INTERVIEW2026.03.11

アートデザイン

領域を広げ、関係性をつくるスタジオ「CAPS」

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  • 京都芸術大学 広報課

2025年4月、京都芸術大学大学院に「CAPS」という新たなスタジオがオープンした。「Contemporary Art Practice | Studio」の略称で、大学院の芸術専攻・芸術実践領域に紐づくスタジオであり、同領域の活動の総称でもあるという*1 。CAPSとは一体どのような存在なのだろうか。今回は、CAPSディレクターの名和 晃平(なわ・こうへい)さん、芸術実践領域・領域長の多和田 有希(たわだ・ゆうき)さん、そしてCAPSで学ぶ大学院2年生のタナカリナさん、白井 桜子(しらい・さくらこ)さんの4名にお話を伺った。

*1 芸術実践領域

 

実践的に芸術を学ぶ

CAPSを運営する芸術実践領域は、元々美術工芸領域という名称だったが、大学院の再編と共に2025年に名称を変更した。命名した芸術専攻専攻長の竹内 万里子さん(批評家・作家)は本領域を、「Interdisciplinary」という言葉で形容し、複数の異なる専門分野がまたがり、学生、教員がそれぞれ領域の垣根を超えて交流する、学内のクロッシング・ポイントとなることを目指していたそうだ。


多和田「本大学には素晴らしい教員の方々がいて、魅力的なプロジェクトも複数あるのですが、当時の課題としてそれぞれが独立して活動しており、相互の状況が見えづらくなっていたり、学生が自身の専門分野以外の教員との交流機会が少ないことなどがありました。大学院進学のイメージが狭いものになっていないか、憧れられる場所になっているか、再考する必要がありました。」

多和田 有希さん(美術家)
写真を越境的なフィールドとして用い、人間の精神的治癒のシステムをテーマに制作を行っている
「CAPSとはある種の生態系です」と多和田さんは言う。
撮影:大河原 光

領域を超えた学びと交流が加速するよう、多和田さんが領域長に就任して以降は、元々学生数が多いペインティングはもちろん、自身の専門分野でもある写真をはじめ、陶芸や染織、版画、立体、パフォーマンスやキュレトリアル・プラクティスも大学院で強化できるよう意識しているという。

そのことも含めて名和さんは、大学院教育だからこそ、総合的な学びが必要だと指摘する。


名和「大学院の教育は、どの分野も個別の専攻やコースに分かれて専門化していくのが一般的で、アートの場合も同様に、適切なアウトプットのための知識や技能を身につけることは重要です。しかし一番大切なのは、その専門化の過程でそれぞれが自分の引き出しの奥へと引きこもるのではなく、自身のスキルをテーブルの上に載せて、みんなで検証しあえる環境をつくることなのではないか、と話しあっていました。」

名和 晃平さん(彫刻家)
独自の「セル(細胞・粒)」の概念を機軸に、彫刻を柔軟に捉え、多様な表現を展開している。
「自分のことだけでなく、大学全体で起こっていることが、CAPSでの交流を通して分かるようになれば」と名和さん。
撮影:大河原 光

芸術実践領域は、アーティストが世界で活躍するための、まさに実践的なプログラムを数多く用意している。美大・芸大の大学院、あるいは一般的に大学院ではと言ってもよいが、通常は自身の専門領域を絞り、研究を深めていくことに主眼を置く。専門性それ自体は決して軽視できないものだが、同領域ではそこを大切にしつつも、社会や世界でアーティストが生き抜く力を育てるための幅広い学びを提供している。そのため授業も、文化人類学や思想、ジェンダー研究、個人取材入門など、芸術と深く関係する領域まで幅広くカバーし、芸術分野でも京都という都市から広くアートエコシステムを考えるものまで、独自の視点で構成されたものとなっている。指導教員も批評家の浅田彰氏やアーティストの藤本由紀夫氏、キュレーターの片岡真実氏と強力なメンバーで構成されており、ますます予測不能で不安定な時代に突入している中、アクチュアルな学びを大学院全体で問おうとする挑戦的な姿勢を感じられる*2 。そしてCAPSは、その学び、自身の現在地を主体的に形にする実験場でもある。

※2 詳細は芸術実践領域公式ページの「2025年度開講授業」を参照 カリキュラムの詳細はこちら

仲間たちと領域を超えて幅広く学ぶ環境は、学生に自然と変化をもたらす。日本画分野で学んできたタナカリナさんは、授業を受けながら自身の領域以外の学生や教員と交流を持つなかで、それを感じたそうだ。


タナカ「領域横断的に制作をできるようになった実感は、すごくあります。これまでは、それこそ外部と遮断して制作する感覚があって。でもCAPS で制作するようになってから、自分が外に開いてつくることができるようになったというか。特に油画の人たちと交流を持てるようになったことは自分の中で大きくて、彼らとの対話の中で、制作を自由に展開していくことを学びましたし、影響は受けたと思います。」


東北芸術工科大学を卒業して芸術実践領域に入ったタナカさんは、動植物の写生から自然に引用された身体的な線描を用いて独自の表現を追求している。学部時代に学んだ日本画の伝統的な素材、制作フローを大切にしながらも、院にきてから少しずつ表現を変化させ、自身の可能性には線を引かない伸びやかな制作を続けている。

タナカリナさん
「卒業後は日本画とそれ以外の領域を柔軟に繋ぎながら制作を行い、日本画のいいところを自分でさらに広げたい」と語ってくれた。
撮影:大河原 光

多和田「領域横断性を意識した教育というのは、他の大学院と比べた時に、うちの強みになっていると思います。どれだけ実験的な実践ができて、多様な人たちと交流ができるか。そこはかなり意識しています。」

CAPSという空間

領域横断的な実践を醸成する空間をどうつくるのか。その問いを元にCAPSの構想が始まったが、答えの基盤となったのは、世界中で制作をしてきた名和さんのアーティストとしての経験だ。名和さん自身もSandwich*3 という自身のスタジオであり、オフィスであり、レジデンスでもあるという領域横断的な場所を2009年に制作している。15年以上に及ぶスタジオの運営経験に加え、ロンドンやローマ、そしてニューヨークやベルリンなど多くの都市でアトリエやスタジオ、制作現場や教育現場をみてきた名和さんの見地を軸に、今回Sandwichが全体の構想とデザインを担当した。

※3 Sandwich

名和「機能的で使いやすいこと、そしてこの建物のポテンシャルを生かすことが念頭にありました。 制作や展覧会はもちろん、レクチャーやパフォーマンスなどもできる構造になっており、個人の時間と全体の時間が必要に応じて自由につながりあう、そんな場所づくりを目指しています。おそらく何年か過ごすうちに、この場所の力を最大限に発揮する方法がみんなの中で生まれてくると思うので、存分に使い倒して欲しいですね。」


CAPSが位置する場所は、元々美術工芸学科の日本画コースが使用していた場所だった。制作に集中できる構造を意図してか、元々は窓を閉じ、密閉した空間としていたようだが、それらは例えば油絵や立体など溶剤を多く扱うアーティストには向いていない。名和さんはできる限り多ジャンルのアーティストがストレスなく利活用できるように空間を開いて換気を良くし、どの場所からも外が見え、自分たちの学び場がどこか意識できるよう再構成した。実際の設計には展覧会をはじめ、数々の芸術空間を作ってきたスーパーファクトリーが入り、最終的に明るく、活気溢れる解放的な空間になった。

CAPS中央の通路から、各ブースにアクセスできるようになっている。各スペースには扉がなく、自由に空間を行き来できる。名和さんによると、ブースを均等に区切っていくところが難しかったとのこと。
写真:表恒匡
CAPSオープンスタジオの様子
普段は制作場所であり、実験場だが、展示の期間はギャラリーのような空間に変化する。制作〜展示までを同空間で行うからこそ、空間の活用方や展示方法など、アーティストとして必要なスキルを常に磨いていくことができる。
撮影:金 兌憙
CAPS入り口にあるライブラリーコーナー
フロア内では誰もが自由に閲覧できる
撮影:大河原光
CAPSは対話の場としても様々な活用がなされている。写真はICA京都主催でアーティストの島袋道浩さんを招いたトークイベントの様子。
ICA Kyoto TALK 060 島袋道浩「どうやってアーティストになったか」
撮影:Oto Hanada

多和田「こういった空間を、20代前半で使いながら学べる環境は、アーティスト人生において、すごく豊かなことだと思います。アトリエがないこともよくありますし。だからこそ面白い使い方をたくさんしてほしいですね。」

 

油画分野で学ぶ白井さんは、この場所を、様々なことが「よく見える場所」だと言う。


白井「今までは制作場所はすごく混沌としていたのですが、この場所に来て、自分の作品が細部まで見えたり、直すべきところが分かったり、すごくよく見える場所だなと思います。白い空間を友達と譲り合って、自分の作品だけじゃなくて人の作品をよく見るという経験から、客観視できるようになったのかもしれません。」


白井さんは、絵画、デザインなどの要素も絡めながら「見ること」の本質を問い直す作品を多くつくってきた。この2年間は暗中模索だったというが、自身の領域にとらわれずに果敢にチャレンジした結果、自身の作家としてのスタンスがわかってきたそうだ。

白井 桜子さん
悩みながらも挑戦をし続けたこの2年を「間違いなく人生の岐路だった」と振り返る。
撮影:大河原 光

「実践」をやめないこと

芸術実践領域では現在、日本画、油画、写真・映像、彫刻・立体造形、染織テキスタイル、陶芸、パフォーマンスなど多ジャンルのアーティスト等が学んでいる。在学中は年間最低3回の展覧会がギャルリ・オーブ※4 などで実施され、学外での展示機会も提供されている。昨年にはCAPS起点で、大学院生・卒業生・教員ら48名が参加する展覧会「CAPS 2025展※5 が髙島屋大阪店で開催された。

※4 Galerie Aube / ギャルリ・オーブ
※5 「CAPS:Contemporary Art Practice | Studio - CAPS 2025展 概要」髙島屋大阪店(2025年5月28日~6月10日)
 

この時は名和さんがSandwichで受けた仕事を大学院に展開してこのような形になったそうだが、このようにプログラムとしての展覧会だけでなく、教員、卒業生等プロのアーティストと共に展覧会に参加する機会もつくっていくとのことだ。


多和田「展覧会の機会は本当に多くあります。自主制作展はもちろん、先生方が持ってこられるや企画展、つまり教員と一緒に、プロの作家として実践的に展覧会をつくっていくんです。」

 

アーティストが成長するにあたっては、インプットでもアウトプットでも理想的な環境がここにあるわけだが、アーティストとして最も重要なことは、どんな環境であれ「つくり続けること」だと名和さんも多和田さんも言う。


多和田「この20年くらいアーティストとしてやってきて、つくり続ける時に何が必要だったか考えていたんです。その時に場所も必要だし、初期から見てくれている人というのも重要ですし、ネットワークも大事ですね。自分で企画できる力や、展覧会自体をつくっていく力も大事ですが、他者とポジティブに協働できる力というのもすごく必要かなと。それを総合的に鍛えられる場が大学院であってほしいと思っています。」


名和「仲間や先生、先輩や後輩といった縦横のつながり、この大学に来なかったら出会わなかったかもしれない人たちとの関係は非常に重要です。孤独なサイクルの中で創作を完結させるのではなく、つくるということを通じて、周囲との関係性が育まれていくことを感じて欲しい。そして、その関係性がこの世界にとってどのような意味を持つのかを考え続けることが、その後の創作にとっても大切なことになるのだと思います。 」

会場・イベント風景:「CAPS:Contemporary Art Practice | Studio - CAPS 2025展 概要」
高島屋での展示は、名和さんが2006年に教え出した頃の作家から現役の大学院生まで、幅広い世代が参加。名和さんは「一種の祭り」だったと語る。

アーティストの挑戦を支える場として

2025年に立ち上がり、わずか1年とはいえ意欲的な活動を行うCAPS。この場所の新たな役割のひとつとして、名和さんは、関係性の再構築について言及する。


名和「コロナがあったじゃないですか。 あれ以降、いろんな学生のプロジェクトなどを見ていても、人との関係性が薄いというか、距離があるというのが当たり前みたいな雰囲気も感じまして。だけど、このCAPSという場所をつくって、それをもう一度取り戻したい。大学院の期間ってものすごく濃密で大事な時間です。自分が進化して、性質や頭の中身まで変容していく時期だと思うんです。それは隣にいる友人にも同じことが起きているので、他者の変化を近くで感じながら創作し、自分の変化も意識できるというのが、この大学院、この場所のいいところじゃないかなと思います。 」


また多和田さんはこの場所のポテンシャルを高めて、外にいかに開いていくか考えていきたいとのこと。


多和田「どんな使い方ができるか、その実験が、1年ではまだできていません。本当にいろんな専門家が参加しているので、例えばトークシリーズを主催してもいいし、学生も教員も含めて院生主体で考えていけたらいい場所になると感じています。 閉じた場所・領域ではなくて、開かれているということと、プラットフォームのように互いが繋がり、つくり続ける仲間と繋がり続けられるということが感じられる、そうなっていくのが CAPS だと思います。 」


京都芸術大学には、アーティストのキャリア形成プラットフォームとして機能する、「ARTOTHÈQUE(アルトテック)」や、同大学と世界のアートシーンを接続させていくことを目指す「ICA京都」など、様々な研究センター・附置機関がある※6 。CAPSではこれらの専門機関ともさらに連携し、広く多様な学びと機会を提供しながら、アーティストのキャリア、生き方を再提示しようとしている。
CAPSという場所は、スタジオであることはもちろん、教育実践の場でもあり、様々な人が集う公共的な空間でもあり、オルタナティブ・スペースのようにアーティストの創造性で変化する場でもある。そんな多様な場所性を携えるCAPSは、今後次世代のアーティストたちが困難な時代を生き抜くための、重要なプラットフォームになっていきそうだ。

※6 研究センター・附置機関


(文:桐 惇史 取材撮影:大河原 光)

 

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