COLUMN2018.03.27

京都文芸教育

ものの芽にあふれる瓜生山学園の春 -瓜生山歳時記 #19

edited by
  • 尾池 和夫
  • 高橋 保世

 早春に草の芽が地中から萌え出ることを表す仲春の季語が「ものの芽」で、あらゆる草の芽のことを差し、特定の草木の芽ではない。春の訪れを実感することのできる季語である。名草の芽とも草の芽とも、あるいは物芽ともいう。
 「木の芽」、「草の芽」は別の季語、名の木の芽は、柳の芽、桑の芽というように具体的な木の名を冠した季語がある。また、名草の芽は、菖蒲の芽、朝顔の芽など、草の名を冠した季語がある。具体的な冠のついた芽を詠むと、その具体的な物が伝わるが、ものの芽というと、もののけ姫が脳裏に浮かんだりして、春の実感を感じ取れる句に仕立てるのが難しい。
 植物の芽でない芽を抽象して物芽に例えることもある。春は植物に限らず、森羅万象に芽吹きの気配を感じることは、四季の変化の際だつ日本列島に住んでいれば、自ずから沸き上がってくる感慨かもしれない。

地に出れば衆目重き物芽なる 中原道夫

 卒業制作展で800名を超える卒業生の力作を拝見したが、さらに今年はその中から上野の森に運ばれた作品が東京都美術館での「シュレディンガーの猫」特別展を飾った。これには2000人を超える方々が来場して大きな反響があった。その会場では、まず「A.O.M (art of muscle)」(豊岡拓三)が来場者を出迎え、片岡真実教授のキュレーションによって24の作品が会場に展開され、出口を飾ったのは「暮らしの手がかり」Hattori Studio(伊山大吉・梅本華乃・酒井文子・鈴木亮佑・仲勇気・福留明莉・吉椿千紘)であった。
 これらの卒業生がこれから社会に出て、さまざまな分野で活躍し、あるいは大学院へ進学してさらに芸術の奥を深める制作と研究に打ち込むことになる。
 この瓜生山歳時記に、多くのすばらしい写真を提供してくれた高橋保世さんも晴れて卒業式を迎え、京都の地で写真家としてさらなる活躍をする。瓜生山学園を出たすべての人たちが、またいつの日か学園を訪れてくれることを願って、瓜生山学園をさらに優れた学びの場に育て上げて行きたいと、私は思っている。

蟹行やものの芽を踏む道なれば   和夫

「A.O.M (art of muscle)」(豊岡拓三)[撮影:表恒匡]
「暮らしの手がかり」Hattori Studio(伊山大吉・梅本華乃・酒井文子・鈴木亮佑・仲勇気・福留明莉・吉椿千紘)[撮影:表恒匡]

[文:尾池和夫・写真:高橋保世(メインカット:3月16日 瓜生山にて撮影)]

 

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  • 尾池 和夫Kazuo Oike

    1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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