REPORT2023.11.15

共に生き、共に進化する―TEDxKUA 2023イベントレポート

edited by
  • 上村 裕香

10月7日(土)、京都芸術大学のリアルワークプロジェクト「TEDxKUA」が主催するイベント「TEDxKUA 2023」が京都芸術劇場 春秋座で開催されました。

TEDとはTechnology Entertainment Designの略で、テクノロジー、ビジネス、そのほかの多様な分野においての価値のあるアイデアを広めるため、毎年大規模な講演会「TED Conference」を開催している米国の非営利団体です。
TEDxはTEDの精神に基づき世界各地で独自に開催されているイベントで、学内のリアルワークプロジェクト「TEDxKUAプロジェクト」の一環として開催されました。リアルワークプロジェクト(社会実装プロジェクト)とは、企業や自治体が抱える課題をアート・デザインの力で解決し「学生自身が社会とつながる」本学の名物プログラムです。
TEDxKUAでは「TEDxKUAプロジェクト」第2期メンバー7名が主体となって、4月のキックオフから10月のイベント開催に漕ぎつけました。

なんとこの「TEDxKUAプロジェクト」、7名全員が本学の1年生。昨年開催された第1回TEDxKUAのテーマ「冒険と実験」から一新し、今年度のテーマは「進化〜progress〜」。
「来てくださったお客さまがイベントを通してなにか変化や進化を感じ、その後の生活で行動が変わるようなきっかけづくりになれたら。そのために、プロジェクトのメンバーで『自分自身がこの人のアイデアを知りたい!お話を聞きたい!』と思う方のお名前を出し合い、『進化』というテーマに合致する方をお呼びした」と映画学科 映画製作コースの志満奏美さん。
アーティスト、教育者、コミュニケーションデザイナーなど多彩に活躍する4名のスピーカーを招聘しました。

 

当日は、学内和太鼓サークル「悳」の演奏からスタート。通学課程だけでなく、通信教育課程や大学院、京都芸術デザイン専門学校の学生40名以上が所属するサークルです。今回は20名の学生が出演しました。
一曲目は客席まで大きな熱量の伝わってくる『燦』、二曲目は篠笛の流麗な音色や演舞も加えての『一会』を演奏。身体の芯まで響く音に、会場からは大きな拍手が贈られました。

 

1人目のスピーカーはコミュニケーションデザイナーの黒羽さえりさん。「ディスレクシアで文字を読むのが苦手だったり、周囲に馴染めなかったりしたけれど、演劇に出会って『自分の思っていることを表現できる世界があるんだ!』と思った」といいます。

「わたしはなにをするために地球に生まれてきたのか?」というテーマで、「自分自身の機能を自分の冒険に使わないなんてもったいない! あなたのいいところは周りの人に探してもらいましょう! In Progress !」と、自分自身の「機能」を受け入れ、ひらめきを語ることの効能を語ってくれました。

 

次に登壇した鈴木克治さんは、38年間公立中学の国語教諭を務め、現在は現代版寺子屋「尽心塾京都伏見」を主宰しています。「60歳定年が来たとき、『人生の折り返し地点が来た!』と思った」と鈴木さんがいうと、会場からは笑いが。

ワクワクしたいと思い立ち上げたのが「尽心塾京都伏見」でした。他業種の人々とつながりをもちながら、現在までに、29回のセミナーを開講しているといいます。なぜそういった活動をしているのか? 鈴木さんはこう語ります。
「『萩に来て ふと おもへらく いまの世を 救はむと起つ 松陰は誰』。萩市にある吉井勇歌碑に刻まれている短歌です。吉田松陰が松下村塾で教えていたのは数年のことだと言われています。それでも松下村塾からは久坂玄瑞や入江九一などが輩出された。わたしはこの歌を読んでこう思いました。いまの世をつくるのはだれだ? ——わたしは、いまの世の中をつくるのは、ひとりひとりだと思う。わたしであり、あなただと思ったのです。ひとは『微力だけども、無力じゃない』んです」

3人目のスピーカーはSNS上で精力的に活動しているアーティスト、川端美由さん。川端さんは個性的なメイクを否定されたり、「普通な格好しなよ」と親戚に言われたりといったエピソードから「普通ってなに?」と思ったと語ります。

「だって、美由はあいさつできるし、ありがとうも言える。美由のメイクや個性を理解できなくてもいいけど、否定も肯定もする必要ないでしょ? 美由は『見た目だけで中身がない』ってこととか、『一重であること』とか、コンプレックスがあったけど、『見た目個性的で、中身普通の関西人ってギャップ萌えやん!』とか『一重を生かすメイクがあるやん!』とかって気づけた。傷ついたからこそ気づけることってあると思う」
そんな川端さんが会場のみなさんに伝えたい一番のことは「あいさつすることってすごい大事!」。人にあいさつや感謝をするという当たり前に思えることが、人生を変えると語った川端さん。降壇時には「ありがとうございました!」のコールアンドレスポンスで会場を沸かせていました。

最後に登壇されたチャールズ・リンゼイ(Charles Lindsay)さんは時間やテクノロジー、生態系などのアイデアから作品をつくりだす、インターメディアアーティスト。プロジェクト担当教員である川向正明先生が聞き手となり、「技術革新によって人間は進化できるか? 人間の意識とは?」についてお話しいただきました。

とくに会場がどよめいたのは、枯山水のど真ん中にパーキングメーターが設置された画像がスクリーンに表示されたとき。「パーキングメーターは車を停める機能がありますね。時間と空間を売っているものです。タイムとスペース。枯山水の象徴する永遠と、タイム。そしてパーキングメーターは機械ですね。そこから『もしこれに意識があって、生きているように動いたなら?』というIF、問いかけがでてくる」とリンゼイさんが説明すると、会場からは「おおー」と感嘆の声が。
人間の進化、意識について考える新たなアート作品を生み出すリンゼイさんは、「次の問いはあなたたちの中から生まれる」といいます。「アートは質問を投げかけるものです。受け取った側は自分の身体性を通して、考え、新たな問いが出てくる。そうした問いや答えがでてくるプロセスは、AIの中にはないものです。人間がAIを使ってどう進化していくか。AIとどう共に生きていくか。これがわたしの新たな問いかけです」

 

アフターパーティーでは京都芸術大学 人間館1階のカフェスペースで軽食をとりながら、来場者もスピーカーもスタッフも入りみだれての交流会が行われました。カフェスペースの一角、春秋座側の壁には大きなXの文字が。大きなXに貼られたたくさんの付箋には、参加者からのセッションの感想や『進化』というテーマへの思いなどが書きこまれていました。
来場者からは「鈴木さんのお話を聞き、教育はいつでもどこにでもいけると感じた」「川端さんの『あいさつが大事』という話が印象に残った。日常への着眼点が変わった気がする」「イベント全体を通して、『進化』ということについて考えて、自分の中でも変化が起こったと思う」といった感想が寄せられました。

付箋に書かれていたメッセージ

今回のイベントを、芸術教養センター 岡村暢一郎准教授は「ゲストのトークを通じて、自分たちの生き方を振り返る時間になったのではないか」と振り返ります。
「昨年2月、チャットGPTの登場や世界情勢の変化によって、もう右肩上がりの成長は望めない社会が来たのではないか?と考えさせられました。停滞する現代社会においての『進化』とはなんだろう?というところから、『progress』をテーマに今回のTEDxKUAをやろうと川向先生と話していました。このイベントは、わたしたちの足元を見つめ直す、人生を考える機会になったんじゃないでしょうか」

 

京都芸術大学 Newsletter

京都芸術大学の教員が執筆するコラムと、クリエイター・研究者が選ぶ、世界を学ぶ最新トピックスを無料でお届けします。ご希望の方は、メールアドレスをご入力するだけで、来週水曜日より配信を開始します。以下よりお申し込みください。

お申し込みはこちらから

  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

お気に入り登録しました

既に登録済みです。

お気に入り記事を削除します。
よろしいですか?