REPORT2023.03.13

歴史教育

時代と国境を超えて、詩が繋ぐもの。― 詩人・尹東柱追悼献花式

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  • 京都芸術大学 広報課

韓国の国民的詩人である、尹東柱(ユン・ドンジュ)という人物をご存じでしょうか。尹東柱は1942年に学業のため日本に渡り、同志社大学で学びながら、民族の独立と平和を祈念して詩を創り続けたことで知られています。留学中は本学の瓜生山キャンパス高原校舎の地にあった「武田アパート」に下宿。1943年7月14日、この場所で治安維持法違反容疑により逮捕され、1945年2月16日に福岡刑務所の獄中で帰らぬ人となりました。尹東柱は戦争の終わる半年前、わずか27歳で不条理にもその生命を奪われたのです。戦時下の暗い時代に若者を襲った象徴的な事件でした。

本学では詩人尹東柱を想い、2006年に高原キャンパスに尹東柱詩碑を建立。毎年、命日の2月16日には駐大阪大韓民国総領館総領事をはじめ多くの関係者の方にお越し頂き、詩碑前にて平和な世界が築けることを祈念する追悼献花式を開催しています。

献花する吉川左紀子学長
今年も多くの方々にご参列いただきました


今年は追悼献花式と併せて、2019年度映画学科卒業生 孫章煕(ソン・ジャンヒ)監督作品の尹東柱ドキュメンタリー映画『高原』の上映会が実施されました。冒頭では上野潤先生より、本作にご出演されている歴史遺産学科 元教授の仲尾宏先生についてご紹介。詩碑建立や追悼献花式にご尽力いただいた仲尾先生がご逝去されたことを受け、尹東柱のご遺族である尹仁石(ユン・インソク)さんから感謝とお悔やみの言葉を添えたメッセージをいただきました。

司会を務める上野潤先生
会場では当時の高原の資料を展示
武田アパートの写真
2階端の部屋に尹東柱が下宿したと言われています


吉川左紀子学長のご挨拶では、尹東柱の詩碑が建てられた際に、徳山詳直前理事長が建立に寄せて書かれた言葉が紹介されました。

「尹東柱さんが生きた時代は暗い時代でした。しかし私たちが生きているこの世界も、決して明るいとは言えません。世界中で、戦争や飢餓、あるいは絶望的な事件の数々が、子どもたち、若者を苦しめています。いかにして、人間の深い愛情と信頼を取り戻し、平和な世界を築いていくのか。芸術は、人々の幸せのために、どのような役割を果たせるのか。それを考え実行するために、この大学は存在しています」

吉川学長は、「今回の上映会を契機に、本学の使命としての世界平和の構築や、人間の幸せのために芸術がどうあるべきかということに関心を持ち続ける学生を育てていけたら」と話され、ドキュメンタリー映画『高原』が上映されました。

 

ドキュメンタリー映画『高原』(2020)

2019年度京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)映画学科卒業制作作品(監督:孫章煕)
2019年度京都市左京区まちづくり活動支援交付対象事業 大学のまち部門

詩人・尹東柱(ユンドンジュ)。亡くなって70年以上経つが、彼の詩は今も愛され続け、また新たに詩に触れた人たちに詩の面白さを教えてくれる。
彼の詩は、読んだ人たち一人ひとりに違う考え方が出てきて非常に奥が深い。尹東柱の詩を通して昔と今、人と人が繋がれる。
この映画は一つの考え方を映像にしただけのものであり、観た後に誰かがまた違った考え方を発見して欲しいと思う。

公式サイト:https://songumi2019.wixsite.com/takahara

孫 章熙(ソン ジャンヒ/Shon JangHee)

1991年 韓国生まれ
2020年 京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)芸術学部映画学科映画製作コース 卒業

卒業作品 ドキュメンタリー映画『高原たかはら』(2020)監督

ドキュメンタリー映画『高原たかはら』(2020)上映活動
- 2020年2月8日 京都国立博物館 特別上映会
- 2020年6月1日~12日 駐大阪韓国文化院 2020韓日学生美術交流展 上映
- 2020年9月25日~10月4日 2020京畿フィルムスクールフェスティバル 海外学校部門 上映
- 2021年2月11日~21日 詩人尹東柱振り返り 追悼上映会 聞慶cafePICO
- 2021年11月5日 済州ローカル美学LAB「家と記録-人類税の家」ドキュメンタリー『高原たかはら』上映
- 2021年11月3日~14日 平澤市立べダリ図書館 2021尹東柱週間 上映
- 2021年11月23日~29日 MonTtak Art Space文化芸術講座総合発表会 上映
- 2021年12月7日~17日 平澤市立安仲図書館 12月、私たちのそばにいる尹東柱 上映
- 2022年2月16日 仁川文化財団韓国近代文学館 六畳の部屋の詩人尹東柱77周忌を迎え 上映
- 2022年6月24日~7月24日 仁川官洞ギャラリ尹東柱を愛した書道家·田中佑雲作品展 上映

作中では尹東柱の遺作である詩集『天と風と星と詩』を主題に、尹東柱を研究している方々や、高原の地域で暮らしていた方の証言を通じて、尹東柱という人物や当時の情勢について語られています。監督の孫章熙さんは、上映を終えて次のように話されました。

「詩人尹東柱を知らない方には、日常である場所の高原と詩人との繋がりを、尹東柱を知っている方には、詩を書いた場所であるアパートと現在の繋がりをお伝えしたいと思いました。尹東柱の取材を映画にしたきっかけは、韓国人である自分自身が、高原が下宿した場所だと知らなかったことから。アパートがあった場所で学生たちが学んでいるという事実を、高原校舎に建てられている詩碑を通して知ることができました。尹東柱を偲んで研究する方々にお会いして、このような活動を続けられているのは詩が残っているからだと存じます。作品を通して気付いたことは、詩を書いた当時に対してメッセージを伝えるだけでなくて、現在である未来に対してもメッセージを伝えようとしていることです。詩はハングルで書かれていますが、国境を越えていると思います。このメッセージが映画を通してご覧になった方々に少しでも伝わっていると嬉しいです」

孫章熙監督によるご挨拶
上映の様子
詩碑にある尹東柱の代表作『序詩』は映画の冒頭で朗読されます


没後70年以上経つ今でも、詩人尹東柱のことばは広く人々の心に響き、愛され続けています。詩碑に刻まれた『序詩』の中には、このような一節があります。「星をうたう心で 生きとし生けるものをいとおしまねば そしてわたしに与えられた道を 歩みゆかねば。」詩から伺える尹東柱の考え方や生き方は、時代や国境を超えて私たちの平和への歩みを導いてくれるものではないでしょうか。追悼献花式やドキュメンタリー映画『高原』をはじめ、尹東柱を愛する方々の活動が、これからも平和への道の一助となることを願っています。

 

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