REPORT2023.12.08

アート

これまでの100年とこれからの100年をつなぐ―フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクト「ケイキ」

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  • 京都芸術大学 広報課

大阪富国生命ビル地下2階「フコク生命(いのち)の森」は、梅田駅や大阪駅を利用する人にとっての待ち合わせスポットです。ホワイティうめだや大阪駅地下街にも通じるこの場所はいつも人で賑わい、一日に1.7万人が通行するのだそうです。

そんな場所に京都芸術大学の学生たちが集まって組み立てているのは、大きな大きなケーキ。先を急ぐ通行人のみなさんがふと足を止めて、さまざまに感想を漏らします。

「大きいねえ」「ケーキ?」「子どもが喜びそう」「何でできてるのかな」

すっかりお馴染みになりつつある「フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクト」、冬の立体展示のはじまりです。

フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクト2023

京都芸術大学では、富国生命保険相互会社の方々と産学連携させていただき、昨年に続き「UMEDA MEETS HEART2023」へ出展する作品を制作しました。

学年・学科問わず19名の学生が協力し、「人とのつながり」を大切にしたいという思いを込めた大きなケーキを作りました。
新たにソフトスカルプチュアという柔らかい素材を使った技法に挑戦し、優しさや暖かさを感じられる作品となっています。

フルーツはイチゴが「愛情」、黄桃が「友情」など、相手を思う気持ちの花言葉を持つものを選びました。10本の赤いロウソクには「祝福と喜び」、1本の白いロウソクには「始まりと期待」という意味があります。

今年100周年を迎える富国生命保険相互会社が、これから新たな100周年へと始まりを迎えることへの期待を込めました。
一つひとつ丁寧に縫い合わせたデコレーションは見どころの一つです。
学生たちが紡いで完成させた作品をぜひご堪能ください。

UMEDA MEETS HEART2023「ケイキ」

あなたがケーキを見た時に思い出す人はいますか?

家族や友達、恋人など、今思い出したその人は、あなたにとって大切な人なのではないでしょうか
その人と一緒になってケーキを囲んだ時間は、あなたにとって当たり前なことでありながらも、今までのその人とのつながりがなければ生まれなかった時間です。 富国生命保険相互会社は今年100周年を迎えました。
この100周年という節目を迎えられたのは、人と人とのつながりがあったからではないでしょうか。

この作品には、そんな「人とのつながり」を大切にしてほしいという気持ちが込められています。
そして、つながりによって生まれる人のあたたかさや優しさは目には見えませんが確かに存在しています。
それらの存在を、布から伝わるあたたかさや柔らかさで表現しようと考えました。
このケーキが人とのつながりに目を向けるきっかけ、契機(ケイキ)になってほしいです。 あなたとあなたの大切な人とがこれからも一緒にケーキを囲んでいますように

制作:京都芸術大学 学生プロジェクトメンバー
青山日向子、石神紗香、市川翔太郎、岩野由依、小原陽菜、金田旺己、酒井快太、ジョンヒョリ、髙木英恵、田頭涼太、中島廉太郎、西田菜々、袋井颯、三ツ井梨菜、宮崎その
制作補助:宇野真太郎、木田 光風、志方克成、栁果歩(マネジメントメンバー4名)
指導教員:森太三先生
運営協力:京都芸術大学 芸術教養センター

 

想いを形にする「空間プロデュース」

フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクトは、JR大阪駅前にある大阪富国生命ビルの地下2階から地上4階にわたる吹抜けアトリウム空間「フコク生命(いのち)の森」をアートでプロデュースする社会実装プロジェクト。

芸大生ならではのアイデアや表現力を活かして作品を制作し、アトリウム空間を演出します。4月にキックオフし、今年の夏には「今が生まれる」というタイトルの巨大な壁画を制作・展示しました。

今というこの瞬間を大切に―フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクト | 瓜生通信

この展示はすっかり梅田の冬の風物詩となった「UMEDA MEETS HEART(ウメダ ミーツ ハート)」に参加しています。

「ケイキ」は上から見るとハートの形をしています。また、飾りのフルーツには「相手を思う気持ち」の花言葉を持ったものを選び、また10本の赤いロウソクは「祝福と喜び」、1本の白いロウソクには「始まりと期待」という意味をもっています。


富国生命保険相互会社は、今年で創立100周年を迎えるそうです。これまでの100年で培った人と人とのつながりと、新たな100周年を迎えることへの期待を込めて作られた「ケイキ」。

この大きな身体は布や綿を用いたソフトスカルプチュア(※)の技法で作られ、見る人に柔らかく暖かい印象を与えます。

※布やゴム等、柔らかいものを用いて立体作品を作成する手法。今回の「ケイキ」は布や綿を使用。

夏の平面展示と同時並行しながら進められたという冬のプロジェクトは、立体造形の指導を担当する森 太三先生の方針によりひとりひとつずつアイディアを出す「個人戦」形式のコンペで幕を開けました。

八月末からは富国生命ビルに向けたプレゼンが始まり、森先生からの助言を得ながらブラッシュアップを重ねたそうです。

採用された「ケイキ」を形にするために、プロジェクトはまとめ役の「リーダー」と作業等を担当する「メンバー」に分かれて作業を進めてきました。

学びを活かして、お客様の想いに応える

リーダーの田頭 涼太さん(ビジュアルコミュニケーションデザインコース1年生)と、同じくリーダーであり「ケイキ」の発案者でもある小原 陽菜さん(ビジュアルコミュニケーションデザインコース1年生)にお話をうかがいました。

(写真左から:田頭 涼太さん、小原 陽菜さん、宇野 真太郎さん)

――こんなに大きなケーキ、どうやって大学から運んだんですか?

田頭「分割して運べるように、木の枠組みを設計しました。そうじゃないと、トラックに乗らないので」

――木の土台をしっかりと組んで、その上に布を。

田頭「そうですね。大学で出来る作業はやれるだけやったのですが、ここに運んでからじゃないとできないこともたくさんあって」

――上のほうから配置を確認していましたよね。平面とはまた違う大変さがあるんだなと思いました。

小原「それから、分割したことによってどうしても隙間ができてしまうので、目立たないよう工夫しています」

上からバランスを見る様子


――「ケイキ」、フルーツやクリームの布の質感があたたかくてとても素敵です。最初からこういうケーキを作ろうと思ってデザインをしたんですか?

小原「大きなケーキを作りたいという気持ちはありましたが、最初はもっと地味なケーキでした。イチゴだけが載っているような感じの……(笑)」

――ずいぶんカラフルになりましたね(笑)。ソフトスカルプチャーという手法についてはどんなこだわりがありますか?

小原「ソフトスカルプチャーは、リアルを追求できるところであえて抽象性を与える手法です。それぞれの要素にどんな質感を持たせたいかを考えながら、実際にお店を周って、布を探しました」

――フルーツに使われている布はむらのある染め方をされていて、きれいですね。最初に見たときから目が吸い寄せられました。

小原「たとえばオレンジは、皮の部分と果肉の部分、それからその間の白い部分で全部違う布を使っています」


――このプロジェクトに参加している皆さんは、美術が専門ではない方も多いと聞いています。裁縫がもとから得意だったという人は……

小原「ほとんどいませんでした。でも作業をしているうちにみんな縫うのがどんどん早くなっていって……最後の方なんか『え、もうできたの!?』と驚くことが多かったです」

――お二人とも、しっかりされていますけどまだ1年生なのですよね。大学に入学してから半年と2ヶ月、プロジェクトに参加してみていかがでしたか?

田頭「課題のたくさん出るコースに所属していることもあって両立が大変でしたが、学科やねぶたプロジェクトから学んだことを活かして、完成することができたと思います」

小原「プレゼンで厳しいコメントをいただいたこともありましたが、メンバーのみんなと協力しあったから、ここまでやってこれたんだと思います」

人と人をつなげる「ケイキ」をめざして

組み立ての仕上げもほぼ終盤に差し掛かるころ、通りかかったお子さんが足を止めて、大きなケーキをじっと見つめました。「触ってみたい?」と学生が訊ねると、ケーキの切れ目に駆け寄ります。

お子さんと宇野さん

「本当は色々な方にこうやって触ってもらいたかったのですが」と、リーダーの一人としてプロジェクトの成功を支えてきた宇野 真太郎さん(総合造形コース2年)は語ります。

しっかりと骨組みを作ってあるとはいえ、大人の背丈よりも大きな「ケイキ」。安全面等を配慮して、会期期間中は立ち入りを制限するロープの向こうから鑑賞していただくこととなります。

「布の質感を活かしたソフトスカルプチュアというのは、前期の平面作品の展示とワークショップがあったからこそ生まれた発想だと思います。だから、この作品は本当はパブリックな場所に置いて、触っていただきたかったですね」

次々と立ち止まるお子さんたち。学生たちが気持ちのいい笑顔で「ケイキ」の中へと迎え入れると、親御さんがすかさず写真をパシャリ。大きなケーキの中に挟まって写真を撮るまたとない「契機」となったのではないでしょうか。

展示期間は12月25日まで。梅田駅の近辺にいらっしゃった際は、是非お立ち寄りください。

(文=天谷 航)

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