笑いが織りなす人間賛歌―野村萬斎インタビュー

SPECIAL TOPIC2019.05.18

歴史舞台

笑いが織りなす人間賛歌―野村萬斎インタビュー

edited by
  • 添田 陸
  • 高橋 保世

京都造形芸術大学で2002年より続く講座「日本芸能史」。毎年テーマを設定し、第一線で活躍する実演家・研究者による講義を行っています。2018年度後期には 「能と狂言の世界」をテーマに掲げ、講師の一人として狂言師の野村萬斎さんをお迎えしました。萬斎さんが語る狂言の魅力には、これまで狂言がいかにして人々に親しまれ、受け継がれてきたかがつまっています。

―幼い頃から舞台に立ち、東京藝術大学在学中も狂言師として活躍されていた萬斎さんにとって、大学はどういった場所でしたか。

 一般の大学よりもなにか共通意識のある人が多かったので、それはそれで面白かったなと感じていました。音楽にしても美術にしても、表現する、パフォーマンスするという点ではみんな同じですから。

―狂言の魅力を伝える上で、特に若い世代に対して意識されていることはありますか。

 身近なものであると知ってもらうことですね。狂言ではほとんどの演目が「このあたりのものでござる」というフレーズで始まります。流派によって少し言い回しが違うこともありますが、これは狂言の精神を語るうえでとても重要な言葉なんです。授業でご覧頂いた『髭櫓(ひげやぐら)』もそうですが、どんな偉い人であってもこのあたりのものでしょ、という目線があります。時代や文化を超えて、ものごとをフラットに見ている。
 歴史的に有名な人物がヒーローやヒロインとして出てくる能と違って、狂言はそれをあえて否定して全部平板化するんです。大名であってもこのあたりのものの一人として見せる。『業平餅』という演目では、在原業平も食欲に勝てない人間として描か
れます。お餅を前にすると、どんなに色男であってもどうしても食べたいという欲求には勝てない。人間何はともあれ飯を食わなければということを描いているわけです。特殊なヒーローの特殊な話というのも人間にとって必要かもしれないけれど、狂言はそういう話では扱われない、身分としては一番低い雑兵のような人たちを主役にしながらその目線でものを描く。そこに人間の本質に迫ろうという精神が宿っていると思います。上の者を下げ、下の者を上げる精神というのが笑いの基盤になっていて、この笑い飛ばすところに人間肯定の精神がある。そこに「生きている限り人間ってそういうもの」という生への賛歌があるように感じますね。

「那須与一語(なすのよいちのかたり)」の実演場面より

―幼い頃から狂言を続けてこられた中で、始めた当初はどのように向き合っておられたのでしょうか。

 小さい頃は、好き嫌い以前にやらされているという感覚がありましたね。初舞台は『靭猿(うつぼざる)』という演目で猿回しの猿の役でしたが、まさしく猿のように芸を仕込まれて、うまくできたらご褒美がもらえるという感覚で。小学校低学年にもなると自我が芽生えてきて、「なぜやらなければならないのか」と疑問を覚えたこともあります。稽古も厳しくて嫌だなと思う一方で、お客様の反応があったり喜んでもらえたりということには非常に喜びを感じていました。

 バンド活動をしていた頃にはロッカーに憧れたこともありましたが、自分が幼少から過ごしてきた環境、身につけてきた技術が特別なものと理解してからは、表現者として生かすべきだと思うようになりました。それを極めることで「表現の世界で自分を表現する」という道を選んだのだと思います。

―長男の裕基さんはどのように狂言を学ばれたのでしょうか。
 やっぱり小学生くらいの頃は「なんでやらなきゃいけないの」と言っていましたね。「僕もわからない」と答えるのですが、これは「なんで生きているの」と聞くのと同じことでもあります。なぜ生きているかといえば
毎日生きていることを証明するためということ。おいしいものを食べたり面白い舞台を見たりして「今日も生きていてよかった」と思えることで、幸せと思えるのだと思います。我々も、「狂言をやっていてよかった」と思える瞬間がないとやっていけない。お客様の喜ぶ姿をみてはじめて、自分が狂言師として確かに居たということが証明される。我々の存在意義は、お客様がいてこそ感じられるのだと思います。

京都造形芸術大学 2019年度 
公開連続講座 日本芸能史【女性と芸能】

期間 前期(全14回)4月15日~7月15日/後期(全14回)9月23日~12月23日
時間 毎週月曜日 午後4時30分~5時50分
会場 京都芸術劇場 春秋座[本学 人間館NB棟1階]
受講料 各期1万5千円
講師(一例) 藤間勘十郎、野村万作、内館牧子、神田松之丞ほか
申込み 窓口にてお申込み・お支払い頂くか、お電話にてお問い合わせください。   京都芸術劇場チケットセンター(春秋座入口右手)電話:075-791-8240

http://k-pac.org/?page_id=6542

 

 

  • 添田 陸Riku Soeda

    1998年茨城県生まれ。京都造形芸術大学 文芸表現学科2017年度入学。文章や構成について学んでいる。文章によるビジュアルの変化を追求している。と同時に美味しい珈琲も追及している。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都造形芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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