REPORT2023.11.14

アート

秋季特別展 「infinite journey 果てしのない旅」

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  • 京都芸術大学 広報課

このたび芸術館では、「infinite journey 果てしのない旅」と題して、本学が所蔵している学園美術品、現代美術家(本学教員)、芸術館所蔵作品のダイアローグとしての展覧会を開催します。本展は学園美術品活用委員会が企画し、学園美術品を紹介する展覧会の第一弾となります。

アート作品をとおして、過去と現在をつなぎ、対話をしながら新たな未来へとつなげていく、そうした未来永劫へと続く、めくるめく「創造の旅」をイメージして企画しました。私たち人類が持つさまざまな記憶や物語を喚び起こし、鑑賞者と作品、あるいは作品と作品がつながり、次の次元へと移動していく—そのような力をもった作品を展示しました。作品解説の執筆や広報活動、関連イヴェントには、インターンや学生たちも参加しています。

本年度より、芸術館では、将来文化芸術活動を支える職を志望し、芸術館の活動と学芸業務に関心を持つ学生を対象にインターンシップを実施しています。今回は、インターンの学生4名が、本展覧会の魅力を伝える記事をお届けします。

河野愛≪<  I  >boat≫(インスタレーション)/2021年/作家蔵/Photo:堀井ヒロツグ
津上みゆき≪View≫/2000年/Photo:田村和隆/Courtesy of the artist and ANOMALY

 

インタビュー①

キュレーター・本橋弥生先生(芸術教養センター)へのインタビュー

(取材・文:情報デザイン学科 遠藤史都・永松紫杏)

ー今回の展示である「infinite journey 果てしのない旅」のコンセプトを教えてください

本橋:まず、今年から学園美術品活用委員会が発足しました。これは、学園が所蔵する卒業生やアーティストの作品の管理と活用について検討する委員会です。実は、今までこうした作品を一括で管理・活用するということがなされていなかったということなのです。なので、これを機に学園内の作品を現役美術家アーティスト、そして、芸術館の所蔵品と一緒に展示し繋いでいくことができないかなと考えました。異なるジャンルの作品なので、作品、作家、関わる全ての要素の「対話の場」となるような展覧会にしたいと思い、企画しました。人や作品が、時間を超えてつながっていくイメージです。

また、ASP学科の学生に作品解説や作家インタビューをしてもらったり関連イベントも企画してもらいました。現役の学生を含めさまざまな「対話」が生まれると良いなと思っています。

ー展示を企画する上で、苦労したことはありますか?

本橋:そうですね、「限られた時間」「限られたスペース」「限られた予算」で実行せざるをえないというのは、どんな展覧会にもつきまとうハードルだと思います。芸術館という、それほど大きくはない空間の中で展示を作りあげていく中で、準備をしながら、思いもしなかった新たな対話が生まれてきたことは、何よりもの驚きであり、とても楽しいことでした。

河野愛≪100の母子と巡ることもの≫(100組の母と乳児に真珠と撮影指示書を贈るプロジェクト)/2022年~/Photo:増田好郎
神谷徹≪impro 03≫April 2023 @ SCAI The Bathhouse/2023年/Photo:表恒匡

ー見どころポイントはなんですか?

本橋:「つながり」「広がり」を感じてほしいですね。展示作品の中には普段から学園の施設の中に飾ってあるものもあります。でも、作品って展示場所や周りの要素によっても見え方が変わってくるんですよね。今回の展示では、異なるジャンルの作品同士が作用し合いながら同じ空間に存在しています。なので、鑑賞しながら作品を見て感じると同時に、「この作品は何と対話しているんだろう」と想像を膨らませながら鑑賞してほしいですね。この学園にゆかりのある人たちの作品がつながって、そこから更に広がったからこそできた対話だと思います。

ーなぜ展示作品に縄文土器を入れたのでしょうか?

本橋:「果てしのない旅」は季節が巡り時間が循環しているように、人類も想像力や創造力を膨らませ、次の世代に脈々と継承しながらアートを育んできたことをイメージした展覧会です。この展覧会でその全貌を示すことはもちろんできませんが、今回の展示では普遍的で、とても長いスパンの物語や記憶を想起させるような作品を展示しています。縄文土器のインスタレーションは、河野愛先生の真珠をテーマにした作品との対話から生み出された作品です。縄文時代の遺跡からも真珠は発見されていますが、現在のように人工的な光がなかった時代、当時の人の眼に、真珠はさぞかし眩く映ったのではないかという河野先生の想像がその背景にあります。真珠のような美しい球体状の土器を選んだのは、そのオマージュです。通常の縄文土器展では主役にならないような、豪快で派手な作品ではありませんが、密やかで凛とした美しさを秘めている作品です。さらに、縄文土偶のインスタレーションでは、神谷先生の陶の作品も加わっているところも見どころです。2000年の時を超えたダイアローグになっています。

写真:永松紫杏

 

インタビュー②
インストーラー・たま製作所・小西由悟さんへのインタビュー

作品を製作する作家や展覧会の企画・構成を行うキュレーターにではなく、展覧会という空間を作るインストーラーにお会いするのは初めてでした。

そこで今回私達は今展覧会のインストーラーである小西由悟さんにインタビューを行いました。

(取材・文:歴史遺産学科 末満優名、三好思実)

―小西さんは今回、インストーラー、展覧会を組み立てる人として参加していらっしゃいます。組み立てる側から見て、今回の展覧会の魅力はどんなところにあると思いますか。

小西:そうですね。本学の収蔵作品と、現役で活躍していらっしゃる河野愛先生、神谷徹先生、津上みゆき氏の作品を混ぜた展示ということで。学生にとっては、実際活躍されている先生方の作品を見られるということ。加えて、縄文土器という歴史的価値があるものとが共存している。このような整った空間で、そのような作品が一緒になるっていうことは、珍しいキュレーションだと思います。「この大学ならでは」で、良いと思います。

―小西さんは舞台のセットも、建築も、そして展示の設営もなさってますよね。そして、それらの仕事を紹介するときには、「ジャンルを超える」という表現になりますよね。

小西:そうですね。

―でも、作ったものの間を人が通ったり、そこで何かをしたりとか。そういうのは、その三つ(舞台のセット、建築、展示)にどれも共通すると感じまして。「ジャンルを超える」という表現に引っ掛かかったんです。小西さん自身の中では、繋がっているものなんじゃないかなという印象を受けました。

小西:特にジャンルを超えようと思って、今まで制作活動してきたわけではないです。いただいたお仕事が、そういうジャンルを持っていました。広義の意味でいうと、僕は空間を作っています。展示空間、生活空間。そして舞台は儀礼空間です。建築は生活空間ですね。美術は展示空間。そのようにに名前があるけども、それぞれアクティビティがある場所です。僕にとって空間を作ることは同じです。それぞれでテーマなり、求められてることが違うので、使う引き出しも変わるっていう感じですね。

―なるほど。

小西:お客さんに教えてもらいながら、自分も勉強しながらという形で、アウトプットしてるっていう感じですね。

―普段のインプットも、劇を見に行くときもあれば、展示を見に行くときもあるし、建築を見に行くときもあるし。インプット自体もその三方向に広がっていくということですよね。

小西:そうです。個人で作品を作る時、僕は「人と自然」をテーマにしています。だから、どうしても、「人と自然」という関係を見つめる視点は、他の建築家より、舞台美術家よりも強い、というのは、特徴としてはあるかもしれません。 ただ、「人と自然」というテーマは、展示空間でも儀礼空間でも生活空間でも関わりがあるので、出せる時は出せます。
ただ、クライアントワークの時は、お客さんの要望が最優先されるので、その辺のバランスや、配分はその時々で変わる形です。プロジェクトごとで僕の態度も変わります。固い枠組みたいなのはなく、フレキシブルに仕事には向き合っています。

―ああ、だからこれまでのお仕事を見たときに、いろんなカラーを感じ取ったのかもしれないです。

小西:そうですね、ばらつきがあります、お客さんの色が出るので。だから、僕のホームページを見てくださったんだと思うんですけど、あれは過去に僕が作ってきたものでもあり、お客さんとお付き合いしてきた経歴でもあります。

個人の作家性というのは、アート作品には強く出ています。特徴とか色とか、そういう部分にばらつきがあるのは、そういう理由があります。

―そして今回もこの展覧会に合わせて、その引き出しをあけて、ここにいらっしゃっているんですね。

小西:梶原先生、本橋先生、前川先生と打ち合わせをして、会場を見て、ここはこうだねって話した上で決まっており、それを実現させるのが仕事なので。僕がこういう展示がいいよねって決定するわけではなくて、皆さんのその意思があっての最終的なプランなので、僕はそれを具現化するのをお手伝いしています。僕の何かを作ってるってわけではないってことですね。「具現化する」という技術屋さんでもあり、プランナーでもあります。そして現場を監督する人間であり、いろんな態度(立場)を取るので、その時々で仕事も変わります。

写真:永松紫杏
写真:永松紫杏

―お仕事から多様な印象を受けていたので、その舞台裏を感じられた気がします。

小西:その状況下、そこに参加される方たちに合わせて、僕はフレキシブルに、いろんな引き出しを提示して、必要なものを出していくっていう風に、立ち回ってるということです。現場下見を終えて、図面(3Dパースなど)を書きます。そしてキュレーターの先生方にお送りしています。本来、一般的にインストーラーはそこまでしないのが通例だと思います。

―なるほど

小西:一般的なインストーラーというお仕事は、この作品展示しますっていう、その部分を考える事が多いかと思います。僕はどちらかというと、展示という空間から作業を落とし込んでいきます。(3Dパースなどを書いて)全体を見るっていうのは僕にとっては必要な作業であり、図面作業、計画作業を大事だと考え、実施するのは建築や舞台というバックボーンがあるのと、それ自体が僕の特徴かもしれません。多様な仕事(ジャンルを超えた)を経験する中で、気づいたらこのようなスタイルになっていた感じです。

―ありがとうございました。

 

【インタビュー後記】
インタビューでは、小西さんの言葉はこれまでの経験を経て得た技術力に裏打ちされた重さを持っていると感じました。どのような空間を作っていくか?という要望に応じ出力する方法やその加減方法を多く持っているからこそ、そこに作品を置くだけでなく、建築、展示、舞台セットなどジャンルを越境することができるのだと実感しました。
改めてジャンルというくくりとは何か?空間を作るということは何か?という疑問に出会うインタビューでした。

 

【芸術館】

京都芸術大学 芸術館は、本学所蔵の4つのコレクションを軸に展示・保存・教育普及を行う博物館です。その主なものは、詩人の宗左近氏寄贈の縄文時代の土器、装身具、土偶などのコレクション257点、考古学者・江上波夫氏寄贈のシルクロード沿道の工芸品90点、京都芸術短期大学の元学長である大江直吉氏寄贈の浮世絵師・豊原国周の作品923点、伏見人形をはじめとする全国の土人形579点です。また、当館は博物館相当施設として認可されており、本学の通学・通信教育において博物館実習等にも活用されています。

 

 

「infinite journey 果てしのない旅」

 会期:2023年10月28日(土)〜2023年12月02日(土)
 時間:10:00〜17:00(入館は16:40まで)
 休館日:展覧会期外、展覧会期中の日曜・祝日・大学休止期間・大学入試期間
 料金:無料
 予約不要
 会場:京都芸術大学 芸術館
 主催:京都芸術大学 学園美術品活用委員会
 共催:京都芸術大学 芸術館
 https://kyoto-geijutsu-kan.com/
 キュレーター:本橋弥生(芸術教養センター)
       梶原誠太郎(芸術教育資格支援センター)
 グラフィックデザイン:Meander 塚野大介
 インストール:たま製作所 小西由悟
 協力:前川志織(芸術教育資格支援センター)
 本学アートプロデュース学科学生:傳田結香、秋本麻帆、稲葉侑生、竹内久美子、若月彩名、村上太基

 

 

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