COLUMN2017.01.11

京都

底冷と京都盆地の気象 ―瓜生山歳時記 #5

edited by
  • 尾池 和夫
  • 高橋 保世

 身体の真底まで冷えることをいう冬の季語「冷たし」の傍題が「底冷」である。皮膚に直接感じる寒さで、京都盆地の底冷はひとしおである。
 盆地には成因によって浸食盆地、撓曲盆地や断層盆地などの構造盆地、火山活動によるカルデラ盆地、隕石の衝突によるクレーターなどがある。盆地では沿岸部より気温の日差や年差が大きく、海洋と隔離されているため空気が乾燥しており降水量が少ない。盆地の地形は防御という面で優れており、平坦な土地であるため古くから都市が発達した。
 京都盆地は典型的な活断層盆地である。前回も述べたように、都が長期間おかれたにもかかわらず世界的に見て珍しい、城壁のない都であった。

なつかしき京の底冷え覚えつゝ      高浜虚子

 京都は底冷の町と昔から言われる。最低気温の記録は1891(明治24)年1月16日の摂氏零下11.9度である。明治や大正の時代には最低気温が摂氏零下10度よりも低い年がたびたびあった。京都気象台は京都御苑の中に置かれ、現在の京都市中京区西ノ京笠殿町に移転したのは1913(大正2)年12月だった。零下10度以下の最低気温の記録は京都御苑内の記録である。
 比叡颪や北山颪という言葉がある。颪は国字で、太平洋沿岸一帯にある冬の風である。低いレベルに気温の逆転層があるときに山頂から吹き降ろす滑降風をいう。瓜生山学園の本部は京都の上終町、すなわち京都盆地の北の端にあって、寒中の比叡颪を受ける場所にある。

底冷の京に地震のニュースかな       和夫
 

<文:尾池和夫、写真:高橋保世>

 

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  • 尾池 和夫Kazuo Oike

    1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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