SPECIAL TOPIC2018.10.12

京都

「困ったら、学校へ帰ってこい!」と言われた私たちが“ホーム”に帰る意味―瓜生山学園ホームカミングデー2018

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  • 京都芸術大学 広報課

「困ったら、学校へ帰ってこい!」
創立者、故・徳山詳直氏が卒業生に呼び掛ける映像で幕を開けた瓜生山学園ホームカミングデー2018。2016年からスタートし、3回目にあたる今回は9月16日に開催されました。
 はじめに春秋座にて式典が行われました。観客席の卒業生は200人ほど。会場は厳粛というより和やかな雰囲気で、たまに小さな子どもの声も聞こえてきます。学内に響く子どもの声や創立者の力強いことばで一気に学生のころの気持ちがよみがえってきました。

 式典ではまず尾池和夫学長が挨拶を行い「母校は母港です」と語りました。社会に船出した卒業生が、進路に迷ったときや疲れたとき立ち寄れる安息の地。それが私たちの母校である京都造形芸術大学という話でした。卒業生にとって心強いことばです。周囲の先輩たちも実感があるようで、しきりに頷いていました。
 続いて舞台に立ったのは、瓜生山同窓会の冨家裕久会長です。「人とのつながりをひとつでもつくってほしい」という話がありました。瓜生山学園ホームカミングデーは学生時代を懐かしむだけではなく、卒業生同士のつながりをつくることにも主眼が置かれているそうです。後で行われる懇親会が楽しみです。
「みなさん、おかえりなさい」と、徳山豊理事長は笑顔で挨拶をはじめ、卒業生が興味を持ち続けられる学校づくりをしていくと力強く語っていました。

 

 本学が設立した2つの賞の表彰式も執り行われました。

 松陰芸術賞の受賞者は第9回が佐藤真美さん(美術工芸学科 洋画コース 2012年卒業)、第10回が笠井遥さん(大学院 ペインティング領域 2015年修了)です。
 お二人は感謝の喜びとともに、周囲の人に支えられ作品制作を続けてこられたという感謝の気持ちを語っていたことが印象的でした。

 瓜生山学園賞は、本学で学び広く社会に貢献している人に送られる賞で、昨年に第1回目の表彰が行われました。第2回の受賞者は宮永愛子さん(美術科 彫刻コース 1999年卒業)です。
 子どもも大人も学ぶにぎやかな雰囲気は、宮永さんが学んでいた20年前にはなかったそうで「(発展を続ける本学園に)また帰ってくることができてうれしいです。自分も関わらせてもらっていることをありがたく感じています」と喜びを語っていました。

 

 

 式典の後は懇親会が開かれました。「望天館を見に行こう 今年しか見れないあれがない景色」というタイトルがついています。“あれ”とは何なのでしょうか。
 会場はギャルリオーブの階段を上った先にある顕心館です。そこに向かう途中、卒業生から驚きの声が上がりました。レンガ造りの望天館がすっかりなくなっていたからです。

松麟館から見た望天館
今では人間館まで見渡せるほど景色が一変

 望天館は本学園の歴史を象徴する建物でした。京都造形芸術大学の前身である京都芸術短期大学が開学した1977年当初からあり、第1回目の入学式はここの1階のホールで開かれたそうです。そして短期大学が4年制大学になり、新たな学科やコース、通信教育課程、修士・博士課程が開設されるなど、本学園は発展を続けてきました。望天館はその原点から歴史を刻み、2017年に役目を終えました。現在の卒業生は誰もが望天館の姿を見たことがあるか、中で学んだことがあるはずです。

 来年には新たな校舎が建つため、この場所に何もない景色は今年しか見ることができません。懇親会の会場に向かいながら、卒業生はその景色を目の当たりにしました。早速、望天館の思い出を話している人もいて、建物としての役目を終えたあとも世代を越えた共通の話題を提供してくれていました。

 「乾杯!」の声で懇親会がはじまりました。はじめはみんな同級生や顔見知りに再会し、話が弾んでいる様子。私も同じ文芸表現学科の卒業生を見つけ、近況を報告し合いました。
 会場は同じフロアに部屋が8つあり、それぞれの部屋には年代が違う本学園の航空写真が飾られています。はじめは緑の山しかないところに望天館が建ち、次第に建物が増えていく様子を奥の部屋にすすむにしたがって目にすることができます。開学当初を知る人が、「この学校ができたときは校舎は2つしかなかった。今はすごく立派になった」と写真を眺めながら懐かしそうに話していました。思い出を語り合っているうちに自然と周りの人たちとも打ち解けます。

 宮川典子さん(日本画 博士課程2004年修了)は「学生のころの無邪気な気持ちを思い出します」と学生時代を懐かしんでいました。現在は日本画制作のかたわら国立大学の美術科で非常勤講師をしているそうです。懇親会では学生時代の恩師から人にわかりやすく美術を伝えるコツ″などのアドバイスを聞くことができ「来てよかった」と笑顔で語っていました。

 黒田香さん(通信 芸術教養学科 2016年卒業:短大 洋画 2000年卒業)も、「恩師からエネルギーをもらいました」とうれしそうに話していました。京都芸術短期大学で洋画を学び、現在も展覧会を開いている黒田さんからは作品づくりへの強い情熱を感じました。どんな絵を描いているのか尋ねると、スマホの画面でカエルをモチーフにした素敵な絵を見せてくれました。写真などで作品を見せ合って自己紹介ができる懇親会は芸大ならではです。

 菱田太郎さん(彫刻 1996年卒業)は、奥さんと二人の小さな息子さんも一緒でした。瓜生山同窓会の役員でもあり「大学に来るたびにどんどん新しい校舎ができています。懐かしい風景は変わっていきますが、それだけ発展しているということですね」と、本学園の変化を前向きにとらえていました。
 奥さんの奈世さん(染織 2002年卒業)は、今回の催しについて「子どもも一緒に来られるのがいいですね」と話していました。こども芸術大学や通信教育部もあり、どんな世代でも受け入れている本学のホームカミングデーは、子育て中の人でも気兼ねなく参加できるあたたかい雰囲気がありました。

 「卒業生のいるお店」と題して集まった、飲食物やグッズの販売コーナーも盛況でした。自家製のパンとワインを販売する「ふくのたね製パン」は、仁城亮彦さん(デザイン科 情報デザインコース 1995年卒業:通信 芸術学科 芸術コース 2009年卒業)と恵さん(短大 造形芸術学科 映像専攻科 1997年卒業)のご夫婦です。


 

 亮彦さんは本学を「もう一つのふるさと」と呼んでいました。広島出身の亮彦さんは、今は岡山を拠点に活動しています。今回のような機会にパンの販売にやってくる本学は、実家のような心地よさがあるとのこと。私も広島で育ち、本学がふるさとのようだという感覚もよくわかります。仁城さんご夫妻の焼いた天然酵母のパンを食べてみたかったですが、私が行ったときにはすでに完売していました。

 春秋座の前では卒業生がオリジナルのグッズを販売していました。浦川篤子さん(空間演出デザイン学科 空間デザインコース 2010年卒業)が売っていたのは「aco wrap」という、繰り返し洗って使える環境に優しい食品用のラップです。岐阜県産のみつろうをベースにしたオイルをオーガニックコットンにしみ込ませてあり、包んだものにきれいに密着します。環境先進国と言われるオーストラリアでの経験をもとに生み出したそうです。
 今日の感想を聞くと「世代が違う卒業生の方も、たくさん買ってくださいました。同窓生を応援する意味もあったと思います。みなさんに温かいことばをかけていただいて、何だかほっとしました。この大学にはじめて来たとき神殿のような入口を見てちょっとしり込みしましたが、中に入ってみるとみんなやさしいんですよね。そういう学生時代のことを思い出しました」と明るく答えてくれました。

春秋座ホワイエには5店舗が出店
色やサイズもさまざまな「aco wrap」
木製の家具・小物がそろう「ピネル工房」
ボードゲームが人気の「TANSAN」

 懇親会が一区切りすると、春秋座で『ホームカミングデー特別公演 和太鼓 悳炎 with 卒業生』が開催されました。これは本学園の和太鼓教育センターの髙木克美センター長が率いる和太鼓グループ悳炎(しえん)に、卒業生が演奏する結悳(ゆうしん)と貫悳(かんし)のメンバーも加わった特別公演です。体全体に響く和太鼓の音色を聞き、強いパフォーマンスを目にすると、体の奥底から力が湧いてくるように感じました。9曲を熱演し、アンコールにも応えてくれました。
「Yume~挑む想い~」という曲の前には、髙木センター長がマイクを持ち「本当に夢を実現しようと思うと、そこには測り知れない覚悟とやる気、そして自分自身に挑む強い想いが大切」と曲に込めた想いを語りました。私を含め春秋座で同じ時間を共有し演奏を聞いた卒業生たちは大いにやる気を鼓舞されたはずです。

 

 今回の瓜生山学園ホームカミングデー2018では、多くの卒業生と新しいつながりをつくることができました。ここに掲載した方以外にも、たくさん話を聞かせてもらっています。共通して感じたのは、深く共感できたということです。同じ教室で学んだ卒業生はもちろんですが、卒業した年代も学部も違う方とでもすぐに打ち解けられました。他の集まりだとこうはいかないでしょう。
 私たち瓜生山学園の卒業生には、作品と呼べるものつくってきた経験があるはずです。どんな分野でも想いを込めた作品をつくるということは、自らと対話し形がないものに形を与えるプロセスが必要不可欠です。私はライターとして文章を書いています。文章もほかの卒業生がつくりあげたパンや絵画やイラストも、それを生み出すまでに経た孤独な時間の苦しさや喜びが、見えないところで通じ合っているように感じました。
「ここにくれば通じ合える人がいる」と思える場所こそが、自分の“ホーム”なのかもしれません。たとえ見慣れた校舎がなくなり景色が変わっても、またこの大学を訪れたときに「帰ってきた」という実感が湧いてくると思います。景色はそのひとつの要素にすぎません。卒業生や先生たちと話をすることのほうがはるかに重要です。それによって作品をつくり続けるエネルギーを補充することができるのです。私たちが“ホーム”に帰ってくることの意味がそこにあります。
「困ったら、学校へ帰ってこい!」という創立者のことばには続きがあると思います。作品をつくってきた卒業生が直面する困りごととは何なのか。そして帰ってきて何をすればその困りごとが解消するのか。もうおわかりですね。次のホームカミングデーでお会いしましょう。

 

文:大迫知信(文芸表現学科講師/同学科2014年度卒業)

写真:塩見嘉宏(京都芸術デザイン専門学校2016年度卒業)、高橋保世(美術工芸学科2017年度卒業)

 

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