INTERVIEW2019.07.12

映像

映画『老人ファーム』京都シネマで公開中-卒業生・三野龍一さん監督作品

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  • 京都芸術大学 広報課

京都造形芸術大学・映画学科2011年卒業の三野龍一さんの監督作品、映画『老人ファーム』が7月6日(土)~7月19日(金)まで京都シネマで上映されています。本作は、三野さんの初めての監督作品。カナザワ映画祭2018で「観客賞」を受賞するなど、注目を集めています。三野監督に本作についてお話を伺いました。

7/7(日)京都シネマ上映後には、三野監督、主演・半田周平さん、映画学科 山本起也教授によるトークショーが行われた。(左から:山本起也教授・三野龍一監督・半田周平さん)

~映画『老人ファーム』あらすじ~
俳優・半田周平さん演じる主人公「和彦」は母の病気がきっかけに仕事を辞めて実家へと戻ってきた。老人ホームで働きはじめた和彦をまっていたのは、慣れない老人たちの介護と家では母の愚痴を聞くという過酷な日々。
施設の管理者「後藤」の方針に疑問を持ちながらも、和彦は入居者が楽しく笑顔でいられる理想を思い描き、日々の業務を真面目にこなしていた。しかし理想と現実のギャップに苦しむ和彦。そんな中、後藤へ反抗的な態度をとり自己主張をする入居者「アイコ」に感化された和彦に変化が……。老人ホームで働く青年の心の葛藤を描いた作品。

-映画『老人ファーム』はどのような作品でしょうか?

社会の「当たり前」を問い直したいという気持ちからこの作品が生まれました。僕たちは、「社会に飼われているんじゃないか?」って感じるんです。この社会には「こうするべき」「こうあるべき」っていう固定概念があって、上手く生きていくためにはそれに従わなければならない。そういう「当たり前」に従って生きている我々は、社会に飼われているんじゃないかって思うんですよね。だから、この作品を『老人ファーム』と名付けました。

映画の舞台を老人ホームにしたのは、社会問題を題材にしたかったわけではなく、人間の心とビジネスが交差する職場だと思ったから。介護をする人も受ける人も感情のある人間。だからこそ介護者は「こうしたい」「こうしてあげたい」という想いが自然と強くなります。でも、一方でこれは介護というビジネスだと割り切らないといけない。そういう狭間で、主人公の「和彦」は色々なものを背負ってストレスを抱えていきます。でも、ホームに入居している「アイコ」との出会いが、彼を変えていくんです。ホームでの出会いを通して、和彦の感情がゼロからイチになる様子を描いています。

-「和彦」のように現実と理想の狭間で苦しんでいる人はとても多いように思います。

そうですね。この世界は、責任感の強い人や優しい人が損をしてしまうことがある。和彦もとても責任感が強くすべてを背負ってしまいます。そしてストレスをため込んでしまうんですね。和彦のように苦しんでいる人がいるならば、この映画を見てほしいなって思います。この映画はハッピーエンドではないですが、「もっと楽になっていいんだ」っていうメッセージを込めました。
もちろん、映画は上映された段階で僕ら制作側の手を離れ、観てくださるみなさんのモノになります。物語の中で介護の生々しい部分を見せたりもするので、世代や立場が変われば違う見え方がするかもしれません。多面的に観てもらい、さまざまな感想をもらえたら嬉しいですね。

特にこの映画の最後のシーンは、いろいろな捉え方ができそうですね。この物語はどのようにして生まれたのでしょうか?

 最後のシーンは色々な見方ができるかもしれません。和彦は変わったけれど、社会はそんな簡単には変わらないという儚さも含まれています。
 僕は、映画づくりとは自己分析の結果だと思っています。自己分析をどこまで深められるかで、映画の良し悪しが決まるという感じでしょうか。この作品の脚本は、僕の弟(三野和比古氏)が担当しています。弟と一緒にブレインストーミングを行って、ストーリーを組み立てていきました。自分の分身のような存在と自己分析をしていくので、鏡の中の自分と会話している感覚。そんな弟との会話はスムーズな情報の整理につながったし、脚本づくりはとても順調に進んでいきました。
 この映画を観てくださった方は、物語がとてもリアルだと言ってくださるのですが、この映画はドキュメンタリーではなく、完全にフィクション。もちろん介護の現場に取材にも行きましたが、ストーリーも台詞も完全にオリジナルです。「社会にこういう人いるよね」っていう人物像を描いています。

-たしかに、感情移入のしやすい登場人物の方が多かったのが印象的です。
 そういってもらえると嬉しいですね。俳優のみなさんには、その方がもともと持つ個性やキャラクター、経歴・職歴といったところまで、演技に反映していただきました。
 それから、この映画には誰一人「悪い人」は登場しません。仕事や物事の捉え方が違うだけで「悪い人」ではない。社会に適応するために大人にならざるを得ない人達ですね。そんな中で、大人になれずに苦しむのが主人公の和彦。こういうタイプの人間は社会で生きづらいですよね。和彦役の主演・半田周平さんには、色々な「笑顔」を演じてもらいました。映画の中で和彦の表情に寄るシーンが多いのも、和彦の複雑な心情を見てもらいたかったから。観る人の想像を掻き立てる半田さんの演技にも注目していただきたいですね。

-最後に、本学卒業生の三野さん。後輩のみなさんにメッセージを頂けますか?
 あまり偉そうなことは言えないですが……。良いことも悪いことも、この先何があるかわからない。でも、「絶対にあきらめない」という小さな心の火を燃やし続けて、目標に向かっていくことが大切なんじゃないかなと思います。
 僕の場合、「映画をつくりたい」という心の火を燃やし続けていると、それがだんだんと「本当はこうやりたいのに、出来ていない自分」へのストレスになってきたんです。映画業界で助監督として携わってきて、仕事としてはうまくいっているんだけども、「本当にそれでいいの?」「自分って何?」とずっとストレスに感じていました。それが最高潮まで高まったのが27歳の時。このまま助監督では終われないと思い、一念発起して弟と「Mino Brothers」という制作チーム結成し、映画『老人ファーム』の制作をスタートさせました。
 助監督時代があったからこそ、今の自分があります。現場を経験できたのは大きな財産です。映画が完成した今もなお、自分に全く満足できていないし、理想と現実のギャップにストレスを感じます。でもその気持ちが行動につながっていくんですよね。
 学生のみなさんにも、今一生懸命に取り組んでいることを「思い出」にするのではなく、心の火を燃やし続けて欲しいなと思いますね。

三野龍一さん監督の映画『老人ファーム』は、京都シネマで7月19日(金)まで公開中。7月13日(土)から19日(日)まで、名古屋シネマスコーレにて上映されます。

■映画『老人ファーム』公式ホームページ: https://rojinfarm.com/

■京都シネマ:https://www.kyotocinema.jp/movie/3010/

■名古屋シネマスコーレ:http://www.cinemaskhole.co.jp/cinema/html/

 

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