INTERVIEW2019.07.10

舞台

作品にとって、こどもは鏡―『めにみえない みみにしたい』藤田貴大さんインタビュー

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  • 京都芸術大学 広報課

7月27日(土)に春秋座で上演される『めにみえない みみにしたい』。目に見えない生き物を探して女の子が森の中へと迷い込む――という物語で、作・演出を手がけた藤田貴大さん(マームとジプシー主宰)にとっては初めてとなるこども向け演劇作品です。同作の関連企画ワークショップ公演「madogiwa」を春秋座で制作中の藤田さんに、自身のこどもの頃の演劇体験からこどもならではの視点まで、お話を伺いました。

 

わからない、だからこそ

―いつも作品の準備をすごく前の段階からされるという藤田さんですが、『めにみえない みみにしたい』はどんな準備から始まったのでしょうか。

いつも「演劇やってます」という入口では面白くないと感じていて、今回の場合は「こども向けって何だろう」というゼロより前からスタートしました。たとえば「0歳からできる」といったボードゲームを出演者とやってみたり。こどものときどんなことを楽しいと思っていたのか、思い出されていくんですね。最近こども向け雑誌で焼き肉を裏返したり、自販機でアイスを買ったりできるふろくが話題になりましたが、それについてもなんで面白いのか、ウケているのかをみんなで考えました。こどもがいないと知らないからとにかく想像するわけですが、そうするとこどもは普段肉を裏返させてもらえない、自分では自販機でアイスを買えない……とわかってくる。こどもがいないとこども向け作品が作れないかというと、そうではないと思っています。子育てに関することはわからないとしても、知らないからこそ「こどもって何だろう」とひたすら考え続けました。

『めにみえない みみにしたい』関連企画ワークショップ公演『madogiwa』の制作風景(春秋座にて)

世の中の「こども向け」とされる作品には、子育てを知りすぎているあまり大人が見るとむずがゆくなってしまうようなものもあると感じます。こどもだけを向いて作っているから大人が楽しめなかったり、「やっぱりこども向けじゃん」と思わせてしまわないように、「これは作品だ」と感じてもらえるようなものにしたかった。彩の国さいたま芸術劇場の公演のときには、一度お子さんと一緒に観に来た方が「今度はしっかり見たい」と大人だけでもう一回きてくださったこともあって嬉しかったです。

―藤田さんご自身がこどもの頃は、どんな演劇体験があったのでしょうか。

初めて観にいったのは『オペラ座の怪人』でした。当時は物語をよくわかっていなかったけど、それでもめちゃめちゃかっこいいということはわかった。すごく興奮したのを覚えています。何にと言われると言葉にできないんですが、少なくとも家にいてこんなに興奮できることってなかったんですよね。家にいながら買い物できる時代に、店まで足を運んで、手に取って買うという体験をすると充実度が全然違う。演劇のチケット代って高いんですけど、その劇場にあわせて一から作り上げるという手間を考えると妥当な料金だと最近は思っています。演劇がなぜいまだに残っているかと言うと、この「そこでしかみられない」ということにあると思っていて、それがこどもにも漠然とわかるんでしょうね。

たとえば食事にしても、なぜ外食するかというとただ忙しいから外で食べるんじゃなくて、「あの店のあれが食べたい」というのがあるからだと思うんです。演劇も、それぐらいのレベルで面白くならないといけないと思っています。

2018年5月の『めにみえない みみにしたい』彩の国さいたま芸術劇場公演より。撮影:宮川舞子

世界って辛い、だけじゃない

今回、「こどもを産む母親の気持ち」をすごく考えました。お母さんが子を森に送り出すという場面がありますが、自分でも母親が「何かしら期待してくれたんだな」「産むという決断をしてくれたんだな」ということを考えるようになりました。親の世代に気持ちを重ねてもらえるところだと思います。
「この世界に生まれてきてよかった」と思えるものを作りたいね、と今回も音楽を担当している原田郁子さんと話していたんです。「世界ってこんなにも辛い」ということだけをやっていられなくなったというか。

よく言われていることではありますが、こどもは作品にとって鏡なんです。なにもかも見えてしまうから、毎回すごく発見がある。なあなあで観ないから見せるほうも疲れるんですけど、わけがわからないなりに楽しもうとしてくれてるのがわかります。それにこどもって出てくる言葉がむき出しですよね。全部本気というか。ただ気持ちを代弁できる言葉をこどもは持っていないだけで、思っていることは大人と変わらないと思うんです。

―学生の世代が気軽に劇場へ足を運ぶには、何が必要だと思いますか。
演劇を観ることがかっこいい、粋なものになってほしいと思います。ヨーロッパではおしゃれして出かける場だったりして、そうやって娯楽として認められているのを感じるとやっぱり嬉しいんです。
でも一方で、ハードルは下げたりしないでいいというか、作品が面白ければお客さんは来てくれるとも思っていて。どうやって劇場に来てもらうかよりも、どうやったら面白くなるかを考えていたいです。

めにみえない みみにしたい

日時:7月27日(土)11:30/15:00(2回公演)

会場:京都芸術劇場春秋座

料金:一般 2000円/友の会 1800円/学生&ユース席 1500円/こども(高校生以下) 1000円

※推奨年齢4歳以上。
※2歳以上は要チケット。2歳未満の膝上鑑賞は無料(保護者1名につき、お子さま1名まで)。

 

作・演出:藤田貴大 

音楽:原田郁子 衣装:suzuki takayuki

出演:伊野香織、川崎ゆり子、成田亜佑美、長谷川洋子

宣伝美術:名久井直子 宣伝イラスト:ヒグチユウコ
宣伝写真:井上佐由紀

http://k-pac.org/?p=7051

『めにみえない みみにしたい』関連公演

マームとジプシー 藤田貴大 ワークショップ公演

madogiwa

日時:7月31日(水)19:00

会場:京都芸術劇場春秋座

料金:一般 1,000円/劇場友の会 800円/学生&ユース席 500円

※チケット前売開始 7月3日(水)10:00~

※未就学児童のご入場はご遠慮下さい

 

構成・演出:藤田貴大
出演:石川善朗、石田和子、石出茜音、上田てる葉、梅宮さおり、太田紀子、木之瀬雅貴、楠海緒、桒原弘子、小原藍、駒井彩乃、子安伸子、斉藤知子、佐藤拓道、島田幹大、高木啓斗、高谷清代美、高田晴菜、高見潤子、高柳寛子、田畔多實子、徳永愛子、仲野絵真、仲野静真、松坂かく、森川幸子、安田成穂、山田マリ、山村みどり ほか
/川崎ゆり子
スタッフ:舞台芸術学科学生
協力:2016年度「A-S」参加者有志

http://k-pac.org/?p=7140

 

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