REPORT2018.08.30

舞台

”努力” の先にみる景色 ―『キャッツ』プロジェクト/ 学生レポート#4

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  • 京都造形芸術大学 広報室

瓜生通信WEBマガジンでは、今年3月~8月上旬まで学内工房ウルトラファクトリーで製作が行われた、劇団四季との産学連携『キャッツ』プロジェクトに参加した学生のレポートを4回にわたり紹介しています。最終回となる今回の学生レポートでは、約5か月間のプロジェクトを終えた学生の声をお届けします。

このプロジェクトは、劇団四季ミュージカル『キャッツ』の舞台美術の一部の製作に学生が挑戦するというもの。22名の学生が「猫からの目線」をコンセプトとして、通常の約3倍サイズでつくられるゴミのオブジェを製作しました。学生の作品は、8月11日(土・祝)に開幕した『キャッツ』東京公演を上演している「キャッツ・シアター」に実際に飾られており、多くの観客を出迎えています。

今回のレポーターは、美術工芸学科 2年生の小西 葵さん。『キャッツ』プロジェクトを通して学び得たこととは。それぞれの学生の挑戦と熱い想いにご注目ください。

 

プロジェクトで夢に一歩近づけた。

― 美術工芸学科 総合造形コース 2年生:小西 葵

【製作物】
小型ゴミ:テスター
中型ゴミ:サッカーゲーム(主にサッカーボード本体の製作と組み立て、人形の製作を担当)
大型ゴミ:オートバイ(前輪フェンダー、ウィンカー、ヘルメットフォルダーを担当)

 

私には中学生の頃から変わらない夢があります。それは舞台の小道具の仕事に就くこと。子どもの頃からモノづくりと舞台を観に行くことが大好きで、夢を叶えるためなら、遊ぶ時間を削って勉強することも苦ではありませんでした。

京都造形芸術大学に入学して間もなく、ヤノベケンジ先生の「ウルトラプロジェクト」に出会いました。プロのアーティストと制作を共にし、圧倒的な技術を目の当たりにすることで、自分の技量を客観視できると同時に、自分が本当に美術製作の仕事に就くことができるのか……と不安にかられました。それは、夢ばかり見ていた状態から「現実」を見た瞬間でした。夢にどのように近づけばいいのか?と悩んでいた時に出会ったのが、この『キャッツ』プロジェクト。ずっと憧れていた劇団四季の小道具に携わることができるかもしれない。直感的に「私はこのプロジェクトに参加するためにこの大学にいるんだ」と思いました。

ゴミのオブジェ製作は素材の切り出し作業からスタート。大きな発泡スチロールからパーツを切り出す
小西さんが製作した「テスター」。それぞれのゴミが持つストーリーに沿って作りあげる

選考を通過しプロジェクトへの参加が決まった時、嬉しさ以上に感じたのは、このチャンスを自分の糧にしなければならないという緊張感。私は総合造形コースに在籍しており、普段は木材・鉄・樹脂などをつかった立体造形を勉強しています。造形するという点では『キャッツ』プロジェクトと共通していますが、今回、使用する素材や機材は初めてのものばかり。戸惑いもありましたが、それでも「初めて」に出会う楽しさを感じていました。

ゴミのオブジェ製作では、既製品に見えるほどの高いクオリティが求められます。直線や曲線など、規則正しい造形をすることはとても難しく、少しの歪みが全体の完成度に影響を与えてしまいます。また、約3倍サイズというのは想像していたよりもずっと大きく、計画していた工程では通用しないなど、想定外の問題がたくさん発生しました。

小型・中型・大型のゴミのオブジェ製作と、製作物が大きくなるにつれて、グループでの共同作業が求められます。私は引っ込み思案で人見知りをしてしまうので、この共同作業も困難の一つとなりました。製作を共にしていたメンバーと、険悪なムードになってしまう時もありました。お互いの本音を伝えるための話し合いの場をもったり、他のメンバーに助けてもらったりしながらの作業。グループ作業では、コミュニケーション能力がとても大切なのだと痛感しました。これは普段の個人制作では得られない貴重な経験となりました。約5か月間の製作を通して、造形技術の習得はもちろんのこと、コミュニケーションの大切さなど、精神面でも得られたことが多かったと感じます。

12人で1つの大型ゴミのオブジェ「オートバイ」を製作。求められるのはチームワーク
劇団四季小道具スタッフの成良さん(右)。技術面で困った時は直接指導していただく

8月5日(日)~7日(火)の3日間、このプロジェクトの集大成となる「劇場内への作品の飾り込み作業」のため、東京の「キャッツ・シアター」へ赴きました。劇場に足を踏み入れた瞬間、劇団四季への憧れの気持ちや、プロジェクトへの参加が決まった時の喜びなど、さまざまな記憶が一気に蘇りました。

劇場内には、劇団四季小道具スタッフのみなさんが製作された作品がすでに飾られていました。プロがつくったゴミのオブジェは、「大切に使われていた」という温もりだけでなく、まるで命が吹き込まれ。ゴミ捨て場にくるまでのストーリーを語り掛けてくるようにすら感じました。さらに作品には遊び心まで加えられており、プロの技術の高さを感じました。私たち学生の製作では、クオリティを保ちながら製作期間内に完成させることで精一杯だったので、楽しむ余裕を持てていなかったと、プロとの違いを実感した瞬間でした。

東京 大井町「キャッツ・シアター」。すでに多くの作品が飾られている
小西さんも製作に携わった「サッカーゲーム」。劇場にしっかりと溶け込んでいる

プロジェクトを通して学んだことや気づいたことは数多くあります。それを言葉で表すのは難しいですが、プロジェクトメンバーが私の気持ちを的確に表現してくれました。それは、「目の前のことを一生懸命やっていたら、とても良い景色がみれた」ということ。

製作中は、自分の技術の未熟さに思い悩み、嫌気がさすこともありました。「もっとこうしておけば良かった」と思い返す部分もたくさんあります。しかし、後悔はしていません。苦しみながらも良いものをつくろうと力を尽くしたことは、自分にとって大きな糧になったと感じています。頑張ったからこそ、見える景色がある。この気持ちをプロジェクトメンバーと共有できたのも喜びの一つです。

劇団四季小道具スタッフの方と一緒に飾り込み作業の様子
「捨てられたゴミ」に見えるよう、飾る場所や角度の決定も慎重に行う

これまで、「なりたい自分」になるために色々な努力をしても上手くいかないことばかりでした。どれだけ頑張っても、目標から遠ざかっているような気持ちにすらなっていました。しかし、このプロジェクトに参加し、これまでの人生の中で最高の経験をすることができたのは、どんな時も自分自身が挫けることなく懸命に人生を切り開こうと努力を続けてきたからなのだと自信を持つことができました。普段はあまり感情を表に出す方ではありませんが、東京の劇場での飾り込み作業がすべて終わったあと、涙が止まらなくなりました。感動や寂しさなど様々な感情でいっぱいになりました。今までで一番良い涙だったと確信しています。

「モノづくりが好き」という気持ちから小道具の仕事を志し、ここまで来ることができたと思うと、「好きなこと」や「やりたいこと」を手放さずに続けることは、価値のあることだと実感しました。プロジェクトが終わり寂しくもありますが、ここで満足することなく、今のこの気持ちを忘れずにいたいと思います。そして、今回流した涙より、もっと良い涙が流せるような経験を今後も積み重ねていきたいと思います。

  • 京都造形芸術大学 広報室Office of Public Relations, Kyoto University of Art and Design

    所在地: 京都造形芸術大学 瓜生山キャンパス 人間館1階事務室
    連絡先: 075-791-9112 (内線 3030/3033)
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

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