尾上右近 自主公演「第五回 研の會」―初の関西公演が「春秋座」で開催!

SPECIAL TOPIC2019.06.18

京都歴史舞台

尾上右近 自主公演「第五回 研の會」―初の関西公演が「春秋座」で開催!

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  • 二宮 慈

歌舞伎役者・尾上右近さんの自主公演「第五回 研の會」が、8月28日(水)・29日(木)に京都芸術劇場 春秋座で開催されます。

今回が初の試みという東京・京都の二都市開催の同公演で、上演されるのは『弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)』と『酔奴(よいやっこ)』。どちらの演目も、尾上右近のルーツを辿る上でとても重要なのだそう。

公演の見どころや意気込みなどを尾上右近さんにお聞きしました。私たち学生とも世代が近い右近さんから生まれる言葉は、とても心に響きました。

( 文:二宮 慈 )


———— 今回の公演に向けた意気込みをお聞かせください。

『弁天娘女男白浪』は、尾上菊五郎家が代々大切にしているお家芸です。僕の曾祖父が六代目尾上菊五郎ということもあり、いつか挑戦したいと願っていた演目のひとつです。5回目という一つの区切りになる本公演で、初挑戦させていただくことになりました。

そして『酔奴』は、猿翁十種の一つに数えられる澤瀉屋のお家芸で義太夫の踊りです。京都で挑戦できることになり、とても光栄です。

また今回の自主公演は、僕のかねてからの願いであった東京・京都の二都市での開催です。『弁天娘女男白浪』は江戸の香りが凝縮された演目で、『酔奴』は文楽の要素もあり上方の雰囲気も楽しんでもらえる演目。お越しいただく皆さまには、それぞれの土地でそれぞれの香りを感じてもらえたらなと思っています。


———— 関西での自主公演は今回が初めてだと伺いました。

そうですね、関西は僕にとって特別な街なんです。京都の南座を始め、関西の劇場で貴重な役を頂くことが何度もあって、たくさんの経験を積んだ思い入れの強い場所です。初めて大きな役を務めたのも大阪の松竹座でした。

僕が江戸の人間であるにも関わらず、恵まれた経験を積ませてもらっている関西にはご縁を感じるし、とても感謝しています。今回はそういう繋がりを感じられる公演にもしたいですね。


———— 右近さんにとって、「自主公演」とはどのような意味を持つのでしょうか?

「自主公演」っていうのは、「いつか」「そのうち」やってみたいなと思うものの一つじゃないかと考えています。でも、「いつか」「そのうち」って思っているうちは実現しないですよね。絶対に実現させるという強い気持ちを持つことが、僕の自主公演開催に繋がっていると思います。そういう気持ちを持ち続けることで、今回5回目となる節目の公演を迎えることができたんじゃないかな。毎年開催できていることは本当に奇跡的です。自主公演の開催はもちろん大きな挑戦なんですが、自分自身の自信や誇りに繋がっている経験だと実感しているし、関わっていただく方にとても感謝しています。

 

———— 今回、なぜ京都公演の場所に「春秋座」を選ばれたのでしょうか?

関西の中でも特別なご縁のある劇場だからですね。「春秋座」は役者である猿翁さんが監修された劇場ですし、しかも大学という他にはない特殊な空間にあるのも僕にとっては刺激があります。

僕は自主公演を企画する時、温かみのあるハンドメイドの空間を作ることを大切にしているんです。お客様に、舞台というモノづくりの手作り感を届けたい。それが芸術大学の中にある劇場「春秋座」の持つ雰囲気とすごくマッチするんですよね。芸術を学ぶ若い学生さんがたくさんいて、未来に向かっていく熱量のある空間だなって感じます。

それに、僕が初めて古典演目で宙乗りをさせてもらったのもこの春秋座なんですよね。ここは新らしい経験や試みを肯定的に受け入れてくれる感じがするんです。劇場に背中を押してもらうという感じかな。さまざまなご縁が今回の関西初公演に結びついたわけだから、とても楽しみだなと思います。

———— 今回の関西公演で、歌舞伎の文化がさらに広がりを見せると思います。伝統芸能の継承という点で意識されていることはありますか?

特別に意識することないけど、結果的にそれが伝統芸能の継承に結びついてくれたら嬉しいなと思いますね。もちろん自主公演は自分の成長のためにやっていることなんだけど、やはり歌舞伎という大きな伝統の世界に身を置いている自分としては、歌舞伎に対して恩返しができる立場になっていきたいっていう思いを持っています。今後はそういう役割も担っていきたいなって思いますね。

 

———— 歌舞伎への「恩返し」とは具体的にどのようなことでしょうか?

そんな大きなことじゃなくて「歌舞伎って面白いな」と思ってくれる人が、一人でも二人でも増えたらいいなっていう気持ちです。例えば、僕の公演を観て歌舞伎を好きになってくれる。次は僕が出ていなくても、また歌舞伎を観に足を運んでくれる。こんな風に、僕の自主公演がみなさんの歌舞伎への興味に繋がればいいなと思うんです。

僕は常に「自分の中の歌舞伎ではなく、歌舞伎の中の自分でありたい」って思っています。それを貫くには、全力で自分自身を試していかないとダメなんですよね。根本にある「自分のためだ」という意識を貫かないと、何も守れないし、何も伝えられないと思う。


———— 自主公演を開催する中で、大切にされていることはありますか?

「お客様のため」ということですね。公演は、観に来て下さる皆さんがいてこそ成り立ちます。根本的なことなんだけれど、忘れがちなことだったかな。劇場に空席があると悔しいし満席にしたいと思う。自主公演を始めて、観に来ていただく難しさとありがたさを改めて実感しました。だからお客様を大切にしたいし、その期待や気持ちに背かないようにしないといけないと思っていますね。そして自主公演を支えてくださる劇場の方や関係者の方にもとても感謝しています。単に感謝をしているだけではなく、僕は役者だから、感謝を込めて演じることで皆さんに熱量やエネルギーを届けないといけないなと思いますね。

———— 私たち学生と同世代の「20歳の頃」の右近さんについて教えて下さい。

焦っていました。まだ自主公演も実現できずにいた時期ですね。やりたいんだけど、まだ自分ではできないんじゃないか、力が足りないんじゃないかと思ってモヤモヤとしていました。些細なことで失敗をしてしまう自分が、何か新しいことに挑戦して成功させるなんてことはとても想像もつかなかったという感じ。もちろん周りには応援してくれる人もいたけど、一方で、まだ無理だろって言う人もいましたね。自分自身が見定まっていなくて、わからないことが多かった。前には進みたくても、足場はいまひとつ固まっていないっていう感じかな……ひたすら気持ちが先走っていましたね。


———— その時代を、どのように乗り越えてこられたのでしょうか?

良い大人の方がたくさん僕の周りにいて、たくさんの助言をいただきました。周りの皆さんは僕にとっての大きな財産です。

自分一人だけで、自分のオリジナリティを見つけられる人って、あまりいないんじゃないかな。きっと多くの人は、周りの方から「あなたは、こういう人だよね」って教えてもらって、それがパズルのピースのように自分の一部になる。ピースが集まっていくと徐々に自分自身の「形」が構成されて、自分というものが分かっていくんじゃないのかなと思うんです。だから人との出会いは大切ですよね。

20歳の頃は、僕みたいにいろんな方向に悩んで揺れ動いてもいい時期なんだと思います。何よりも、後悔しない方が大切。やって後悔より、やらない後悔の方が後々引きずっちゃうでしょ?他の人の迷惑にならない程度に「思うがままやる!」っていうのがいいんだと思います。今でも本来の自分の持つ天真爛漫な部分を抑えきれない時があって、子どもみたいに燃えたぎっている時があるんですよね(笑)。出る杭は打たれるっていう言葉があるけど、打たれたらまた出ればいい。そのうちに、打つのをやめてくれるかもしれない。1回や2回で諦めるのはやらないのと同じだと思うんです。

 

———— 20歳の頃から、1番変わったなと感じるところはどんなところですか?

物事の捉え方ですね。例えば、雨が降っている時に「なんで雨降ってんだよ」って腹を立てたら、どんどんマイナスな気持ちになっていく。一つも良いことは無いですよね?ものづくりをする人や、人をプロデュースしていく立場の人は、そうじゃいけないと思うようになりました。僕たちは、他の人をハッピーにしたり、豊かな気持ちにさせるために存在しているわけです。それは芸能だけじゃなくて、芸術の分野もそうですよね。

今の僕は、雨が降っている時は「雨の時は、歩くより走った方が意外と濡れるんだ。知らなかったな、勉強になった」ってプラスになるように考えます。物事の捉え方によって、世界の見え方がガラッと変わるんですよね。そんな風に考えるようになってから、自然と僕の周りには良い人が集まってくれるようになりましたね。

一つの考え方に固執せず、自分の中に余白を持つ。そうすると新しいものに出会って、新たな可能性を感じることができるんじゃないかな。あまり真剣になりすぎず、ちょっとしたゲーム感覚を持ち続けるのもいいかもしれないなって思うんです。

こんな風に……と、雨の降っている様子を再現してくれる右近さん

———— 自分だけの「オリジナル」を見つけるのは難しいなと思います。

誰もやっていないことを見つけるんじゃなくて、今できることを組み合わせて、新しいことを生み出したらいいんじゃないかなって思います。

例えば今回の演目がまさにそうで『弁天娘女男白浪』と『酔奴』のそれぞれ演目を演じる方は当然いらっしゃいますよね。でも同時に演じるのは僕だけです。僕のルーツや希望から演目選びをしているので、今回の公演は僕のオリジナルですね。

いろんなパズルのピースを組み合わせで新しいものが生まれて、それが「自分の形」や「自分にしかできない何か」になると思うんです。全て取捨選択なんですよね。もちろん、ゼロから新しいものを生み出すことができる人もいるんだけど、僕には出来ないから今あるものを組み合わせてオリジナルを作ります。

僕は芸能と芸術って本当に似ているなって思うんです。もちろん公演や作品で自分のオリジナルを出すことはとても大切。でもそれ以上に、それを観た人にプラスのエネルギーが届いて「今日一日良かったな」って思ってもらうこと、そしてそのことを自分自身が嬉しいと思えるかどうかが大切なんだと思うんですよね。これからも、観てくださる皆さんが日常を忘れてしまうような瞬間を届けていきたいですね。

「普通のポーズよりも面白いでしょ?」とサービス精神旺盛で写真撮影に応えてくれる

自主公演「第五回 研の會」は、京都の京都芸術劇場「春秋座」で8月28日(水)・29日(木)、東京の国立劇場 小劇場にて9月1日(日)・2日(月)に開催。次代の歌舞伎界を担う尾上右近さんの熱い思いが溢れる公演をぜひご覧ください。

◎京都芸術劇場「春秋座」チケットのお問合せ:http://k-pac.org/?p=7026

尾上右近 自主公演「第五回 研の會」

歌舞伎俳優 尾上右近が主宰する5回目の自主公演「研の會」が開催される。今年は初めて京都で上演。未経験の名作にあえて挑戦するのも見どころ。

日時 8月28日(水)17時、29日(木)12時/16時30分
会場 京都芸術劇場「春秋座」(京都市左京区北白川瓜生山2-116 京都造形芸術大学瓜生山キャンパス内 )
料金 全席指定 11,000円(税込)
チケット 予約開始 6月17日(月)午前10時~
お問合せ 京都芸術劇場チケットセンター TEL 075-791-8240(平日10:00~17:00)

京都芸術劇場「春秋座」HP:http://k-pac.org/?p=7026

 

  • 二宮 慈Chika Ninomiya

    1997年愛媛県生まれ。京都造形芸術大学 こども芸術学科 2016年度入学。幼児教育のためのアートについて学ぶ。元気の源は、真っ赤なトマト。

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