはず。春と夏に行われる全国大会でよりパワーアップした高校生たちの上演が観られることを、楽しみにしていてくださいね!

 

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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